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教師の方へ

私の実践・私の工夫(理科)

科学的思考を育てる理科授業をめざして
~ 言語活動の充実及びOPPシートによる子ども理解に基づいた理科授業 ~

全学年

静岡県 A教諭

1.実践の概要

「科学的な思考力」を限られた理科授業の中でつけるために,日常の理科学習の中にOPP(One Page Portfolio)シートを取り入れた児童との対話を通して,短時間に指導と評価の一体化させた授業づくりを行う。また,子どもの思考を途切れさせない問題解決型の学習形態や,ノート指導,グループ学習,発表の場を工夫するなど,言語活動を充実させることで,科学的思考力向上を目指していく実践である。

2. はじめに

今,私の考える理科指導における一番の課題は,「科学的な思考力を限られた理科授業時間の中で高めるにはどうしたらよいか」ということである。

理科の一番の特性として,子ども自身のもっている疑問や課題を,自ら考えた実験や観察を通して解決していける問題解決的学習が成り立ちやすいことであると考えている。科学的な思考力を高めるためには,結果と考察を頭の中や記録として整理し,得られた考察から次の実験方法を計画するという科学的思考の繰り返しが必要である。また,何よりも自ら学ぼうとする意欲なくしては,このような理科学習は成り立たないと考えている。

また,理科授業の単元構成において,子どもの実態を把握した上で指導計画を立てていくということは,私を含め授業者誰でもが承知していることである。ただ,授業の終焉場面でノートに書かせるいわゆる「振り返り」,「感想」を用いた評価は,有効であることはわかっていながら,児童が様々な視点で記述をすることから,授業構成に生かせずにいたのがこれまでの課題でもあった。そこでOPP(One Page Portfolio)シートを用いた単元構想づくりの方法を知り,これを活用した授業作りを実践することにした。OPPシートを使うことによって,授業者として短時間に子どもの実態を把握し,それをフィードバックさせた授業づくりができる。さらに一枚のシートに自分の学びの過程を書いていくことで,学習者自身の学びの自覚を促すことを期待できると考えた。

3. 実践方法

研究テーマにせまるために,以下の手だてを授業の中で講じていき,児童の活動や記述などを見ていくことで検証していく。

(手立て1)OPP(One Page Portfolio)シートの活用

OPPシート活用で,授業者として短時間に子どもの実態を把握し,それに即した授業作りをする。一枚のシートに児童が自分の学びの過程を書いていくことで,学習者自身の学びの自覚を促す目的で行う。【※資料1】

資料1

OPPシートは,一枚の用紙を三つに折りたたんで使用し,単元を貫く「本質的な問い」,「学習履歴」,「自己評価」の三つの要素で構成されている。単元の始めにレディネステストを兼ねた学習前の実態を見るための「本質的な問い」を出題する。普段の授業の中で,今日の学習の題名と一番大切だと思ったことを書いて「学習履歴」を残していく。単元の最後に学習前に出した「本質的な問い」と同じものを出題し,学習前の解答や理由などと比較することで「自己評価」させていく。学習がすべて終了したときに,表紙に単元を貫くタイトルを自分で考えて書くようになっている。OPPシートを用いる目的は以下の3点である。

  • 児童の学習状況を自分の言葉や考えで表現させることにより,実際の理解状態を把握することができる。
  • シートの構成が「一番大切だと思ったこと」やタイトルをつけさせたり,学習前後を比較し自己評価させたりすることによって,子どもに適切な思考力,判断力,表現力などの資質・能力を育てるはたらきをもたせる。
  • 子どもの学習履歴をみることにより教師が自分の授業に対する評価を行い,教師が意図した内容が書かれていなければ,授業に問題があったとみることができる。

(実践をして)
「学習履歴」では,単なる感想ではなく「一番大切だと思ったこと」を記述することによって,授業での学びの成果が授業者も児童もわかり易いと感じることができた。ここに教師からのコメントを加えることで,児童とのコミュニケーションの一つとなり,足りない言葉を説明することや,学習内容を勘違いして理解している場合など,「学習履歴」を通した児童との対話で学習を深めることができた。また,「一番大切だと思ったこと」を端的に文章にしたり,学習にタイトルを付けたりする活動は,必要な言葉を落とさず考察するときの練習の場となっていた。【※資料2】

資料2-1
資料2-2

さらに,OPPシートは,上述のように「今日の学習の一番大切だと思ったこと」というポイントをおさえた記述をすることで,教師と児童が対話しながら授業者が自らの授業を短時間で評価できるツールとして,非常に有効であることを感じた。

(手立て2)追求できる教材の工夫

文脈のある単元構成を意識していくことで,子どもたちが目的や見通しをしっかりもって学習に臨めるようにする。文脈に沿った問題解決の流れを繰り返し学び,自覚化させていくことで,科学的思考力の基礎を築いていくことを期待する。

教材や科学現象との出会いは,以後の学習の意欲に大きくかかわるものである。また,授業と授業をつなぐものは教科書ではなく,子どもの思考でなくてはならないと考えている。そこで,子どもが説明できなかったり,もっている知識では矛盾を生じたりするような科学的な現象との出会いをきっかけに授業作りをして,子どもの手と頭を使うような単元構想を心掛けた。

(実践をして)
文脈のある単元構成を立て,子どもの思考の流れを止めることなく授業を進めていくことを心掛けた。 例えば,6年「てこともののつり合い」の単元では,「楽におもりを持ち上げられるのは,どんなときだろう。」という単元を通した課題を投げかけ,子どもたちが行った実験や体験から出てきた条件を検証していくという問題解決型の学習形態で授業を構成していった。また,単元の中に子どもたちの考えからは矛盾を生じるような「つり合ったニンジンの重さ」の実験を織り込むなどして,子どもたちがもっている知識を活用して思考する場をつくっていった。

頭側としっぽ側でバランスをとっているニンジン。バランスをとった糸の場所で切ったら,左右の重さはどうなる?ちなみに,このときに測った重さは,頭側が89.0g,しっぽ側が62.8g。さて,この重さの違いを説明できるかな?

単に目新しい教材の出会いだけを求めて,子どもたちの学習が受動的になってしまわないように,実際に児童が実験を行ったり,その実験についてグループで話し合い発表を行ったりする活動を取り入れるなど,授業前の単元構成づくりを行った。OPPシートでの対話の中で,時として,児童の実態に応じた方向転換をせまられることもある。この単元で何を児童に身につけさせなければいけないかを,授業者がしっかりもっていないと,単元構想自体がぶれてしまうので,気をつけて学習を進めなければならないと感じた。

(手立て3)科学的知識・技能・書き表し方を活用

様々な科学的現象を自分なりに絵やモデル図を作成する表現活動を通して,見えない変化を視覚化して思考し,目の前で起きている現象を科学的に推論できるようし,言語活動の充実を図っていく。また,様々な実験結果に対して,既習経験としてもっている見方・考え方を適用したり,応用したりすることを促していくことで,そこに潜む規則性を見出し,子どもの概念として位置づけを助けることを期待する。

実験のレポート作りでの,実験方法→予想→結果→考察などの流れは,ノート指導に留まらず,物事を科学的に思考するための助けとなるものとして大事なものであると考え,丁寧に指導した。また,空気,力など目には見えないものを書き表すとき,モデル図を使うことができることを指導した。

(実践をして)
私はこれまで科学的なものの見方として,視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚の「五感」を用いることを理科の時間では常に指導してきた。また,自分の考えで行った実験を実験方法・結果・考察と区別してノートにまとめていくことを繰り返すことで,「次にやることは?」,「必要な実験は?」と見通しをもった学習が進められるようになってくる。

しかし,結果,考察を混同している児童も見られ,継続した指導の必要性や,「~(結果を元に)だから・・・であるといえる。」というような考察のひな型を提示する必要性を感じている。

モデル図は科学現象を説明するためや,科学的に物事を見るために重要なツールであり,小学校から積極的に使っていくことで科学的な思考力向上につながると感じた。

モデル図を使って,見えない空気の力を矢印やキャラクターで表現したり,てこの規則性を説明するために図に表したりする。

(手立て4)発表する場の設定,学習形態の工夫

単元の中での問題に対する予想する活動や,実験結果から考察したことを,班の中で制限時間内に発表していく。そして,出された意見を集約して班の考えにまとめて全体に発表する機会を作っていく。また,4人~5人の生活班で学習活動を行って学習を進めていく。

授業の中で,積極的にグループでの考察を発表する場を設定する。また,グループでの話し合いの司会者,発表者を輪番で行い,個人にも均等に発言する機会を与えていく。

(実践をして)
知識のインプットだけに終わらず,アウトプットすることで,学んだ知識や技能の客観性を高めることができると感じた。グループ学習では,科学的な思考力等の個々の差があっても,メンバー全員がそれぞれの実験・その実験に対する説明に触れることによって,様々な考察があることを知り,見方・考え方の質を高め,実証性,再現性,客観性を認識できる。

4. おわりに

OPPシートは,ポイントをおさえた記述で,教師と児童が個々で対話しながら授業者が自らの授業を短時間で評価できるツールとして,非常に有効であると感じた。シートでの子どもとの対話を,単元構想に確実に反映させていくことができれば,児童の思考に沿った,実態に合った「必要感のある」授業を展開できる。しかし,OPPシートは,あくまで授業改善や,児童の学びの自覚を助けるツールとして位置づけることが大切であるので,授業者が授業に反映させる意識の高さが重要であると感じた。さらに,学びの自覚を促すという目的では,自身の学習履歴を読み返す時間の確保が必要である。

実験レポート作りや,モデル図を用いた記述,グループ発表などについては,繰り返し指導することによって学習の中で習慣化し,児童の科学的な思考向上に大きく影響してくる。これによって,目的意識をもった実験・観察ができるようになり,筋道を立てて考え,わかりやすく表現しようとする意識が高くなっていくのが感じられた。

ノート指導など,学年による系統性にかける部分があったので,各学年に応じた指導法を確立していく必要を感じた。また,グループ学習において,現在は生活班でのグループ編成を使用しているが,今後児童の実態に合わせた意図的なグループ編成を行うことで,より有効な学習効果を得られる可能性を感じたので,今後の研究課題としていきたい。

【参考文献】
堀 哲夫・市川 秀貴 著編「理科授業力向上講座-よりよい授業づくりのために-」東洋館出版社