私の実践・私の工夫(算数)
児童が楽しみながら目をキラキラと輝かせて取り組む授業を目指して
6年 対称な図形
1.はじめに
私は,算数の授業を日々,実践する中で,児童に算数の楽しさを少しでも多く味わわせるということを心掛けている。楽しさと一口に言っても,できる楽しさ,発見する楽しさ,協力する楽しさ,色々な楽しさがあると思う。私が理想としている授業は,その時々によって重要視する楽しさを適切に設定し,それを意識して指導を行うことで,児童が楽しみながら目をキラキラと輝かせて取り組む授業である。理想を追い求めながら日々,実践と反省を繰り返している。
2.児童と作る教材についての工夫
今回は対称な図形という単元を扱っていく。本時の授業を行う前,単元のはじめに折り紙を用いて線対称な図形を作るなど,操作的な活動を行いながら指導を行った。その中で,児童が線対称なアルファベットを作成した。それを見た他の児童が他のアルファベットはどうだろうとノートにアルファベット表を書き始めたのである。今回紹介する実践は,先の児童が作った表をもとに,点対称な図形の導入を行う指導である。児童は大変興味深く,熱心に取り組んだ。その理由としては,自分たちが作り上げたもの,発見したものが教材になっているという事実は大きいように思われる。そこで,私は,児童が自分たちで教材を作ったり,教材作りのきっかけとなるような活動ができたりするような指導ができないかと考えた。もしもそれができたら,発見したり,創造的に考えたりすることがもっと楽しくなるのではないかと感じたためである。それから,私は,児童の小さな発見やつぶやきを意識して取り上げ,大切にしながら指導にあたるという工夫を行った。その結果,児童の考えから教材が生まれたり,より意欲的に取り組んだりする児童が増えた。今回の私の実践であるアルファベットの表もその一例である。
3.発見する楽しさについての工夫
今回は,皆で発見する楽しさについての工夫も実践の中で紹介していく。実践では,発見を重視した「練り上げ」と「見通し」の在り方についての2点を意識して行った。
「見通し」について
一つ目は,「見通し」を意識して指導をすることである。発見する楽しさを感じるためには,自分なりの考えをもつことが大切になってくる。「見通し」というと解決方法のためと捉えがちであるが,話し合いにおいても,児童に「見通し」をもたせることは,児童が授業を楽しむ上でとても大切なことであると私は考えている。そのため,本実践では,児童が解決方法の「見通し」や話し合いの「見通し」をもてるような工夫をした。
「練り上げ」について
二つ目は,発見を重視した「練り上げ」の工夫である。「練り上げ」の場面の話し合いでは,自由に発言したり,意見を交わしたりできるように工夫をすることで,児童の直観的なつぶやきを引き出し,皆で発見を共有しながら自分たちで隠されたきまりを発見するという楽しさを味わえるように配慮した。
※ここでいう直観力とは,いくつかの考え方を見て,既習事項をもとに,感覚的にきまりなどをとらえることができる力である。
4.本時の指導について
先にも述べたように,本時では,児童が作ったオリジナルのアルファベット表を用いて,点対称の導入を行う。
2段階に分けた適切な「見通し」
自力解決においては,既習事項である対称の軸を用いながら,線対称かどうかを判断していくようにする。第1の「見通し」として,自力解決に向け,縦方向の軸を例に,既習事項の確認を行う。また,第2の「見通し」として,見方の拡張をねらった「見通し」を行うようにする。自力解決では,縦方向の軸を意識しすぎて,横方向や斜め方向の軸を見落とす児童が少なくないと予想されるが,第2の「見通し」で見方を変えて横方向や斜め方向の軸を確かめることで,「練り上げ」の場面において,図形を回転させてみるという考え方を思い付く児童を増やすことをねらって指導を行うようにする。
児童の実態に応じた「練り上げ」の時の指導形態
「練り上げ」では,周りと相談したり,ちょっとしたひらめきやつぶやきを共有したりするために指導形態を工夫し,児童を黒板の前に集め,全員でまとまって話し合いを行うようにする。また,前に出てきて,操作しながら説明をするときも,全員が前にいることで,集中して聞いたり,すぐに手伝いにいったりと多くのメリットがある。何より大きいことは,全員で新たな図形のきまりを探すという要素である。隠されている図形のきまりをみんなで意見を交わしながら探すことで,児童が発見することの楽しさを感じられるように指導に当たっていくようにする。
5.実践
- (1)単元名 対称な図形
- (2)単元のねらい
対称な図形の観察や構成を通して,その意味や性質を理解し,図形に対する感覚を豊かにする。 - (3)指導計画
線対称・・・・・・・・・・・・・・・・4時間
点対称・・・・・・・・・・・・・・・・5時間
正多角形と対称な形 ・・・・・2時間
まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間 - (4)本時(5/13時間)
目標
点対称な形と対称の中心の意味について理解する。
学習活動・内容 | ○指導上の留意点 ★評価 |
---|---|
1 学習の振り返り ・前時までの学習をもとに線対称について確認をする。 |
○前時の学習である,線対称のきまりを全員で復習してから学習に入る。 |
2 問題をつかむ | |
アルファベットの中から線対称の図形を探そう | |
・アルファベット26字の中にも線対称が隠れていることを知る。 | ○児童たちが折り紙で行った,対称な形づくりから生まれた自分たちオリジナルの教材だということを伝え,意欲を刺激する。 |
3 課題を立てる | |
線対称のきまりをもとに,分け,その特徴をとらえよう | |
・きまりを使えば,線対称かどうかの判別がつくということを知る。 | ○児童たちから,課題が出るように,「探すためには,どうしたらいいかな」等,誘導できるような発問を行う。 |
4 見通しをもつ。 ・線対称かどうか確かめる方法を全体で確認する。 |
○実際に例として,対称の軸を書き,対応する点までの距離が等しいかなど,きまりで線対称かどうかを確認する方法を全員でおさえ,自力解決がスムーズに進むようにする。 ○1つの点ごとに確認するという正確さをもとめるのではなく,今回は,線対称か,そうでないかを確認することがメインなため,対称線を引き,左右対称,上下対称になっていることを確認することでよいとする。 |
5 自力解決 ・それぞれのアルファベットが線対称かどうか調べる。 |
○線対称の対称の軸が引けない児童の支援を行う。 ○自力解決が終わった児童が前に出て,線対称かそうでないかの仕分けができるようにしておく。 |
6 練り上げ ・線対称な図形の中にも,特殊なもの(H I O X)があることに気がつき,そこから点対称な図形の特徴を発見する |
○線対称とそうでないものに仕分けした後に,1度板書を眺めさせ,「線対称な図形の中でも,特別なものないかな」と発問し,線対称でもあり,点対称でもある図形に注目させ,180°回転に目をつけられるようにする。 ○Oがあるため,180°回転を強調しながら点対称の定義の確認をする。 |
7 まとめ | |
1つの点を中心として180°回転させたとき,もとの形にぴったり重なる図形を点対称な形という。 その点を対称の中心という。 点対称でもあり,線対称でもある図形がある。 |
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8 学習感想 ・本時の学習感想を記入する。 |
・小文字ではどうか ・自分たちの考えた問題が次の学習につながってよかった。 ◆本時で習った点対称な図形の特徴を理解している。 |
(知識・理解) |
6年 線対称の復習と点対称の導入の場面
(本時では,アルファベットの一覧表を書き直したものを教材として用いた)
オリジナルアルファベット表
T アルファベット表から線対称な図形を探してみましょう。できますか。
C できます。だって同じようなこと習ったもの。簡単です。
T そうですね。復習もかねてやってみましょう。でも,ただの復習ではありませんよ。
C なぜですか。
T 実は,この表の中には,次の学習につながることが隠されているのです。頑張って探してみましょう。ただ,普通にやっているだけでは,気付けないかもしれません。
C えっ。じゃあどうやればいいの。
T みんなは,ぱっと見れば,線対称かどうか,大体わかるみたいですね。でもどうやってそう判断しているのですか。
C 対称の軸とか,線対称のきまりをつかって考えました。
T なるほど。対称の軸があれば,線対称とわかりそうですね。では,それを意識して,どのアルファベットが線対称か調べていきましょう。
C 線対称かどうかの確かめ方が不安です。
T よし。一度,マークを例に線対称かどうかの確かめ方を確認しよう。
~線対称の定義の確認と対称の軸を引けばよいということを伝える~
T 試しにこの図形に軸をかいてくれませんか。
C 縦に軸をひく。(右図参照)
T OK。このようにすれば,軸がわかって,線対称かどうか明白だね。
T では,自分の考えを書いてみよう。できたら,黒板のアルファベットに軸をひきに来てね。(先ほどの例でつかった図形を黒板に貼った。)
~自力解決が始まって3分後,例として黒板に貼った図形の向きを90度回転させて貼り直す~
C あーーー。わかった。(貼り直した図形を見た児童)
C なになに。(黒板の前に出てきている児童)
C 見方を変えてもよかったんだ。ななめとか。
~他の児童が集まってきて,議論が始まる~
C 見方を変えて考えると軸が何本もあるやつがでてくるよね。
C 貼るときに分けて貼ってみようか。
C 線対称なものとそうでないもので分けて。
C 線対称のなかでも分けるってことだね。
~協力して黒板に貼る~
T 工夫して分けてくれたみたいですね。では,まず線対称な図形から見ていこうか。
~順番に確認していく~
C Xがななめにも縦にも横にも軸が引けて,普通の線対称と違うみたい。
T 他にもないかな。
C HとかIとかO。
T その4つに共通点とかないかな
C 回しても一緒。
T 回してみよう。せーの
C ぐるっとな。
C この4つの図形はスーパー線対称だ。
T 何故スーパーとつけたのでしょうか。
C 回しても同じだし,折っても重なるからです。
C 先生。線対称の仲間ではないけど,NとかSとかはどうなるのですか。まわせそうですよ。
C Zもまわせそう。
T やってみよう。
C ぐるっとな。
T みんな,「ぐるっとな」ってなにしているのですか。
C まわしてる。
T 何度。
C 180度
T 実は,それがみんなに気づいてほしかった次につながることだったんだ。
C おぉー。やった。
T 180度,回転して重なる図形を点対称というのです。新しいきまり,自分たちで発見できましたね。
6.考察
成果
「練り上げ」の場面では,児童に180度回転させても同じ図形があるということを気付かせるのがねらいであった。そのため,児童に見方を工夫するという「見通し」をもたせ,「練り上げ」につなげたということが今回の授業の大きなポイントである。
本時では,第1の「見通し」として,簡単な図形を取り上げ,縦の軸だけを確認した。多くの児童が,どの図形にも縦の軸だけを記入して,線対称かどうかの確認を始めたため,第2の「見通し」として,図形の向きを変えて掲示するという手段を用いた。児童たちは,そこから自分たちの進む方向性,つまり「見通し」をよりよいものにしていた。その後の児童同士の話し合いでは,形態の工夫の甲斐もあり,自分たちで,これは違う,でもこうすればいいんだ等,言語活動の充実が見てとれる。また,本時の練り上げの場面では,ほとんどの児童が,XやOの図形をきっかけに,回転するという共通点に気がつけていたことからも,「見通し」が十分な働きをしたといえる。また,児童から,線対称の仲間に入っていなかった,NやZ,Sの図形に目を向けるという場面があった。それは,児童が,回転するという見方が線対称な図形以外にも適応できるのではないかという考えを拡張したということである。それこそが本時で気付かせたかったことであり,新たな概念の導入でもあった。今回の授業では,児童が話し合いの中で,皆でそのことに気が付き,発見する楽しさを味わうことができたのではないかと考えられる。
「練り上げ」の場面を見据えて,教師が意図的,計画的な「見通し」をもたせ,児童が直観力を働かせながら活発につぶやいていること。そして対話を繰り広げながら,全体が1つとなって,算数的な概念についての理解を深めていくことが,私の理想とする「児童が楽しみながら目をキラキラと輝かせて取り組む授業」の1つの形ではないかと考えている。
課題
今回の授業では,「練り上げ」の場面の話し合いに重きを置いていたため,どうしても自力解決が誘導的になってしまったり,児童にとってハードルが低いものなってしまったりした。そうなっては,自分で根気強く問題に取り組むという力が,児童からそがれていってしまう。そのため,いつも,同じような手法で行うのではなく,1つのバリエーションとして,今回のような手法を取り入れていく必要があると感じた。加えて,どの学年では,どの単元で,今回のような手法を取り入れるのが,より効果的なのかについて検討,実施を繰り返し,精選していくことが課題である。
「練り上げ」の場面の指導にあたり,説明などの理解に戸惑ったり,スムーズに話し合いが進まなかったりといった課題もあった。理想的な練り上げを行う力を培うには,1年生からの継続的な指導が不可欠である。学校で,共通理解を図り,積み重ねを意識した指導が必要になると考えられる。合わせて,教員同士が連携をとり,スパイラルな指導を行うことも1つの課題となってくると思われる。
7.終わりに
日々の実践を通して,児童たちの様子に少しずつ変化が見られてきた。下に,その結果をまとめて,私の実践を終わりとする。今後も実践を繰り返し,児童たちと共に,沢山の楽しさを味わいながら目をキラキラと輝かせて取り組める授業を追い求めて,自己研鑚を行っていく。
1 練り上げの場面で,児童が活発に発言するようになった。
これは,とても大きな大切な変化である。目を輝かせながら自分が発言したいという意欲的な姿が多くみられるようになった。また,友達の意見に付け足しをしたり,質問をしたりということも徐々に増えてきて「練り上げ」の場面が盛り上がり,児童の理解や意欲が深まってきた。
さらに,「見通し」の工夫により,「練り上げ」の場面で必要な力を,自力解決の時間に自分たちで蓄えることができるようになったことが大きな要因と考えられる。月日が進むにつれ,根拠をもって説明したり,質問したりする児童が増えてきており,活発な意見が交わされたときの「練り上げ」は充実したものになってきた。
2 児童のノートの内容に変化が見られた。
4月から,算数の授業がある日は,毎日ノートを回収して,学習状況等のチェックを行ってきた。授業の振り返りを記入しているが,取り組みを始めるまでは,「~が楽しかった」や「~君の考えがわかりやすかった」「前やった~に似ている」といった内容だった。しかし,「練り上げ」と「見通し」を意識して指導を始めてからは,それが徐々に変化していき,「日常生活にも同じような場面があることに気付けた」「~君の考えのいいところは,~で確かによくわかるけれど,今回は,私たちの考えたやり方のほうがよい」といった具合に,授業後の児童の考えの深まりが見られるような内容がでてくるようになった。話し合いに参加できなかった児童たちの考えも,こうした,ノートの記述から成長が見られた。また,「振り返り」だけでなく,自力解決の際に書く内容も,他者に説明することを意識し始めたのか,図やちょっとした書き込みのようなメモが見られるようになってきた。今まで,分かりやすくなるから,と私に言われるがまま,なんとなく図等を書いていた児童たちが,目的意識をもって,問題を解き始めたのは,大きな成長であった。