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私の実践・私の工夫(理科)

因果の見方・考え方をはぐくむ理科授業
~5年「電磁石のはたらき」を通して~

5年

千葉大学教育学部附属小学校 田中 秀明

1.これまでの問題点

資料1 電磁石につくマグチップ

教科書を見ると「ストローにエナメル線を巻いて,ストローに釘を入れましょう。」と電磁石作りから入っている。そして,電磁石の巻き数や電流の強さを変えて,電磁石の強さを調べる活動が中心となっている。児童は電磁石の仕組みもわからずに,単元を終えていく。ここでこの単元の問題になっていることは2点ある。

  • ① 電磁石の仕組みである「コイルに電流を流すと強い磁場ができ,この中に釘を入れると磁化されて釘が磁石になること」が理解されていないこと。
  • 電気と磁気の区別がつかない児童が多いこと。つまり,強い電磁石を作るときには「エナメル線のエナメルをはがし,釘に直接巻く」と考える児童が多いということ。

そこで,子どものわかり方に着目して,実験結果とその原因の関係付けをしながら,電磁石の仕組みを理解するための単元の流れを見直していきたい。また,この単元で使われている教材にも着目したい。

2.系統的なつながりからこの単元を見る

資料2 離れていても磁石になる針の様子
資料3 コイルと磁石で発電してLED電球の明かりをつける

3年「じしゃくのふしぎをさぐろう」→4年「電気のはたらき」→5年「電磁石のはたらき」→6年「発電と電気の利用」と磁石の単元はつながっている。ただ,系統的に関係しているというと簡単なことであるが,どこがどのようにつながっているかが重要である。

まず,3年「じしゃくのふしぎをさぐろう」で捉えさせたいことは「磁石に直接ついていなくても,鉄を磁化できる」ということである。つまり,児童の言葉で言えば,「磁石のレーダーの中に入れば,針は磁石になる」ということである。

次に,5年「電磁石のはたらき」で捉えさせたいことは電磁石の仕組みである「コイルに電流を流すと強い磁場ができ,この中に鉄を入れると磁化されて鉄が磁石になる」ということである。

そして,6年「発電と電気の利用」で捉えさせたいことは発電の仕組みである「磁石の磁力とコイルを作用させること(コイルの中に磁石を動かしながら通すこと)で電流が流れる」ということである。つまり,電磁石の仕組みと反対のことをすれば電気が作れることである。

この3つの単元がそれぞれ系統的に知識としてつながっていることによって,「電磁石の仕組み」や「発電の仕組み」の理解につながっていくのである。

3.授業の実際

(1)単元の流れと気付かせたい,捉えさせたい事実

電磁石の仕組みを捉えるためには,「電流が流れると磁力が発生すること」との出会いをじっくり時間かけていくことが重要である。児童にとって電気から磁気が生まれることを理解することはそんな簡単なものではないからである。そして,コイルに巻くことによって1本に生まれた磁力が強い磁場をもつことの理解につながるからである。

時数 学習内容 気付かせたい,捉えさせたい事実
1本の導線の周囲に生じる不思議な力(磁力)を方位磁針で調べる 【事実】導線すべての場所に不思議な力が生じる
【事実】電流を流さないと不思議な力はでない
【事実】乾電池を増やすと方位磁針の振れが大きくなる
【事実】乾電池の向きを変えると針の向きが反対になる
1本の導線の周囲に生じる不思議な力(磁力)を調べよう。永久磁石との比較 【事実】永久磁石を近づけると吸引や反発をする
【事実】永久磁石の極にはつかず,磁石の横にエナメル線はつく
【事実】導線を鉄粉にしずめるとマグチップはつく
【事実】導線を近づけただけではマグチップはつかない
【事実】マグチップは導線に1本ではつかない
【事実】不思議な力は紙やプラスチックもつきぬける
【事実】エナメル線に鉄粉をまくと横向きの線(磁力線)が出てくる
【事実】鉄に近づけても,鉄は磁化しない
導線に発生した磁力を強くして鉄を磁化させる
・電池の数を増やす
・エナメル線をはがす
・エナメル線の形を変える
【事実】電池の数を増やすとマグチップのつく量が多くなる
【事実】エナメルをはがしても,マグチップのつく量は変わらない
【事実】導線を同じ方向で巻く(コイル状)と磁力は強くなる
【事実】導線を同じ方向で巻く(コイル状)と鉄を磁化させることが
     できる
【事実】導線を束ねたり,塊にしたりしても磁力は強くならない
【事実】コイルにも内側や外側に磁力が出でいる(磁力線)
コイルのどこに鉄を近づけるとよく磁化するのか調べる 【事実】コイルの内側がよく鉄を磁化する
【事実】コイルの真ん中の方が鉄の磁化が強くなる
コイルに発生した磁力を調べる 【事実】コイルに磁石を近づけると吸引・反発する
【事実】コイルの上から鉄粉をまくとコイルの内側から外側に
     磁力線が広がっている
【事実】コイルにも極(N極・S極)がある
【事実】電磁石(鉄心)には極がある
【事実】電流の流れ方によって電磁石(鉄心)の極が変わる
電磁石の性質を調べる 【事実】電磁石(鉄心)には極がある
【事実】電流の流れ方によって電磁石(鉄心)の極が変わる
電磁石の強さについて調べる
【比較実験・条件制御】
【事実】電池の数を増やす(電流大)と磁力は強くなる
【事実】コイルの巻き数を増やすと磁力が強くなる
【事実】導線の太さを太くする(電流大)と磁力は強くなる
【事実】導線を短くする(電流大)と磁力は強くなる
電磁石の性質を用いたおもちゃの動く仕組みを考える 【事実】電流が流れるとコイルに極が発生し,磁石と反発する
【事実】電流が流れると磁力は発生する 
動きの大きなおもちゃに改良する 【事実】コイルの巻き数を増やすと磁力が強くなる
【事実】電流の強さを強くすると磁力は強くなる
【事実】導線の太さを太くすると磁力は強くなる
【事実】電流を強くすると磁力が大きくなる

(2)児童の様子

【1時間目 ~1本の導線の周囲に生じる不思議な力(磁力)を様々なもので調べる~】

電流が流れると光や熱に変わることは諸感覚を通して捉えられる。しかし,磁気は諸感覚では捉えることができない。それだけ,児童にとって磁気に気付くということはそんな簡単なものではない。導入として,エナメル線に乾電池をつなげて,児童に提示し,理科室にあるものなら何でも使っていいから,エナメル線に起きていることを調べさせた。児童は永久磁石,温度計,方位磁針,クリップ,鉄粉,釘などを使って調べる。

  • エナメル線に方位磁針を近づけると方位磁針の針が動く。
  • エナメル線に直接,温度計をつけてもあまり温度は変わらないけど,手で触ると少し熱かった。
  • 鉄粉はエナメル線にのったのか,ついたのかわからないけど,少しついた。
  • 永久磁石についた。でも,少し反発しているような気がする。
  • クリップや釘はつかない。
  • 工作用紙の下にエナメル線をつけて鉄粉をまくと,磁力線のような横の模様が出た。
  • 電流を切ると方位磁針の針がもどる。

児童は電流を流すとエナメル線の周りに不思議な力が出ていることに気付く。しかし,「磁石の力(磁力)だと思うけど,よくわからない。」という児童も多く見られた。

【5時間目 ~鉄に近づけても,鉄は磁化しない。永久磁石との比較~】

クリップを使用して鉄を磁化することができるか調べた。しかし,エナメル線に近づけても,つけても,クリップを磁化することができなかった。(1つの班では,すでに学習していたのか,すぐにクリップにエナメル線を巻き付け,鉄粉がつくことを確認していた。)児童は「きっと不思議な力は磁力が弱い。磁力を強くすれば鉄を磁化することができるのでは。」と考えた。そこで,不思議な力を強くする方法を考えた。

  • ① 電池の数を増やす(電流の強さを強くする)
  • ② エナメル線のエナメルをはがす(電流が流れるということや,できるだけ近づければ鉄が磁化できるという考えから)
  • ③ エナメル線の形を変える(エナメル線の不思議な力はどこにでも出ていたから,形を変えれば,不思議な力を集めることができるのではないかという考えから)

【6時間目 ~導線に発生した磁力を強くして鉄を磁化させる~】

エナメル線のどこにでも不思議な力が出ていたのだから,上手く集めれば強くなるはずだと考えた児童は,様々な形を考え始めた。その中で,3種類の形の考えが出た。「①1つの塊にする②折りたたんで束にする③同じ方向に巻く」である。

資料4 ①1つの塊にする  資料5 ②折りたたんで束にする  資料6 ③同じ方向に巻く

結果③にクリップを近づけたときによく磁化していた。また,①の間に入れたときに少し磁化していた。①が少し磁化したのはどうしてか考えさせると③との共通点に気付く児童が出てきた。それは,同じ方向に巻いている部分があるということである。きっと,エナメル線を塊にしたときに同じ方向に巻いている部分があったのではないかという考えからである。しかし,③を試していた班でなかなかクリップが磁化しなかった班があった。同じ方向に巻いたコイルでも,場所によって磁化しやすい場所があるのではないかと考え始めた。

【7時間目 ~コイルのどこに鉄を近づけるとよく磁化するのか調べる~】

前時からの流れでコイルのどこに鉄を近づけると鉄はよく磁化するのか調べることとなった。児童から出てきた予想は以下の5つである。

資料1 電磁石につくマグチップ

結果より,AとCがよく鉄の棒にマグチップがついた。共通点から「コイルの内側に鉄の棒を入れれば鉄はよく磁化する」ことがわかった。そして,なぜコイルの内側に入れるとよく磁化したのか班ごとに考察させた。Aについては,周りに出た磁力が中心に集まりやすいのではないかと考えた。また,前時コイルの磁力線を観察し,コイルの内側は鉄粉が立っていた。だから,コイルの内側は磁力が強いのではないかと考えた児童は,磁力の強いところに鉄を入れたから,鉄はよく磁化したと考えた。そして,「鉄がよく磁化したのは,鉄をコイルに直接付けたからではなく,コイルから出る磁力が強いところ,磁力が集まりやすいところに鉄を入れたからである」と児童は捉えていった。

しかし,コイルの内側の磁力が強いということは児童の捉えとして弱いことに気が付いた。そこで,次時にコイルの内側の磁力が強いなら,永久磁石のように極ができているのではないかと児童との話し合いの中で投げかけた。

(3)教具の選定

【7時間目 ~コイルのどこに鉄を近づけるとよく磁化するのか調べる~】

コイルの直径と太さ,マグチップがつく量

資料1 コイルの太さ0.6mm,コイルの直径4cm 写真7 コイルの太さ0.4mm,コイルの直径4cm

電磁石の仕組みに気が付くためにはコイルの直径とエナメル線の太さが重要である。この時間に気が付いてほしい事実は「エナメル線に直接触れていなくても,コイルの内側に鉄を入れれば,鉄はよく磁化する」ということである。そのためには,コイルの直径は小さすぎるとエナメル線に鉄が触れなくても磁化することに気が付きにくい。また,エナメル線の太さは細すぎると鉄が磁化しているのかマグチップのつく量で比較しにくい。(資料7 コイルの太さ0.4mm,コイルの直径4cm)そこで,ベストのコイル直径とエナメル線の太さはコイルの直径は4cm,コイルの太さは0.6mm(資料1 コイルの太さ0.6mm,コイルの直径4cm)がよいだろう。