授業実践記録(化学)
ビニール袋を二酸化炭素でいっぱいにしよう
~主体的に量的関係を理解しよう~
1.はじめに
高校に入学して化学を本格的に学んでいくうえで,化学反応式の意味や物質量(モル)の概念を理解することは非常に重要である。通常の実験では,決まった量の薬品を用いて生成した物質の質量を測定し,実際に起こった反応を化学反応式で表すことでモルの概念を理解させ,量的な関係が成り立つことを理解させることが多い。しかしながら,与えられた薬品や決まった量での実験では,機械的に計算することが目的になってしまう傾向がある。そこで,身近な気体である二酸化炭素を発生させてビニール袋をいっぱいにしようという課題を設定し,使用する薬品やその量,必要な実験器具や実験方法など,そのほとんど全てを生徒自らで考えさせ,物質量の概念を理解することで量的な関係を活用できることに気づかせることを目的にして,生徒が主体的に考えて実践する実験を行った。
2.授業の進め方
- ① 3人グループを作り,各班に食品保存用のビニール袋(チャック付きで体積650mLくらい)のみを配って,ビニール袋を二酸化炭素でいっぱいにするための方法を議論する。
- ② 方法論についてその理由も含めて情報交換し,実験室で可能な方法を探る。
<考えられた方法>
・ ベーキングパウダー(炭酸水素ナトリウム)を加熱する
・ 卵の殻やチョーク(炭酸カルシウム)と塩酸を反応させる
・ 紙を燃やす
・ ドライアイスを昇華させる など - ③ 各班で実験方法を決定し,必要な薬品とその量や実験器具等を考え,実験装置図を作成する。
- ④ 1回目の実験を行う。
- ⑤ 問題点を指摘し,改善策を考える。
- ⑥ 2回目の実験を行い,1回目同様問題点と改善策を考える。
時間の許す限り同様の手順を繰り返し,より正確な実験を追及する。
※ 実験方法および用意した薬品・実験器具
6.0mol/L塩酸,炭酸カルシウム,炭酸水素ナトリウム,二股試験管を準備し,それ以外の実験器具等は各班で決める
3.1回目の実験
実施班(8班)中,6班は塩酸と炭酸カルシウム,2班は炭酸水素ナトリウムの加熱により,1回目の実験を行う。
<一般的な実験手順>
- ① ビニール袋の体積を測定する。
袋を水でいっぱいにし,メスシリンダーで水の体積を測定 - ② 化学反応式を作り,量的な関係を考えて二酸化炭素でビニール袋をいっぱいにするために必要な薬品の量を計算する。(ただし,標準状態として考える。)
- ③ 実験装置を組み立てて実験を行い,二酸化炭素を回収する。
<回収方法>
水上置換(4班) 下方置換(4班) - ④ 二酸化炭素であることを確認する。
<確認方法>
石灰水を入れる 火のついた線香を入れる 袋に水を入れて気体を溶かした水溶液をリトマス試験紙につける など
4.問題点および改善策の考察
班で問題点を指摘して改善策を探り,より正確に実験する方法を考える。
<主な問題点および改善策>
- ① 下方置換では袋がいっぱいにならない
→ 水上置換に変更する - ② 計算で求めた量では袋いっぱいにならない
→ 水に溶ける量も考慮し,薬品量を増やす - ③ 最初試験管内にある空気を回収してしまう
→ 反応直後の気体は回収しない - ④ 炭酸水素ナトリウムの加熱ではなかなか袋いっぱいにできない
→ 加熱を強くして,反応速度を上げる - ⑤ 袋の気体の二酸化炭素含有率がわからない
→ 空気でいっぱいにしたときと質量を比較する
限られた時間(今回は2時間)内で実験を繰り返し,多い班で4回実験を行うことができた。
5.生徒のレポートより(考察および感想)
- 班で考えることで,自分一人では気づかなかった実験方法や問題点がわかり,グループで考えて問題を解決していくことの大切さ,そして楽しさを学んだ。
- 今まで実験というと全て準備物が決められ,ある程度結果もわかっていたのでおもしろさがなかったが,今回の実験ではほとんどすべてを自分たちで考え,失敗を見つめてやり直す機会が与えられたことが嬉しかった。準備物や実験方法などをある程度自由に考え,最善の方法を求めていくということで,本気で頭を使って非常に疲れたが,とても充実したやりがいのある実験だった。
- 正確に二酸化炭素を集めることに関しては今回の条件では限界まで試すことができたので,100%二酸化炭素であることを証明することに拘ったが,今の自分の知識では難しかった。袋に溜まった気体の質量比を考慮すると二酸化炭素濃度も求められそうだが,実際は標準状態ではないという条件や温度による気体の膨張などまだまだ知識が足りないので,いろいろなことを学んだうえで,再度挑戦してみたい。
6.おわりに
本授業は本校総合科学類型の学校設定科目「創造応用Ⅰ」において,2年生の理系選択者24名で行った。 "主体性とコミュニケーション能力を養う"という科目の目的に沿って,器具の使用方法など最低限の説明は行ったものの,教科書等は一切持ち込まずほとんど全て自分たちの知識と経験のみで実施した(4月に実施)。設定された課題は非常にシンプルであったが,各グループで議論と失敗を繰り返し,最善の方法を求めてのチャレンジであった。上記の感想にもあるように,使用する薬品の種類や量,実験器具や装置を自分たちで考えることが非常に新鮮でかつ,やりがいを感じたようで,苦手意識のあったモルの計算や量的な関係についても,課題を成し遂げるために主体的に考える姿勢が見られた。このような簡単なグループ実験を通じ,授業で学んだ知識とコミュニケーション能力を生かして,主体的に自然科学の諸問題を探究していく生徒を育成していきたいと考える。