私の実践・私の工夫(理科)
豊かな体験を通して,子どもたちが主体的に学ぶ理科の授業をめざして
-第5学年「流れる水のはたらき」-
1.はじめに
本学級の児童の実態を調べるために行ったアンケートでは,理科に対する興味・関心に関する質問に肯定的な回答を示す児童は多かった(96%)。しかし,理科の授業に対する主体性に関する質問に肯定的な回答を示す児童は少なかった(23%)。そこで,理科をより主体的に学ぶことができるような子どもたちを育てることをめざして実践を行った。
2.大切にしたこと
現行の『小学校学習指導要領』における改善の基本方針に記されている,「児童が知的好奇心や探究心をもって,自然に親しみ,目的意識をもった観察・実験を行うことにより,科学的に調べる能力や態度を育てるとともに,科学的な認識の定着を図り,科学的な見方や考え方を養うことができるよう改善を図る。」をもとに,育てたい児童像に迫るために,以下の5つのことを大切にして実践を行った。
- ① 体験すること
(導入では,まずは楽しむ♪ できればその後も楽しむ♪) - ② 「なぜ?」「どうして?」を徹底的に調べること
(どんな些細なことでも説明できるようにする!) - ③ 調べる方法を自分たちで考えること
(みんなの知識を出し合って課題を解決する!) - ④ 分かったことを伝え合うこと
(気付きや考えを共有する!) - ⑤ 時間を確保すること
(時間がないから…を言い訳にしない!)
3.授業の実際 -第5学年「流れる水のはたらき」-
① 体験すること
『みんなで砂山をつくろう』
資料1 砂山づくり
本単元における導入では,『みんなで砂山をつくろう』というところから始めた。「土木工事」と呼びながら,全員でスコップやバケツを使って砂山をつくった。子どもたちにとっては,これまでに経験したことのない規模の砂遊びとなり,どの子も楽しく作業を行った。各自の得意分野を生かし,協力して一つのものをつくることで,友だちとのつながりも深まったように思う。
『砂山に水を流そう』
資料2 水を流す様子
導入の続きとして,つくった砂山に水を流してとにかくその様子を観察させた。水路をつくって水を流す際も,じょうろやバケツやプランターを使い,各自工夫して水を流していた。水路も深いものや浅いもの,太いものや細いもの,真っ直ぐなものやカーブしたものなど様々だった。池を作る子,トンネルを作る子,葉や花を流す子もいた。山をつくった時同様,規模の大きな水遊びをする感覚で,子どもたちは活動していた。その中から,様々なことに気付き,各自の調べたいことを見つけていった。この段階ですでに,流れる水のはたらき(浸食・運搬・堆積)に気付いている児童が多数いた。
② 「なぜ?」「どうして?」を徹底的に調べること
『調べたいことを決めよう』
資料3 実験計画を立てる
前時の様子を動画に残しておき,ポイントとなる点を意識的にクローズアップした動画を作成し,それを共に見ながら,各自の気付きを共有した。また,4人程度の班を作り,どんな事象に対しても「なぜそうなったのか説明できるようにすること」を目標に,さらに詳しく調べたいことや,再度確認したいことなどをまとめ,実験の計画を立てた。また,メンバーで協力して全員の課題が解決するようにさせた。
(子どもたちから出てきた調べたいことの例)
・水が茶色くなるのはなぜか。
・下流に作った池に浮いている泡の正体は何か。
・土を掘っていくと色の違う土が出てきたが,その原因は何か。
・どんなものが水に流されるか。
・下流の水が蒸発した後の土がクリーム状になっていたのはどうしてか。 など。
③ 調べる方法を自分たちで考えること
『オリジナルの実験方法』
資料4 ペットボトルの水路
教科書の実験方法を参考にしながら,さらに,自分たちの調べたい事を調べるために実験方法を考えていった。ペットボトルの水路を作り,水が茶色くなるのは砂や土のせいであるという仮説を証明しようとする子や,池に浮いた物の正体をルーペで観察する子,いろんな場所の地面を掘って層になった部分を探す子,いろんなものを流してみる子,泥の池を作って定期的に蒸発の様子を観察しにいく子など,互いに協力しながら課題を解決しようと頑張っていた。
④ 分かったことを伝え合うこと
『研究発表をしよう』
資料5 電子黒板を使って説明
自分たちの課題と実験方法や結果,さらに考察を発表し,全体で討論して学びを深めていった。発表に必要な資料の作成や発表用の原稿なども用意し,電子黒板を使っての発表会に子どもたちは意欲的に取り組んだ。他の班の発表を聞く中で,新たな気付きがあり,更なる課題を見つけ出し,調べる子もいた。
ICTの活用や,発表の場面を設けることで,課題に対する意欲を喚起し,多くの児童が主体的に考える姿を見ることができたように思う。
⑤ 時間を確保すること
理科の学習では,実験の準備に時間がかかる。また,実験自体に時間がかかることもある。だからと言って動画や演示実験を見せるだけではやはり子どもの主体性は育まれないだろう。時間が無いのを言い訳にせず,最大限のことを行う必要がある。時には休み時間を使ったり,家庭学習にしたり,様々に工夫することはまだまだ可能であると思う。
4.成果と課題
資料5 タブレットPCを使った資料の準備
主体性を育むには,主体的に活動しなければならない課題を与えるのが最も良い。また,児童の興味を引く教材や教具の準備が必要になってくる。さらには,子どもの抱いた課題をどのようにすれば解決できるのかを指導者があらかじめ考えておく必要もある。それは大変時間のかかる事であるかもしれない。しかし,それは指導者にとって必要不可欠な努力であると思う。指導者主導の授業では,仮に実験を楽しむことは出来ても,子どもたちの学習後の達成感は薄いように思う。時間をかけて事象を見つめ,「なぜ?」「どうして?」をたくさん見つけ,自分自身が抱いた課題を解決することで得られる達成感は,子どもたちの表情に表れる。流れる水のはたらきについての学習においては,基礎的な知識の習得だけでなく,今後学習する地層の内容や水圧,密度や浮力に関わる事にまで子ども達は興味の幅を広げていくことができた。今回の実践中,子どもたちは終始遊びの感覚で学習をしていたと言っていた。もちろん毎回遊びのようだとは思っていないだろうが,学習=楽しいことという瞬間があったという事だと思う。また,日記には,日常にあふれる自然事象に関する記述が多く見られるようになり,家庭での理科に関する話題が増えたという事も聞いた。学びの楽しさを知った子は,これからも学ぶことを楽しみ,学び続ける子になると思う。単なる知識の詰め込みでは到達しえない,科学的思考を楽しむ子どもたちをこれからも増やすことができるように取組を進めていきたい。