私の実践・私の工夫(理科)
顕微鏡は「理科大好きっ子」への道しるべ
はじめに
私は,奈良県小学校理科教育研究会(以降,奈小理)に所属しています。奈小理では,
- (1) 研究指定校を中心に学習指導の研究,
- (2) 奈良県の統一理科学力テストの作成と結果の分析,
- (3) 奈良教育大付属小学校を会場に,研究部の実践報告と教職員向け実技講習会の開催
等を行っています。
そしてまた,自分が所属する学校の特別支援学級に在籍する子どもたちについてはもちろんのこと,学習面や行動面に様々な困難を抱える子どもたちについて,「支援を要する子」として全職員で共通理解をはかって,一人ひとりの実態や課題に応じたよりきめ細やかな教育支援が行えるように,授業の進め方について研究を続けている最中でした。
そこで私は『特別支援教育の視点』を取り入れながら,理科の授業でどのように一人ひとりのニーズに応じた教育を進めていくことができるのかということについて研究したいと考えました。そして,24年度は5年生の「メダカの成長」の単元の中から「水中の小さな生き物」を取り上げ,研究に取り組みました。
以下の記録はその研究成果の中から,(3) の教職員向け実技講習会用に短く要約したものです。
1.この研究のポイント
- 死んだプレパラートより生きている実物!観察に適した生物って,何があるのだろう?
- 先生自身に,もっと顕微鏡の楽しさを知ってもらいたい!まず先生に新鮮な感動を!
- 顕微鏡と何かを組み合わせると,もっと楽しいことができるのでは?
- 顕微鏡を使う授業の問題点って何だろう?どの子も上手に使えるようになるには…?
2.生きたプランクトンの有用性
テレビやパソコンで見たい画像がいつでも手に入るこの時代,子どもたちは動かないプランクトンのプレパラートを見て,知的好奇心をくすぐられるでしょうか?子どもたちはリアルに動く生き物に対し無条件に興味を示します。しかし,どこでも生きたプランクトンが手に入るわけではありません。よしんば生息場所を見つけてプランクトンを見せようとするとこんなことになります。
【 実験で顕微鏡を観察に使ったときのワンシーン(1) 】
Aさん:「先生~,見たけど何もいませーん」
Bさん:「先生~,よく見えませーん」
●これらの原因は顕微鏡の持つ特性「視野の狭さ」にあります。
大ざっぱに言うと,40倍の時に見えている範囲は・・・約3mm
100倍の時は,なんとたったの・・・約1mm
そんな狭い範囲の中に,子どもの知的好奇心を満たすだけのプランクトンを入れようと思えば,『プランクトンの密度を上げる』のが一番です。
- (1) とにかく楽チンコース・・・「ブラインシュリンプ」(別名:アルテミア又はシーモンキー)
お皿に3%の塩水を作って卵を少しまくだけ!24時間で大量のプランクトンが大発生 ! ! - (2) けっこう楽チンコース・・・「ブレファリズマ」(別名:赤ゾウリムシ)
タッパに入れて戸棚にしまい,月に一回米粒を2~3粒あげるだけ! - (3) 月2お世話コース・・・「ボルボックス&プレオドリナ」
月に一回か二回ネットで漉して,水で洗って元の容器に戻して,液体肥料を投入
自分で育てれば,好きな密度で提供できます。
★プランクトン飼育の大原則
- (1) 「2セット以上作る」ある日突然,全滅・・・よくある事です。
水換えも片方ずつ,一週間ぐらいあけて行いましょう。 - (2) 「なるべく大量に飼育する」1000→100 100→10 10→1
一度減ったとしても回復の速さが断然違います - (3) 「増えすぎ = 絶滅」たとえ肥料等を与えたとしても,
ボルボックスなどの大きな植物性プランクトンはピークを過ぎると減っていきます。
絶滅させないためには「植え継ぎ」という手法が必要なのです。
◎プランクトンの入手先の一例(この他にも,都道府県の教育研究所でもらえる場合があります)
3.顕微鏡は工夫すればもっと楽しく実験できる
「顕微鏡をバージョンアップ (1)」
(1) 落射照明(ステージ上方からの照明)を追加する。
落射(側射)光源を用いることで,対象物の色が鮮明になり,像に影ができ,立体的に見えるようになります!光源は百円均一ショップのもので充分です。
「顕微鏡をバージョンアップ (2)」
反射鏡をLEDライトに交換する
反射鏡を取り外し,LEDライトに交換すれば,電球特有の黄色っぽい光がクリアな白色になることで,より対象物の色が鮮明に!
古い顕微鏡用ライトも,豆電球をLEDタイプに交換すれば,安い費用で効果をあげることができます。
「顕微鏡をバージョンアップ (3)」
プレパラートを使わず「デモスライド」を使う。
一本たったの63円!
4.どの子も顕微鏡を上手に使えるようにする手立て
【 実験で顕微鏡を観察に使ったときのワンシーン (2) 】
Cさん:「先生~,使い方がよくわかりませーん」
Dさん:「先生~,隣の子が替わってくれませーん」
●Cさんのような児童が多発する大きな原因は,顕微鏡を使った観察は,使う物の小ささや手順の多さから説明が難しく,しっかり使い方を理解しないまま実験に望んでしまうことだと思われます。そんな時,私が試行錯誤した中で有効だったのは「デジタル教科書」です。
【 デジタル教科書のメリット 】
(1) 手元の小さな操作を大画面の動画で説明できる
プレパラートの作成など今まで一度児童を前に集めて説明していたようなことも,大きな画面で見ることで,前に集める必要が無くなり,観察をスムーズに始められます。
(2) 教科書を出さないので机が広々使える
実験には危険を伴うものがいくつもあります。
リスクマネジメントの観点からも,机の上はすっきりさせてから取り組む方が良いと思います。
(3) 画像コンテンツが充実
もしうまく観察できなかった場合でもたくさん有る画像コンテンツの中から必要なものを呼び出して見せるのも簡単です。
(4) 自分で準備した資料ともリンク
観察に使う自作のワークシートなども,あらかじめリンクさせておくことで,デジタル教科書を閉じることなく展開して説明することができます。
できあがったものをただ使うのではなく,児童の状態に合わせて自分で見つけた画像や自作のファイルを付け加えて使うことで,児童の理解を高めることができます。
●顕微鏡は一人一台が理想
(1)解剖顕微鏡も双眼実体顕微鏡も総動員!
解剖顕微鏡は10~20倍,双眼実体顕微鏡は20~40倍程度ですが,シンプルで直感的に使えるとか,立体的で視野が広いなど,それぞれにメリットはあります。うずうずする知的好奇心が冷めないように,準備は大変ですがメンテナンスして使えるようにしておく事は大切です。
(2)高価な顕微鏡 ≠ 良い顕微鏡
今回実技講習会に向けて一台顕微鏡を購入したのですが,1万円台でも充分実用に耐えることがわかりました。多少LEDのスイッチの接点不良が気になるものの,理振などで購入すれば顕微鏡の収納棚と一緒に購入しても20台ほど買えてしまいます。
おわりに
この取り組みは昨年度の奈小理実験実技講習会についてまとめたものです。今年度は「LEDとコンデンサの基礎」について講習をしました。この講習の後,数組の先生方からデモスライドについての質問を受けました。一年たっても覚えてくださっていることに感動し,これからも先生方の理科の授業に役立てる物や手法について発信していきたいと思います。小学校では理科好きな子は多いけれど,中学校に行ったら減ってしまうという話をよく聞きます。私の私見としては,本当に理科が大好きな子は,中学校でかなり難しくなっても理科が好きでいてくれると信じています。そんな理科大好きっ子を増やすために,奈小理の一員として研究に取り組んでいこうと思います。