枠にはまらない自由な発想で、学ぶ楽しさを提供したい。
- 教育
- ICT
- 教育改革
- 人材育成
執行役員 / 事業本部 編集統括副本部長 : 坂本 陽一
学ぶ楽しさのための工夫を追求し、形にし続けてきた新興出版社啓林館の教科書・教材。長い時間をかけてつくられ、たくさんの子どもたちの手に届くものだからこそ、もっと学びやすくするにはどうしたらいいんだろう?もっとわくわく学べるようにするにはどんなアイデアが必要だろう?という試行錯誤にゴールはありません。
時代とともに変化する課題、時代を経ても変わらない「大切なこと」。そのどちらにも向き合いながら、一冊一冊に何か「ひと味」をプラスして教科書・教材をつくっています。そこに込められた編集者たちのこだわりや、いくつもの思いをご紹介します。
大きな変革を迎えた2020年。
時代とともに、新たな課題に取り組み続ける。
2020年は教育業界においても大きな節目の年です。教育課程は10年毎に改訂されていくんですが、それに合わせて教育環境にもいろいろな変化が訪れます。今回の場合、デジタル教科書が法制化されたというのが最も注目すべき点ですね。当社では以前から「スマートレクチャー」などICTを使った教材を開発・提供してきましたが、デジタル教科書のメリットはいくつもあります。検索機能がつけられたり、データを共有できたり、掲載できる情報の容量に紙のような制約がないなどが挙げられます。中でも、教科書にQRコードがつくようになったのは革命的な出来事ですね。今までどうしても教科書というのは動かない静かな教材だったんですが、そこに初めて動きが入ってくるというのはすごく大きな変化。それをどう先生方、子どもたちに使っていただけるか。期待半分、ここからが本当の挑戦だという気持ちでいます。
今回デジタル教科書が法制化されましたが、しばらくは従来の紙の教科書との共存のタームが続くと予想しています。デジタル教科書の導入にどんな効果があるのか、子どもたちに何か健康上の課題が発生しないか、そういったことはこれから実際に学校や家庭で使われてみないとわからないことなので、完全にデジタルにシフトしていくかどうかはまだ誰にもわかりません。特に子どもたちの健康というのは何よりも重要なことですから。
時代とともに、様々な変化を求められる教科書・教材づくり。私の編集歴の中でも、非常に大きな時代の移り変わりを感じています。今の時代の子どもたちはデジタルネイティブなので、教科書もこうした変化をしていくことは必然であるとともに、未来へ向けたチャレンジでもあります。私たちも教科書・教材の編集者としてどんな働きができるか、また一つ新たな課題に挑んでいかねばという気持ちですね。
時には、特許を取るような新規開発も。
子どもたちみんなに「使える」教科書をつくるために。
学習指導要領で決まった通りの教科書さえつくっていればいいというのは大間違い。それだけじゃ全然だめ。そこに何か「ひと味」が必要なんです。教科書の場合、法的な位置づけとしては子どもたちの主たる教材となっていますが、実際にそれを使って授業をするのは先生です。先生にとっていかに使いやすい教科書にするかという視点が、教科書づくりでは絶対に欠かせません。そもそも先生がうまく使えないものを子どもたちが理解できるわけがありませんから。それに対し、教材の場合は、先生が授業の中で使って教えることもありますが、基本的には子どもたちが自分で学び進めていくためのものなので、子どもたちにとって使いやすいこと、学びやすいことというのが重要です。だから、こちらは特にある種のエンターテイメント的な要素が求められると考えています。
教科書の編集は、通常2年かけて行います。実務としては、まず著者の先生に執筆を依頼し、年に数回設けている編集会議までに原稿を書いていただきます。集まってきた原稿を確認しながら、ここはそのままいこうとか、ここはこう修正しようといった議論を先生方にしていただき、ある程度方向性が固まったら我々編集者がその原稿を紙面の形にしていくという流れです。そこで、こんなイラストや写真を入れようとか、場合によっては撮影コーディネートもして求めている写真を撮ることもあります。著者の先生、イラストレーター、フォトグラファー、デザイナー、そういった皆さんを束ねながら一つの紙面をつくっていく。これが教科書編集者の仕事です。
特に義務教育の小・中学校の教科書に関しては、「平等性」というのを非常に意識しています。例えば、昔からある暗記用の赤いフィルター。実は赤いフィルターって、視覚障害のある子どもには使うことができないんです。男の子の5パーセントはそうですから、平等性が求められる教科書でそれを見過ごすことはできません。そこで私たちは視覚障害のある子どもにも暗記シートが使えるように独自の「青い暗記シート」を新規で開発。(これで特許も取得しました。)あらゆる子どもたちに寄り添った教科書を、様々な工夫を重ねてつくり続けていきたいと思います。
「新興出版社啓林館」が積み重ねてきた思いや使命を、
後世にしっかりと受け継いでいきたい。
大学時代に家庭教師のアルバイトをしていたときに見た、子どもたちがわからなかった問題が解けるようになったり、新しい世界に触れた瞬間の表情やリアクションは今でも鮮明に覚えています。あんなふうに子どもたちが学ぶ喜びを感じられる教科書・教材をつくりたい、その思いから本当にいろいろなアイデアを形にしてきました。教科書に仕掛け絵本のような仕組みを初めて採用したり、デザインも子どもたちに人気のポップなテイストを取り入れたり。「従来の教科書」の枠にはまらない自由なアイデアを実現させてもらえる環境なので、次はどんな工夫をしようかと考えるのがとても楽しいですね。
あるとき若手の女性編集者から、「服や文房具は好きな色やデザインで選べるんだから、教材だって同じように選べたら、きっと子どもたちももっとわくわく学べるはず!」と提案がありまして。確かにそうだよねということで、まずは小学生の女の子向けにこだわり満載の教材をつくることに。新潮社さんの雑誌『ニコ☆プチ』とコラボレーションしてスケジュール帳と連動する企画が生まれ、今までになかった新しいスタイルの教材としてたくさんの子どもたちに喜んでもらえました。
私も編集歴25年になりますが、若い社員の提案内容やデザインワークのセンスの高さには本当に刺激を受けます。負けたなと思うことも時々あります(笑)。新しいスキルを積極的に身につけていく姿勢もすばらしくて、編集部をまとめる者として、若い人たちにどんどん現場を任せていって、彼らの才能をいかに引き出すかを考えていきたいと思うようになりました。当社は戦後の日本の理数教育を支えてきましたが、これは手前味噌でも何でもない事実。そこで積み重ねてきたもの、使命や思いを、きちんと後世に伝えていかないといけないと思うのです。若いうちから仕事を任せたり、もっとこうしたらいいんじゃないかというアイデアを形にしやすかったり、そういった寛容な社風があるからこそ、次の世代にしっかりとバトンを繋ぐことがとても大切だと感じています。そうした中で生み出されていく教科書・教材を通じて、これから先もずっと子どもたちに学び続ける楽しさを提供していけるよう、私たちも成長し続けていきたいと思います。
坂本 陽一(さかもと よういち)
1993年、㈱新興出版社啓林館に入社。島根県出身。
中学校理科、小学校生活科の教科書の編集を経て、小学校~高校の書店販売用教材、学校採用副教材の編集責任者も務める。
趣味はライブイベント参加、魚釣り、写真、ドライブ、ヨガ、寺社仏閣巡り。
関連の最新記事