高等学校の教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
 探求活動(課題研究)

SGHからSG構想への転換
~課題研究でわからないことがあったらこの本へ戻れ~

栃木県立佐野高等学校 大嶋 浩行

1.はじめに

(1)本校の概要

佐野高等学校は,明治34(1901)年に「栃木県第四中学校」として開校し,令和4年度,創立122年目を迎えた伝統校である。平成20年度に附属中学校が開校し,中高一貫教育校として新たな歴史を刻みはじめた。平成28年度に栃木県で唯一SGH(スーパーグローバルハイスクール)の指定を文部科学省から受け,問題解決力やコミュニケーション能力を備えた,グローバル社会で活躍できるリーダーの育成に取り組んだ。5年間のSGH研究指定は令和2年度で終了し,令和3年度からは,SGHの次のステージとして,全教員で考えた末,生徒につけさせたい力は「人間力」と「探究力」となり,『国際人として活躍できる真のリーダー』を育成する新たなプログラム 「Sano グローカル構想」がスタートした。

Sano グローカル構想(構想図)

(2)『課題研究メソッド』の導入と課題研究の評価項目(ルーブリック)

課題研究メソッドは第1版の時から生徒全員が購入し,課題研究に不可欠なものとして使用している。課題研究を実施するにあたっては,研究のよりどころとなるものが必要となる。この『課題研究メソッド』はまず研究の順序を学ぶことができる。何をどうしたらよいか,研究って何だろう,調べ学習とは違うようだが違いは何なのかなど課題研究のベースとなるものが詰まっている。その他にもオンラインでの情報収集の仕方やインタビューのアポの取り方など欲しい情報が網羅されている。研究で何かわからないことがあったら『課題研究メソッド』に戻れと言えるのだ。

本校の課題研究に欠かせないものとしてルーブリックがある。ルーブリックは評価の時に使うものであるが,目標となるものでもある。生徒からするとルーブリックを見れば,自分たちがどの程度の位置にいて,どの程度を目標に研究していけばいいかの指標となる。教員から見ると生徒にどんな力をつけさせたいかをその中に織り込むことができる。SGHの時に設定したルーブリックは,SG構想になって生徒につけさせたい力を再考したため新ルーブリックとなった。

ルーブリック

2.課題研究の概要

高校1年生ではグループで研究の1サイクルを経験し,2年生ではより進路を意識してグループもしくは個人での課題研究を実施している。3年生では1,2年で行った研究をまとめキャリア教育につないでいる。

年間活動計画

(1)『課題研究メソッド』活用事例

①研究の順序を学ぶ

4月の課題研究オリエンテーション後は,『課題研究メソッド』に沿って研究の仕方を学んで行く。以前は各クラスごとに担当者が『課題研究メソッド』を使ってそれぞれの項目ごとに授業を行っていたが,現在はオンラインを利用し,全クラス同時展開で担当者一人がそれぞれの項目を説明して,実際の活動を行っているので,担当者の負担が軽減されている。担当者は自分の担当するところを深く準備することにもつながる。

例)1組担任 研究とは何か
2組担任 情報収集の仕方
3組担任 研究計画書
4組担任 RQと仮説

②リサーチクエスチョンと仮説の設定を学ぶ

研究テーマを決定した後にとても大切なものとしてリサーチクエスチョン(RQ)と仮説がある。この『課題研究メソッド』にはその説明が丁寧にされており,仮説がRQの回答となるものであるなど研究の初期段階として知っておくべき知識が網羅されている。RQと仮説にあたっては,研究が進むにつれ変わることもしばしばでさらに課題に対する思考が深まればRQや仮説も深いものとなっていく。

③情報の集め方を学ぶ

現代は情報を集めることがかなり容易になったと言える。しかし,情報がたくさんありすぎるとも言えその中から自分の研究に必要で正確な情報を集めることは熟達したスキルが必要となる。『課題研究メソッド』ではサーチエンジンの紹介や使い方のみならず,論文などの貴重な情報にどのようにたどり着いたらよいかなど欲しい情報が掲載されている。このスキルは課題研究のみならず普段の検索などでも非常に役に立つ情報であろう。

(2)研究を促進するもの

①リーダーズシンポジウム

高校1年次には『課題研究メソッド』で研究の仕方を学びながらも,実際に地域社会で活躍されている人々の話を聞き,社会課題であると思っていることなどを話してもらう機会を設けている。講座の時間はやや短めの20分程度としているが,短くすることで複数の地域リーダーの講座を受けることができる。一人の生徒は4名の社会人や専門家の講座を受けている。

②SG教養講座

こちらはリーダーズシンポジウムとは違ってじっくりと1人の専門家の講座を受講することができる。生徒は5~6講座の中から自分の研究により近いものや興味のあるものを選んで受講することになる。高校1年生と2年生が対象となっており,令和4年度は2回の実施を予定し,すでに1回は実施済みである。

③フィールドワーク

正確にはフィールドワークとは現地調査のことであるが,本校ではインタビューをしたり,会社や専門家への訪問をしたりすることを含めてフィールドワークと呼んでいる。このフィールドワークを実施することで生徒たちは自分たちの足で稼いだデータを手に入れている。データは定量的なものであったり,定性的なものであったりとフィールドワークによって手に入るものが違ってくるが,そのデータをうまく処理し,グラフ化するなど行っているが,『課題研究メソッド』にはその手順などが書かれているのでありがたい。

(3)研究発表

①中間発表

課題研究は,自分が研究したものを発表しその評価を受け,さらに研究を続けているところに価値がある。発表の機会を設けると生徒たちはさらに頑張りを見せてくれ,ぐっとレベルが上がるものである。研究会場内でミニ研究発表会を実施する場合もあるが,まず大きな発表の機会としては中間発表がある。中間発表では,質問やアドバイスを受け後半の研究の方向性の示唆などにつながっている。この時は担当の教員ではなく,別の教員や初めてその研究を聞く生徒からの質問やアドバイスになる。発表があっても質問など出ないと思うかもしれないが,佐野高校では必ずと言っていいほど生徒からの質問が出る。

②課題研究発表

1年をかけての課題研究の総まとめとして課題研究発表がある。高校1年生,2年生がパワーポイントを使用してポスターを作成し,それをもとに発表していく。『課題研究メソッド』では,パワーポイントのスライドの作り方や研究の発表の仕方まで明記されており,「研究でわからないことや迷うことがあれば『課題研究メソッド』へ戻れ」がここでも通用する。この課題研究発表では各会場で代表者を選ぶ。

③成果発表

課題研究発表で選ばれた代表者が,大学の先生や本校の高校1,2年生,中学3年生,そして保護者,課題研究でお世話になった方たちの前で研究を発表する。発表は令和2年度からオンラインで配信するようになり,保護者たちは来校せずとも発表を見ることができるようになった。生徒の中には英語で発表する者もおり,『課題研究メソッド』には英語の発表の仕方についても記載があるため,スライドづくりや原稿づくりにも役に立っている。

3.おわりに

課題研究を総合的な探究の時間に実施していくことは,非常に困難である。まず我々教員の多くは高校時代課題研究をした経験がない。また,大学でも研究を経験してこなかった教員もいる。そのため教員研修等を実施し,研究とはどういうものであるか学んでいるわけだが,そんな時に研究実施のよりどころとしてこの『課題研究メソッド』がある。課題研究でわからないことがあったら『課題研究メソッド』へ戻れと言えるのはありがたい。教員たちは,生徒の課題研究を通じ一緒に学んでいる。