授業実践記録(英語)
発問こそが4技能学習意欲の鍵
~「知りたい」という生徒の気持ちを引き出す~
1.生徒の実態
各学年6クラス構成で男女共学。普通科で卒業生の9割以上が進学し,その約半数が国公立大学へ現役進学。自由な校風の下,学業に学校行事に大いに盛り上がる公立高校。ほぼ地元出身の素朴な生徒が多く,各教科,明るく朗らかな授業が多いのが特徴です。入学時のCEFRはA1~A2,3年次の授業ではB1の教科書が適度なレベルです。
2.「暗記・暗唱」からの脱却
平成21年の学習指導要領改訂に伴い,それまで行っていた「暗記・暗唱」をベースとしたinput重視型の授業から,インタラクションによる英語の運用活動を重視する授業へと,授業スタイルを大きく変更しました。理由は,それまでの指導スタイルの限界を認めざるを得なかったためです。生徒の英語力伸長度に頭打ちがあったことはもちろん,学習の目的が定期考査や大学入試といった「試験を受けるため」「問題(タスク)を解くため」という動機づけに終始していることを疑問視したためです。受験を意識する高等学校であろうと,その授業には「学び」の要素が不可欠だと考えました。
3.「知りたい」という気持ちを引き出す発問
では実際に普段の授業で,インタラクションによる活発なコミュニケーション活動をどのように進めて「学び」の場面をつくっていくのか。その一番の鍵は教師の「発問」だと私たちは考えています。目の前の生徒たちに掘り下げていくテーマを如何にわかりやすく問いかけて身近に感じさせ,「知りたい」という生徒の気持ちを引き出していくのかが,活発な授業環境づくり,ひいては生徒の英語運用量に大きく関係してくるからです。
問いかけは大きく,(1)導入時,(2)小さな問いかけを読解時に随時,(3)各課のまとめ時,の3ステップで行っています。(1),(2)は口頭で行うことが多く,(3)はディベイトやスキット,プレゼンテーションの活動を経てエッセイ・ライティングを行うことが多いですが,その教材・テーマによって使い分けています。
たとえば,導入時の発問例としては,以前,「オリンピックに参加するために他国に帰化すること」をテーマとして扱ったことがありました。しかし,唐突にidentityやnaturalizationなどといった普段あまり意識していない単語でテーマの是非を問いかけても,その発問の真意が生徒の心まで届いていくことはほとんどありません。(たとえその単語が教科書本文に用いられていたとしても。)
積極的なコミュニケーション,特にスピーキング環境を創るには,生徒が教師の問いかけを身近なものとして捉え,「なぜだろう?」,「もっと知りたい」という気持ちを自分自身の中に持っている必要があります。そのためには,使用する英語は平易で,発問は的を射たものでなければなりません。(難しい英語だと,その英語の理解に焦点が当たってしまうからです。)
その課で私たちが使用したアプローチは次のとおりでした。
発問1:”Do you like Japan?” →(生徒の反応) Yes, I do. や No, I don’t.
※Yes / No questionなので,多くの生徒は即座に気軽に答えます。
発問2:”Why do (don’t) you like Japan?”
→(生徒の反応) It is because Japan is a safe country. Food in our country is very delicious. 等々
※これも割と一般的な発問です。ここまでは,生徒たちの想定範囲内の問いかけなので,生徒も割とストレスなく回答します。そこで次の質問を投げかけます。
発問3:Now I have a question. Are you proud of being Japanese?
※この発問で,生徒たちは一瞬きょとんとした顔をします。平易な英文なので質問の意味は英語で理解できます。しかし,普段考えたことのない内容なので,生徒たちは改めて自分の中に答えを見つけようとします。be proud of が既習事項なら理解は早いですし,未習事項なら新出言語材料として紹介する好機です。この発問で生徒の「知りたい」を引き出すことが,この課を学習する牽引力になります。
指 示:OK, students, get into pairs! And ask your partner if your partner is proud of being Japanese and why your partner thinks so.
※この指示で生徒たちはペアワークに盛り上がり,終了後はクラス内で各々の意見を英語で共有し合いました。YesにしてもNoにしても多様な意見が飛び交い,生徒たちはお互いの意見の中に新たな発見と納得を実感したようです。
一見,何の変哲もない導入スタイルですが,一足飛びに的を射んとせず,わかりやすく噛み砕いた意見交換を重ねると,その後の教科書本文のReading時も,日本語に置き換えることなくスムーズに読み解くことができます。また,実際にこのスタイルで授業を行うと,会話活動や内容解説,指示英語も含めると50分の授業1時間で生徒が触れる英単語数は約2千語,これは多くの進学校が採用する教科書の2課分に相当します。従来の指導法で同じ英文を繰り返してinputした時の英単語量とは比較になりません。時には,基本事項をしっかりと身につける活動も大切ですが,指導法の使い分けと,そのバランスの大切さを実感しました。
また,「暗記・暗唱」をメインとする指導法とは,その学習動機の質に大きな違いがあることもわかりました。以前の学習形態はタスク中心で解答が1つしかない穴埋めや選択問題が多く,「正解を答えなければならない」という所謂不完全な英語から正しい英語に戻すという動機づけでした。それに対して,現在の指導法は何も負荷がかからないニュートラルな状態から「なぜなんだろう?」という疑問をスタートに,「自分はなぜそう思うのか理由を知りたい」というプラスへ向かう動機づけがなされています。(上図)
生徒たちの発言の多くは「解答」ではなく「回答」なのです。生徒たちが顔を上げ,発見と納得を求めて目を輝かせていることがその証となっています。こういった部分が生身の生徒-生徒間,教師‐生徒間のコミュニケーションの醍醐味であり,「学び」ある授業への第一歩だと私たちは考えています。
4.主体的な学びを育てる授業改善
私たちは,CAN-DOや3年間のシラバスを教員間で共有するだけでなく,心がけていることがいくつかあります。
- ・ どのような英語力がどの活動で身につくのかを明示する
- ・ 授業中は間違ってもいいのだということを当たり前にする
- ・ 生徒の発言を可能な限り尊重し,躊躇なく褒める
- ・ 「読む」「聞く」「書く」「話す」4技能と,「考える」プロセスを怠らない
- ・ 4技能のどの分野にどれだけの時間・労力を割いているのか把握している
- ・ 答えが1つの発問は面白くない(生徒たちの意見を無理にまとめない)
- ・ 扱う英文によって,その料理法も変えていく(論文,物語,詩,取説英語,等々)
- ・ 生徒の活動時間をできるだけ多くとる(教師が喋りすぎない)
- ・ 教師が「教える」ことより,生徒が「自ら気づく」仕掛けを工夫する
- ・ 教科書は使用するものであって縛られるものではない
- ・ 友達がいる教室だからできる授業の意味と,独りで行う家庭学習の意味を確認する
- ・ 授業で身につけた技量を評価する(授業と評価を乖離させない)
- ・ 「主観」も細かく分けたものが複数あると「客観性」を産む(パフォーマンス評価)
- ・ 教員のチームワークが大切(1人のスーパー・ティーチャーだけでの実現は難しい)
5.「使える英語」>「受験英語」
コミュニケーションを多く取り入れた授業をしていると,私たちは学校内外から「そんなことしていて受験は大丈夫なの?」という声をかけられることもしばしばありました。しかし新しい授業スタイルで3年間過ごした生徒の卒業時には,そのような懸念は全くの杞憂に終わりました。平成25年度から平成28年度にかけてセンター試験の全国平均点が毎年下降していく中,本校生徒の平均点は逆に毎年上昇していきました。そして何よりも私たちが喜んだのは,卒業生のアンケートで約9割の生徒が卒業後も英語の学習を続けていきたいと回答したことでした。”Do what you love and success will follow.”という例えが相応しいかはわかりませんが,まさに「使える英語」≠「受験英語」なのではなく,「使える英語」>「受験英語」なのだと実感しました。
6.外部英語検定試験対策がゴールにならない授業
2020年度からの大学入学者選抜の変更で,4技能,特にスピーキング技能の評価が考慮されはじめることをとても嬉しく思っています。
ただ,今一度心に留めておかなければならないと私たちが考えているのは,入試制度の変更が単なる入試対策授業の変更に終わってしまわないことです。「大学受験対策」を動機づけとしていた授業が,単に名前を変えて「外部英語検定試験受験対策」授業になってしまっては,今回の改革の意義が半減してしまいます。異なる意見に向き合い,自分の意見を言い表しながら折り合いをつけていくコミュニケーション力は,この先,時代がどのように変化しても求められていきます。そのためにも,今回の大学入学者選抜改革を大きな好機と捉えて,「使える英語」をさらに浸透させていくことが大切だと考えています。
生徒たちの英語が,彼らの見識を広め,将来的に豊かな人生に役立つツールとなってくれることを願って止みません。