持続可能な社会をつくっていくために、私たちにできることとは。
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代表取締役社長 : 佐藤 諭史
戦後間もなく、焦土からの再建に向け立ち上がる時代の中で「新興出版社啓林館」は誕生しました。今日の教育制度の礎となる教科書検定制度が導入され、私たちは初の検定教科書を「啓林館」ブランドとして出版しました。これを足掛かりに着実に業績を伸ばし、「理数の啓林館」として広く認知されるようになりました。現在は、検定教科書の出版のみならず「新興出版社」「文研出版」ブランドも合わせた総力を活かし、幅広く教育に貢献しています。
“これまで”の日本の教育の変化と共に歩んできた啓林館。さまざまな時代で「教科書づくり」を続けることで、社会においてどのような役割を担ってきたのか。そして2020年の今、どのような未来を見つめているのか。啓林館の“これから”を代表取締役社長 佐藤が語ります。
創業より大切にしているコンセプトは、
未来を切り拓く力、生きる力を育てる教科書つくること。
「当社は1946年に三人の創業者によって立ち上げられ、『新興出版社』名で小学校用自習書を出版したことからはじまります。そして、その数年後にはじめて『啓林館』名で教科書を出版して以後、より良い教科書・教材を提供し、より良い学びのための活動を続けてまいりました。『啓』という字は未知の世界を切り拓き、教え導くこと。『林』は、書物やものごと・情報が多く集まっている状況。『館』は、同じ志を持つ者が集まる場所。未来を切り拓く力を育てる教科書をつくり、提供し続けることで、広く永続的に社会の発展・向上へ貢献していきたいという思いが『啓林館』というブランド名に込められています。私個人としては、『啓』は知識であり、『林』は人という意味でもありながら人の持つ知識という意味もあるのではないかとも解釈しています。そのように受け取り方は人それぞれであっても、未来を切り拓く力・生きる力を育てる教科書をつくるというコンセプトそのものは、ずっと変わらないのだろうと思いますね。」
ーー 創業当時から「教育」におけるパイオニア的存在で在り続けている啓林館。未来を切り拓く力・生きる力を育てる教科書をつくり続けたいという思いは、創業当時から今に至るまで、啓林館というブランドに連綿と流れ続けているようです。では、日本の教育において「教科書」の役割は変わってきたのでしょうか。
「教科書というものに世の中が期待する役割は、昔も今も変わっていないと思います。教える内容や教え方を定めるのは文部科学省ですし、実際に現場で指導されるのは教員のみなさまです。それらの人々の意向に沿いながら主たる教材としての教科書をつくることが我々の仕事であり、時代のニーズにフィットさせながら少しずつつくり方を変えていくことが、これまでもこれからもこの事業における鍵になっていると思います。
一方で教科書の内容は、時代により変わります。現在は、学習指導要領に盛り込まれている『主体的・対話的で深い学び』を助ける内容や、国連で議論されているようなESD教育というものを盛り立てる方向へと業界全体がシフトしていますので、当然内容もそれらの潮流に合わせて多少は変わっていきます。こうした局面においては、“生きる力”を育てる教科書をつくりたいという当社が担う役割は、ますます重要になっていくと思います。自ら課題を発見し解決するための思考力をつける手引きや、考えの違いを交流させるための姿勢づくりなど、もっと掘り下げて学習する力をつけられるような教科書をつくっていきたいと考えています。」
ーー「教育」は国力につながり、国の中長期的な競争力の育成に非常に大きな影響を与える事業。その一助になるべきだという啓林館の強い意志は、これからも揺らぐことなく受け継がれていくことでしょう。
「教科書」だけの啓林館ではない、
広く教育に貢献していく新たな事業を、一人ひとりが考える組織に。
ーー 小学生から高校生まで、教科書は幅広い人の手に渡る商材。「検定教科書を発行している教育出版社」と言えば盤石な収益体制を築いているようにも聞こえますが、経営の目線から考えると“今後への危機感”を抱くことが大切だと言えます。
「当社が、教科書づくりを通して社会に育てていただいた会社であるという事実に間違いはありません。しかしながらこれから先は、教科書づくりによる収益に依存し続けるわけにもいかないと思っています。その最大の理由はもちろん、『少子化』という現代日本が抱える大きな課題です。現在、啓林館では理数と英語の教科書づくりをメインに行っておりますが、今後は子どもの数の減少に比例してマーケットの縮小が進んでいくため、既存の事業だけでは先細りになっていくことが明白です。新しい教科なのか、それとも教科書とは別の新しい事業なのかはわかりませんが、当社の“これから”の大きな柱になるものをこの数年間常に模索している状況です。『教育』というものに携わり続けたいという思いは社員一同持っていますし、その軸は今後も変わりませんが、やはり会社として存続し続けていくためには変化が必要です。今はまだ“事業の持続性”について考える意識を社員全員に浸透させている段階ですので、今後はそうしたことも一人ひとりが考え行動していく組織にしていかなければならないと思っています。
そうした背景もあり、2年ほど前から新しい試みの一環として、社内で新規事業案を公募しています。そのまま実になるかはわかりませんが、まずはそうした発信を社内にすることで、今後について模索しているという意識づけを行っています。新規事業は始めてすぐ成功させられるものでもありませんし、まずはじっくり検討して社内を巻き込みながら堅実に育てていきたいと思っています。ただ最近は世の中の変化のスピードも上がっているので、どのくらいテンポよく進められるかが難しいところではあるのですが、少なくとも“教科書の啓林館”にとって、今が大きな転換期・ターニングポイントであることは間違いないでしょう。」
ーー「啓林館=教科書」という社会からの認知が、これまでの教科書事業の成功を導いてきたことは揺るぎない事実。しかしながらこれからは、教科書と共に啓林館の新たな顔となる事業が生まれる可能性もあるようです。
SDGsの達成に向けて、私たちにできること。
社会や教育の未来づくりへの挑戦は続く。
ーー 啓林館は現在、海外事業などを含めたさまざまな「持続可能性」を後押しする施策を打ちながら、従業員も働き続けやすい環境へと整えていくため社内制度の改善などにも日々取り組んでいます。
「当社はとにかく“人”を大切にする組織です。新規採用にこだわり、入社していただいた方を継続して育てていく方針を、昔も今も掲げています。教科書に書かれていることは時代によって変わっていきますが、それをつくる仕事はこの先も人がする仕事であり続けるだろうと私は思っています。新しい世代の人たちが、歳を重ねて当社を支えてくれるような人材になってくれたらとも思いますし、仕事をしていく中ではいろいろと苦悩することがあったとしても、そうした経験も含めて苦楽を共に糧にしていくことが当社らしい会社づくりなのではないかと思うのです。そのためには社員一人ひとりの自己実現ができる環境や働きやすさといった条件を整備していくことは不可欠なので、今後もそうした努力を継続していきます。
また当社が存続し続けるだけでなく、当社の教材を使って学んでいただいた方々に持続可能な未来をつくっていっていただくための力にもならなければなりません。人類文化の形成に深くかかわる事業をしている立場として、当然SDGsにも取り組んでいますし、発行している教科書・教材にもその内容や視点を確実に盛り込むようにしています。これまでを振り返ってみると、教科書・教材づくりを通して、世界に通じる人材を生み、支えるための一翼を担ってきたという自負もありますので、そうした意味でも当社の事業はSDGsの『4. 質の高い教育をみんなに』の実現にもつながっていると感じています。最近は他社様と共同で商材開発をしたり、海外に進出したりなど、パートナーシップやグローバルなプロジェクトへの取り組みも積極的に行っています。これまで教育出版社として蓄積してきたノウハウを駆使し、教育にかかわる総合的なサービス提供へと事業領域を展開しているところです。積み上げてきたものをさらに昇華させて、より積極的に教育と社会の発展に貢献していきたいと思っています。
新しいことに取り組むためには、投資が必要です。商材によってはなかなか黒字化が難しいものもあります。だからこそ、削減できるものは減らし、推進すべきところに力を集めることが、新興出版社啓林館という企業の持続性をつくっていくための課題だと認識しています。部署によって業務内容は異なりますが、社員全員が教育に貢献するという同じベクトルを持っています。必ずしも出版という手法にこだわる必要はありません。使ってわかりやすいもの、プラスアルファの学びを得ていただけるような商材を、新興出版社啓林館という場に集まる多様な人々の特性を活かして実現していきたいと考えています。」
ーー 変化への大きな潮流の中で模索を続ける啓林館。持続的な経営と社会との共生という大きな二つの視点を大切に、教育の未来づくりへの挑戦を続けていきます。
佐藤 諭史(さとう さとし)
2000年、㈱新興出版社啓林館に入社。大阪市出身。
書籍学参の営業・企画部、管理部部長を経て、東京支社長室室長、児童図書部部長、書籍学参販売部部長を歴任。2018年10月より現職。
趣味はゴルフ、音楽鑑賞。
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