私の実践・私の工夫(理科)
科学的に考える力を育てる理科の授業
1.はじめに
平成23年度より小学校において全面実施となった学習指導要領の改善の基本方針を確かめると,以下のように示されている。
- (ア) 理科については,その課題を踏まえ,小・中・高等学校を通じ,発達の段階に応じて,子どもたちが知的好奇心や探究心をもって,自然に親しみ,目的意識をもった観察・実験を行うことにより,科学的に調べる能力や態度を育てるとともに,科学的な認識の定着を図り,科学的な見方や考え方を養うことができるよう改善を図る。
- (エ) 科学的な知識や概念の定着を図り,科学的な見方や考え方を育成するため,観察・実験や自然体験,科学的な体験を一層充実する方向で改善する。
「科学的な見方や考え方を養う」「科学的な見方や考え方を育成する」という表現がある。「科学的」というのは,学習指導要領で実証性,再現性,客観性を検討する手続きを重視することと記されており,ここで,「科学的な見方」を,「考えた予想を確かめることのできる実験計画を立てて実験を行う。結果を分かりやすくまとめる。」とし,「科学的な考え方」を,「根拠をもった予想を立てる。結果から実験の目的に沿った考察をする。」として考える。
4年生において,「科学的な見方」と「科学的な考え方」を育てること,すなわち「科学的に考える力」を育てるため,次の仮説を立てて研究を進めることにした。
2.仮説
- ①生活経験の乏しさを補うための体験活動や,既習事項を整理しいつでも見られるようにすることで,根拠をもった予想が立てられるだろう。
- ②同じ考えの児童が実験計画を一緒に立てることで,予想を確かめることのできる実験を計画できるだろう。
- ③実験を行って起こった事実を,図や表を使って分かりやすくまとめることで,結果を正確に把握することができるだろう。
- ④予想や考察を書くときに,ひな形を示すことや結果を共有することで,予想と理由や結果と考察を,はっきりとかき分けることができるはずだろう。
3.手立て
4.実践
4年生の「空気や水をとじこめると」と「ものの温度と体積」「もののあたたまり方」の3つの単元で仮説を検証していく。本研究で扱う3つの単元は,空気と水または,空気と水・金属を扱っており,予想の根拠を考えるときに前単元の実験結果を理由にすることができたり,単元内で空気と水や水と金属など比較しながら考察したり,予想の根拠としたりできるだろうと考え,この3つの単元で仮説の検証を行った。
「空気や水をとじこめると」
「ものの温度と体積」
①体験しよう。
空気を扱う最初の単元である「空気や水をとじこめると」の導入に,4年生の児童が空気について知っていることを言いあった後に,ポリ袋に空気をとじこめ実感させたり,空気をとじこめた道具をもってきて遊んだりする時間を確保した。
②予想しよう。
ホワイトボードや移動黒板などを利用して,自分のノート以外にも友達の考えも参考にできる場を作り,既習の内容を整理した。
予想は実験の結果がどうなるのかを一文で書き,次の行に理由を書くようにする。「空気を冷やすとどうなるのかな」…(「ものの温度と体積」より)
予想:空気の体積が小さくなる。
理由:空気を温めると体積が大きくなったから,反対に冷やすと小さくなる(へこむ)と思う。
③計画を立てて実験しよう。
- ・予想を確かめることができる実験計画をグループで考える。
- ・実験に必要な準備物を理科室や準備室から用意する。
- ・実験の記録をする準備をノートにする。
「自分たちの予想はどんな実験でたしかめられるかな」…(「ものの温度と体積」より)
自分たちが考えた予想を図に表し,学級で予想を共有した後,同じ予想をした児童が同じグループになり,実験計画を考えた。
計画した実験の結果の見通しを,以下のようなひな形で表現させ,予想を実証できる実験かどうかをふり返らせた。
「(自分たちの予想)」から「こういう結果になるはず(おこるはずの結果)」が確かめられる。
④図や表を利用して結果をわかりやすく記録しよう。
「空気や水をとじこめると」や「ものの温度と体積」では,結果を図や表を利用して記録した。また,「もののあたたまり方」では結果を主に図で記録するようにした。
「ものの温度と体積」より
手であたためた | 氷で冷やした | |
試験管の口の様子 | 石けんのまくがふくらんだ。(0.5cm) | 石けんのまくが試験管の中に入った。(0.7cm) |
⑤結果から考察しよう。
考察は以下のようなひな形にあてはめてるようにする。これらの書き方を教えながら,各単元の学習を進めていった。
「 ア 」という結果から「 イ 」と考えた。
5.研究の成果
3つの単元を通して児童の見方や考え方が科学的になっていった。その変化を一人の児童のノートを抜粋しながら紹介したい。
【Mさんのノートより…予想】
「電気のはたらき」
実験:①と②の2つの回路でモーターと検流計の動きについて調べる。
実験の結果を予想できているが,根拠をまったく書くことができていない。
根拠を書くことに思い至っていない。
「ものの温度と体積」
実験:あたためた鉄球が輪を通るかどうか確かめ,体積の変化を調べる。
実験の結果を予想し,根拠として,既習事項を活用していた。
「もののあたたまり方」
- ・予想を図に表すことで,言葉だけの予想よりもわかりやすく表現できている。(クラスの児童が予想を共有するときに非常に役立つ。)
- ・根拠をもった予想をすることができている。
【Mさんのノートより…結果】
「ものの温度と体積」
実験:せんをした丸底フラスコをあたためると。
結果を箇条書きにしてある。
実験:金属も温度によって体積は変わるのだろうか。
表を使うことで,いろいろな条件の記録をわかりやすくまとめることができた。
「もののあたたまり方」
実験:空気はどのようにあたたまっていくのだろう。
言葉では,わかりやすく表現できない場合に,図を用いることで,クラスの児童にわかりやすく伝えられ,結果を共有できた。
【Mさんのノートより…考察】
「空気や水をとじこめると」
実験:空気でっぽうで玉をとばそう
実験の結果から疑問に思ったことや結果について書いてあり,結果と考察を混同している。
「もののあたたまり方」
実験:金属がどのようにあたたまるのか調べよう。
結果から自分の考えを書くことができている。
結果は実験で起きた事実,考察は事実から自分が考えたことと,区別ができるようになった。
【ポイント】
・既習事項の活用
自分が考えるときのよりどころとなるものとして,常に意識していると,予想の根拠としたり,考察を書くときの比較対象として利用したりできた。
・表現のひな形を利用する。
児童が予想や考察をノートに書くとき,書き方がわかっていることで,予想とその理由や結果と考察をわかりやすく書くことができた。これにより,考えを共有するときにも相手にわかりやすく伝えることができた。
・図や表の利用
図で表現することは,結果や考察の可視化につながり,自分の考えを整理したり,わかりやすく伝えたりすることができる手段として有効であった。また,表を活用することで,条件を整理することができ,考察するときに役立っていた。
6.今後の課題
・単元によって軽重をつける。
児童が予想を確かめる実験を考え計画することは,非常に時間がかかり,単元計画通りに進まず,予定よりかなり時間がかかった。年間の単元計画を見直し,単元の時数の配分を見直す必要があった。
・時間短縮のためにワークシートを活用する。
児童の思考を限定してしまうこともあるが,逆に,ポイントが絞れて時間の短縮にもつながると思われる。また,特別支援を要する児童にとって,ノートに全てを書くことは,非常にハードルが高く,教員の支援をかなり要した。