授業実践記録(生物)
生物研究部の活動と授業への展開について
1.はじめに
本校は,東京都葛飾区にある。部活動が盛んな普通科高校で,在籍生徒数は約880名。進路先は大学進学と専門学校が半々である。
年度末,生物研究部ではアフリカツメガエルの発生実習を行った。得られた受精卵を授業でも利用し,担当クラス全てで形態観察を行うこともできた。
ここでは,生徒作品の一例である『アフリカツメガエルの発生実習』をご紹介したい。飼育法や実習手順などを参考にして頂ければ幸いである。
2.生徒作品
アフリカツメガエルの発生
都立葛飾野高校 生物研究部
(1)はじめに
カエルの卵は大きく観察がしやすい。更に,発生の進行が早いので実験材料としてよく用いられてきた。多くのカエルは産卵時期が年1回,成体の飼育が難しい。理由は,半陸生のため飼育装置に様々な環境を設ける必要があること。生餌を視覚によって捕食するため,動く餌を用意する必要があることだ。
しかし,アフリカツメガエルはホルモン注射でほぼ一年中採卵ができる。成体も水中で生活し,餌も嗅覚で摂食するため,人工飼料が利用出来る。(生物研究部ではマスの餌で飼育)水質さえ維持できれば飼育が容易なのだ。
アフリカツメガエルの卵の直径は1~2mm。染色体数はヒトが46本であるのに対し,36本である。今回生物部では,発生の過程について観察を行った。
(2)実験内容
使用生物 | : | アフリカツメガエル 2匹(オス・メス一匹ずつ) |
---|---|---|
使用器具 | : | シリンジ(1ml),注射針(27G×3/4) |
薬 剤 | : | ゴナドトロピン;HCG(帝国臓器) ・・・5000ユニットに対し5mlの蒸留水に溶かす。 |
手 順 : Fig1参照
- ① 「オス・メス1匹ずつに,側線の外側からホルモン注射をする。(各250ユニット)・・・ア
- ② ホルモンが効き始めるまで待つ。(今回は約22時間)
- ③ 翌朝,登校すると交尾をしている。場合によっては産卵・放精が行われている。・・・イ
- ④ 受精卵を採卵し,別の容器に移す。(約500個採卵)・・・ウ
- ⑤ 受精卵が卵割を起こす。
- ⑥ 孵化するまで経過観察。
- ⑦ 孵化後,オタマジャクシに餌を与える。・・・エ
- ⑧ 約5ヶ月後,変態を開始。・・・オ
- ⑨ 子ガエルの誕生。・・・カ
Fig1
ア.側線へのホルモン注射
イ.誘発された交尾
ウ.採取した受精卵
エ.オタマジャクシ(孵化約1ヶ月)
オ.変態中
カ.子ガエル
(3)補足
- ① 側線は精巣に近いのでホルモン注射をすることで,精巣まで届く。
- ② 受精卵か未受精卵かの判断は,顕微鏡で確認ができる。受精膜がある場合は受精卵,受精膜がない場合は未受精卵。
- ③ 発生とは,多細胞生物が受精卵から成体になるまでの過程を指す。
- ④ オタマジャクシの餌は缶詰のグリンピースをすり潰し,製氷機で氷にして保存したものを与えた。
(植物性タンパク質を与えないと,「奇形種」になってしまう。) - ⑤ 実験の最中,横の水槽のカエル(ホルモン注射を打っていない)が操作を行ったカエルの影響を受けて交尾をし,新たに受精卵を採卵できた。非常に興味深い結果であった。
- ⑥ 卵割とは,受精卵に見られる連続して速やかに起こる体細胞分裂を指す。
- ⑧ Fig2…経過観察のスケッチ(一部)
Fig2
ア.受精卵 |
イ.十六細胞期 |
ウ.原腸胚後期 |
エ.神経胚中期 |
オ.尾芽胚前期 |
カ.尾芽胚後期 |
キ.オタマジャクシ
ク.オタマジャクシ(変態中)
ケ.成体
(4)まとめ
実験を行い新しい経験ばかりで新鮮だった。生命の日々の成長に驚かされる毎日である。また,残念ながらオタマジャクシが大量死してしまう事件があった。冬の時期であったために水替えの急激な水温の変化が原因と思われ,改めて生物を飼うことの難しさも学んだ。
現時点で,成体になった個体は2匹おり,初めて見たときの体つきや顔の変化の様子に驚かされた。自分たちの努力でここまで成長したと考えるととても嬉しく思う。
今後,水質・温度の状態を維持しなければならないのと同時に成体への変態過程も興味深い。手を抜かずに世話をするのと同時に,成長過程をしっかりと見ていきたい。
(5)参考文献
- Wikipedia
- カエルの動物実験 斎藤 貞美 著 グリーンブックス
(6)活動風景
3.終わりに
本校の大学進学は,推薦やAO入試が多く,一般受験に向けた指導が課題である。そのため'共同学習'を授業に取り入れるなど,様々な工夫を凝らしている。理科でも実習を多く行い,興味・関心を高め,学習意欲の向上に繋がるような授業展開を心掛けている。
生物研究部には理科に関心の高い生徒が多く,部員たちは様々な実習活動を通じて日々学習に励んでいる。今後も,彼らの活動が周囲の生徒にも影響を与え,学校全体の学習意欲の向上に繋がればと思っている。
さて,日ごろの生物研究部の主だった活動を紹介する。マウス解剖やウニの発生,ブタの頭骨の解剖と骨格標本の作製,野外観察会,多数の生物飼育などを行っている。
最後に,本活動を行うにあたりご好意頂いた新潟大学理学部准教授 前野 貢先生,ご助言を頂いた本校生物科 後藤 正憲先生に厚く御礼申し上げたい。