授業実践記録(英語)
アクティブラーニングの視点に立った英語指導実践について
1.はじめに
平成29年3月公示「新学習指導要領(*高等学校は29年度改訂予定)」において,生徒が目指すべき資質・能力として,社会で自立的に生きるために必要な「生きる力」を育むという理念のさらなる具体化を図り,①生きて働く「知識・技能」の習得,②未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成,③学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養という3つの柱が明示された。また,学習課程においても「主体的・対話的で深い学び」の授業改善(アクティブラーニングの視点に立った授業改善)を推進することが求められることとなった。こうした状況の中で,本校も今後の英語指導の在り方を模索している最中である。
2.「アクティブラーニング」の一定義
「①一方的な知識伝達型講義を聴く受動的学習を乗り越える意味での,あらゆる能動的学習のこと。能動的な学習には,②書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化」を伴う授業形態(京都大学 溝上慎一准教授による)
理解として
①教員と生徒がコミュニケーションを取りながら行う②書く・話す・発表するなどの活動(ペアワーク,グループワークなどを含む)を通して,生徒がより主体的に考える機会を持つことができる相互通行型授業(21世紀型授業)である。
*20世紀型(一方通行型)授業=教員の知識伝達型講義中心の授業
3.「アクティブラーニング」で身に付ける力(学力の三要素)
①「知識・技能」 ②「思考力・判断力・表現力」 ③「主体性・多様性・協働性」
4.「アクティブラーニング」の形態(「東京大学 大学総合教育研究センター」アンケート区分参考)
①理解深化型 ⇒ 自分の思考を客観的に振り返り,理解を深める形態
例えば | 協調学習(学び合い) | ⇒ 意見交換を通して正解を導く |
振り返り(リフレクション) | ⇒ 学習内容の復習(復習問題を解く) | |
自己による学習評価 | ⇒ 学習内容の定着度などを自己分析(反省) | |
ブレインストーミング | ⇒ あるテーマに関して,自由に意見を述べる | |
作文 など |
②課題解決型 ⇒ 課題に対して解決策を提案,または実行する形態
例えば | プロジェクト型(PBL型・課題解決型・問題設定型)学習 | ⇒ 意見交換を通して解決策を導く |
ケーススタディ | ⇒ 事例研究を通して法則・理論を発見 | |
探究・調べ学習 など | ⇒ ICT,図書館などを利用して学習 |
③意見発表・交換型 ⇒ 議論や発表を通して,意見を交換・整理する形態
例えば | ディベート | ⇒ 肯定側,否定側に分かれての知的ゲーム |
ディスカッション | ⇒ 意見を出し合い共に考え,理解を深める | |
プレゼンテーション など | ⇒ 聴衆の前に立ち,意見を述べる |
5.「英語指導」の方向性
「アクティブラーニング」による「知識(文法・構文・語彙・など)」と「4技能(Listening, Speaking, Reading, Writing)」のバランスの良い習得を目指した英語指導
*上記の指導には「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」の過程も必然的に含まれる
6.「アクティブラーニングの要素を踏まえた授業実践例」
[前提]
①「コミュニケーション英語Ⅰ」での授業実践。題材として教科書「ELEMENTⅠ(啓林館)」Lesson3を使用
②授業準備の負担や授業の持続性,一貫性を考慮し,教科書,教科書データの活用を原則とする
③授業は一部文法解説を除き,原則,英語で実施
[指導の流れ]
1.帯活動 毎時間5分~10分。教科書から離れたコミュニケーション活動
⇒ 英検2次試験面接問題,簡単な会話,歌,生徒同士のQ&A,チャットなど
2.標準的授業展開 40分~45分で実施
各Lessonが4parts構成,授業時数8時限を目安とした場合の展開
時間 | 1・2時間目 | 3時間目 | 4時間目 | 5時間目 | 6時間目 | 7時間目 | 8時間目 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
単元 | Part1 | Part2 | Part3 | Part4 | まとめ | まとめ | まとめ |
内容 | Pattern A | Pattern A | Pattern A | Pattern A | Pattern B | Pattern B | Pattern C |
Pattern Aの内容(通常学習)
①導入:Lesson導入時のみ
⇒ 「Leading In」リスニング。英問英答。スクリプト配布,音読。資料①
⇒ 「Sharing Ideas」教科書の写真を利用して,英問英答。本文のイメージ化
⇒ 「Graphic Introduction」教科書の写真を利用して,英問英答。更なる本文のイメージ化
②新出語句チェック:「Word Sheet」の活用 資料②
⇒ Self-Training(個人)からPair(ペア)活動へ展開
③本文理解:「Grammar解説」の活用 資料③
⇒ Grammarは4技能習得の土台となるもの
⇒ 丁寧に生徒の理解を確認しながら,一方的にならないように解説
⇒ ④の本文定着活動に時間をかけるため,説明に強弱をつける
④本文定着活動:「サイトトランスレーション」の活用 資料④
⇒ Self-Training(個人)からPair(ペア), Presentation(発表)活動へ展開
⇒ 授業ではこの活動を特に重視,徹底的に指導(英語の自動化)
音読の種類として
Chorus Reading, Read and Look up, Independence Reading, Pair Reading, Repeating, Shadowing(Overlapping), Relay Readingなど
Pattern Bの内容(各レッスンの全パート終了後)
①教科書課末問題:Comprehension A B
⇒ 解答を配布。机間巡視を行い,間違いの多かった問題のみクラス全体にフィードバック
②教科書課末問題:Comprehension C
⇒ リスニング。スクリプト,解答配布(資料⑤)。音読(Chorus Readingなど)
②教科書課末問題:Comprehension D「Story Retelling」活用 資料⑥
⇒ 生徒のレベルに応じて使用するプリントを使い分ける
⇒ 前に出てPresentation(発表)。全員,ボランティア,教員の指名などで行う
時間に余裕があれば,英語で要約文を作成させる。難しいようであれば「Summary Sheet」資料⑦を活用した要約文の穴埋めや日本語での要約文の作成などを行う。また,Vocabulary ,Grammar and Structureは解答のみ配布する。
Pattern Cの内容(各レッスンの全パート終了後)
①教科書課末問題:Communication Activity:A B 資料⑧ 資料⑨
⇒ Self-Training(個人)からPair(ペア), Group(グループ)活動へ展開
7.「英文の種類によるAfter Readingの活動事例」
A.会話文【Pair(ペア)活動が基本】
Kevin: Look at the trees! They’re very tall.
Nancy: Look at the lake! It’s like a mirror.
Kevin: I love this park. Can we ski here?
Nancy: Yes, you can. And you can camp, too.
Kevin: Oh, really? When can we camp?
Nancy: All year around.
Kevin: Can we swim here all year around, too?
Nancy: Are you kidding?
1.Role Playing | ⇒ アクションなどをつけて練習(Pair) |
2.Presentation | ⇒ 前に出て発表。全員,ボランティア,教員の指名などで行う(Pair) |
3.Original Scriptの作成 | ⇒ 本文の表現をできるだけ利用(Pair) |
4.Presentation | ⇒ 2と同様(Pair) |
B.説明的文章【Pair(ペア) or Group(グループ)活動が基本】
This is a famous painting by Vincent van Gogh. It is loved by many people. Van Gogh was influenced by ukiyo-e. Some ukiyo-e prints are shown in this painting. They were brought from Japan to Europe. ・・・・・・
1.Summary | ⇒ 段落,あるいは文章全体の要約文を作成(Pair or Group) |
2.Opinion | ⇒ Summaryに対する意見,感想(Pair or Group) |
3.Presentation | ⇒ 写真資料などの教科書データを使って発表(Pair or Group) |
C.物語文【Pair(ペア) or Group(グループ)活動が基本】
There was an old shrine in a village. One day a storm came and washed the shrine away.
The next day people looked for the shrine. But they only found a huge hole in the ground.
People looked into the mouth of the hole. It was deep and dark.
Someone called into it, “Hello? Can anyone hear me?”
No echo came back. A boy picked up a stone and threw it into the hole. He listened, but there was no sound. ・・・・・・
1.Summary | ⇒ 段落,あるいは文章全体の要約文を作成(Pair or Group) |
2.Presentation | ⇒ 写真資料などの教科書データを使ってのStory telling(Pair or Group) |
8.おわりに
平成32年度より「大学入学共通テスト」の導入が決まり,英語の試験も「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能を評価する民間試験(認定試験)の活用へと変化し,高校の授業においても4技能習得のためのバランスの良い指導を行っていくことが求められることとなった。(従来の「センター試験」は平成35年度までは継続,併用)それに伴い高校での授業の在り方として,アクティブラーニングという手法を用いながら,4技能の習得をどのように進めていくのかが各方面で検討され,様々な研究会などが実施されているのは周知の事実である。また,アクティブラーニングをより効果的に進めていくという意味において,iPadやデジタル教科書の活用などICTを取り入れた授業展開例も盛んに研究されている。こうした現状を踏まえ,本校での今後の課題としてアクティブラーニングの手法やICTを活用した授業展開例を教科全体で共有,研究,実践していかなければならない。教師もまた学び続けていく必要があるのである。そして生徒たちが「使える英語力」を身に付け,将来,様々な場面で活躍してくれることこそ英語教師としての最大の喜びであることは間違いない。
参考文献等
金谷憲編著 | 『高校英語授業を変える!』訳読オンリーから抜け出す3つのモデル(アルク、2014年) |
山本崇雄著 | 『はじめてのアクティブ・ラーニング英語授業』(学陽書房、2016年) |
本多敏幸著 | 『英語力がぐんぐん伸びる!コニュニケーション・タイム』 13の帯活動&ワークシート(明治図書、2013年) |
上山晋平著 | 『英語教師のためのアクティブラーニングガイドブック』(明治図書、2016年) |
安木真一著 | 『英語力がぐんぐん身につく!驚異の音読指導法54』(明治図書、2010年) |
今井康人著 | 『英語を自動化するトレーニング応用編』(アルク、2012年) |
今井康人先生 | 『埼玉県私立中高協会英語研修会 資料』(2017年度) |
本多敏幸先生 | 『ELEC夏期英語教育研修会 資料』(2016年度) |
参考資料 | 『中央教育審議会教育課程企画特別部会 資料』(2016年) |
参考資料 | 『授業改革先取り対策セミナー 資料』(日本教育新聞社/株式会社ナガセ主催 2017年) |