授業実践記録(英語)
高校長文の壁を乗り越えた生徒たち
~「X-Link」を用いた長文指導の実践例~
1.はじめに
筆者は,中高一貫校に勤務する教員です。長文指導の実践を工夫する中で自作教材を作成し,それが原点となって,「X-Link(クロスリンク)英語長文」という教材ができました(紹介ページ)。
そこで,本教材作成の背景や狙い,本教材を使った授業の狙いや成果をご紹介します。
2.【背景】高校英語への素地を作るために何を目標とすべきか
中学英語から高校英語へとどのようにスムーズにつなげるかは,全国の先生方を悩ませる問題であると思います。私もその1人で,現在は高校2年生を担当していますが,前の学年では,高校レベルの教科書に入ると英語に拒否反応を示す生徒が少なからずおりました。原因は読解の経験が非常に少なく,さらに中学で学んだ語彙・文法が実は十分には定着していないことであると考えました。
したがって,現在の学年では高校英語に入る中学3年生時に,以下の3点を目標として指導することにしました。
<高校英語導入時の目標>
① 400~500words程度の長さに慣れ親しむ。
② 細部にこだわるよりも文脈を掴む読解力を養成する。
③ 重要な語彙・文法は何度も復習する。
3.【X-Linkの狙い】文脈を問う設問と中学語彙・文法の徹底復習
上記の目標を達成するには,中学の教科書を終えたのちに,ある程度の経験値が必要であると感じました。具体的には,中学生の身近な話題などを扱っている抽象度の低い400 words程度の長文から始め,最終的にはコミュニケーション論などを扱う500 wordsの長文に至るまで,徐々に難度を高めていくことが必要だと考えました。
これを踏まえ本学年が中学2年生の時に,長文を全国の高校入試問題から探し,自作長文教材を作成しました。これが「X-Link」の原点となりました。「まず文脈を掴む」ことを目標としましたので,細部の瑣末な文法を問うような問題をできる限り排除し,以下のような設問を付けました。
【文脈を問う設問例(Lesson7 p.45)】
問1 以下の語句を並び替えて[ A ]に入る英文を完成させなさい。疑問詞を1語補うこと。
[ a teacher / you / become / did / ?]
→この文章では,全体を読まないと[ A ] で使う疑問詞は分からない構造になっています。
【文脈を問う設問例(Lesson1 p.9)】
問4 下線部②(next time means nothing to me)とあるが,なぜ彩香はこのように発言したのか。30字以内の日本語で答えなさい。
→「なぜ」と問い,登場人物に起こった重要な出来事を問う設問も付けました。
さらには,中学で学んだ語彙・文法を定着させるため,重要文例を長文から厳選し,同じ型を何度も繰り返し練習できるような問題をすべての長文で作成しました。
【同じ型を繰り返し練習する設問例(Lesson3 p.22)】
パキスタンでマララの手当てをすることは難しかったです。
[ in Pakistan / difficult / take care of / to / it / was / Malala ].
人々と英語でコミュニケーションをとることは難しかったです。
[was / with / people / difficult / in / communicate / it / to / English ].
(スクリプト)It is important for men and women to have equal rights.
これらのコンセプトを,扱った長文すべてに反映させ作成した教材が,現在の「X-Link」となっています。
4.【生徒の現状】モチベーションが下がっている生徒達
中高一貫校では,高校英語に入る中学3年はちょうど「中だるみ」の時期を迎え,勉強に対するモチベーションが下がってしまう生徒が散見されます。本学年も例外ではありませんでした。予習を宿題とすることもありましたが,結局は友達の答えを写したり,予習を全くせずに臨んだりする生徒に,厳しく指導することである程度改善させるという状況で,なによりも生徒たちが「よし,高校英語をなんとか頑張ろう」という前向きな気持ちになる機会を摘んでいるような気がしてなりませんでした。
5.【授業の狙い】モチベーションの下がった生徒にどう取り組ませるか
そこで,私の目の前で長文に取り組ませることで,予習の質を担保するようにしました。目の前で解かせることで,必要に応じて生徒に声かけをし,なんとか自分で読もうとする気にさせることもできました。
また,授業では中学1年時から必ず生徒と「対話」し,生徒の「声」を拾うようにしました。例えば設問の解説をしている時には,なぜそう考えたのかを必ず説明する機会を与えました。
さらには,中学語彙・文法の定着を図るために,暗唱文例集を単に丸覚えするのではなく,リーズニングをしながら覚えるように指導しました。そのために,暗唱文例の穴埋め問題や並び替え問題にまず取り組ませるようにしました。このようにリーズニングをした上で音読を行い,自動化するプロセスを踏むようにしました。そして,リーズニングができているかどうかの確認のために,重要文例を元にした応用英作文に取り組むようにしました。
<授業の狙い>
① 問題に取り組むことを家庭学習にしない。
② 「なぜ間違ったのか」を難なく発言できる雰囲気づくり。
③ 暗唱例文のリーズニングを促すステップを踏む。
6.【X-Link 1を用いたモデル授業案】1レッスンに2.5~3時間配当
【第1時】
単語・熟語リスト(10分)日本語を見て英単語を口頭で言えることを目標とする。
1. フラッシュカードで英単語を表示し,教員の後に続いて発音し意味を確認する。
2. フラッシュカードで日本語を表示し,生徒が自分で英単語を正しく発音する。
3. クリスクロスの活動を行い,ゲーム性を持たせつつも生徒個人を指名する機会を作る。
空所に該当する日本語を見ながら英単語を書くように指示し,適宜語法等について説明する。
読解(25~30分)30分程度時間を与え,目の前で問題に取り組ませる。早く終わった生徒が出れば,コラムを読み,単語・熟語リストを覚えるように指示する。
家庭学習の指示(5分)単語・熟語リストを日本語から英語にクイックレスポンスできるよう音読してくるよう指示する。
【第2時】
単語・熟語リスト復習(5分)フラッシュカードで日本語を示し,正しい発音で英単語をクイックレスポンスできるかを確認する。生徒個人を指名する機会を必ず確保する。
読解解説(20分)単調な「解説授業」にならないよう,電子黒板を利用し視覚的に正解へのプロセスが学べるように意識する。
Summary問題(10分)本文に戻らず,読んだ内容の記憶を元にSummary問題に取り組むよう指示し,答え合わせをする。
暗唱例文の練習問題(15分)練習問題に取り組ませる。つまずいた生徒が多い項目に関しては「どこで学んだか」を確認し,同じものが形を変えて問われていることを伝え,リーズニングをし,何度も復習することが大事であることを意識させる。これらの手順を踏んだ上で,巻末の暗唱文例集を用いて,まずは手元を見ながら正しく発音できるように指導する。その後Read and look upを行い,次回の授業までに暗唱できるよう指示する。
【第3時】
暗唱文例復習(5分)フラッシュカードで暗唱文例の日本語を提示し,口頭で英訳させる。その際,発音等の指導も行う。
暗唱例文の応用問題 / Dictation (10分)暗唱文例を元にした応用英作文問題に取り組む。解説の際には,問われている文法思考を確認し,覚えた暗唱文例で様々な英文を作ったり聞けたりすることができることを強調する。
7.【授業の成果】高校英語長文を楽しむ生徒達
関係代名詞の指導を終えた中学2年の3学期頃から,本教材の元となる自作長文教材を導入しました。中学2年段階で長期休暇の宿題を含めてかなりの数の教材を読みこんだおかげで,中学3年からのコミュニケーション英語Ⅰの教科書にスムーズに移行することができました。
その成果として中学3年の終わりに,日本英語検定協会から合格実績として,文部科学大臣賞(準1級3名,2級59名,準2級126名,3級56名合格)を頂きました。これは成功体験として彼らの大きなモチベーションとなり,高校2年生になった現在でも,各模擬試験においては読解パートが全国平均より高く,彼らの武器になっているように思えます。最近では長文を読んだ後に生徒から「この長文おもしろかった」という声が聞こえてくるのが,担当者として本当に喜ばしいことです。