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教師の方へ

授業実践記録(理科)

アクティブ・ラーニングを取り入れた理科の授業実践

佐賀大学文化教育学部附属中学校 力久 茂昭

1.はじめに

国立教育政策研究所の報告書において,これからの学校教育で身に付けさせていくべき資質・能力として,「課題を解決させるため」の資質・能力という視点で学力の三要素が再構成された「21世紀型能力」が提案されました。また,中央教育審議会の中では,「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視することが必要であり,課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習や,そのための指導の方法等を充実させていく必要がある。」との指摘がありました。

そこで本校理科部会では,21世紀型能力の育成を見据えて,協調学習の1つである知識構成型ジグソー法を取り入れ授業実践を行っています。課題に対してグループの各個人が情報を持ち寄って話し合いすることで課題解決ができる仕組みを用意することで,必然的に個人に役割と責任感が生じて,意欲的な活動になると考えました。自分の考えや観察・実験から得た結果を交流し合い,共有化させる活動を大切にして,生徒相互の科学的な思考力・表現力を高めることにつなげていく取り組みです。

2.単元のねらい

3年生の化学変化とイオンの授業を例に,実践を紹介します。

新しいエネルギーをいかにして生み出すか,どのようにエネルギーを活用していくかは今後,持続可能な社会の構築に向けてきわめて重要なことです。エネルギーを生み出す方法は多岐にわたり,その中でも電池は,電気エネルギーを生み出すもっとも身近な道具です。そこで今回の授業実践では,電池を題材とし探究を通してエネルギーの将来についても考えさせていきたいと考えました。また,化学電池は,電気エネルギーを得るために化学変化を利用しています。化学変化には,原子や分子,イオンなどの粒子が関係しており,化学電池を題材に取り上げることで,エネルギーだけでなく粒子に対する理解の深まりも期待できると考えました。以上のような理由から,本単元を貫く問いを「化学電池にはどのような工夫がかくされているだろうか」と設定しました。この問いを探究することにより,学習指導要領の柱であるエネルギー概念,粒子概念の形成にもつながると考えます。

3.単元の授業過程

「化学変化とイオン」は全13時間で行いました。授業案の一部を紹介します。

過程 課題と内容 時間 教師の指導・支援 評価とその方法
導入 1 人類が抱えているエネルギー問題について,考えよう。 1 エネルギーについて,用途や生み出す方法,問題点を明らかにさせ,電気エネルギーを生み出す道具として電池を取り上げ,問いを設定する。 ・電池のしくみについて関心をもち,日常生活との関わりで見ようとしている。(観察)
問い:化学電池にはどのような工夫がかくされているだろうか
展開 2 どのような水溶液が電流を流すのか調べよう。 2 どのような水溶液が電流を流すのか調べさせ,水溶液を電解質,非電解質に分けさせる。
3 水溶液を流れる電流の正体を調べよう。 3-(1)塩酸,塩化銅水溶液の電気分解の実験より,電極付近でできる物質を調べ,電流が流れるときに化学変化が関係していることを見い出させる。 ・計画した実験を行い,結果を得ている。(ワークシート)
3-(2)実験結果から,塩酸や塩化銅水溶液では,水素原子,銅原子,塩素原子が電気を帯びていることを推測させる。
4 イオンができるしくみを説明しよう。 4 原子の構造を理解させ,原子が電子を放出したり,受け取ったりすることによりイオンが形成されることをモデルを使って説明させる。 ・イオンの生成が原子の成り立ちに関係していることを説明することができる。(ワークシート)
5 電池のしくみを調べ,しくみを説明しよう。 3(本時
2/3)
5-(1)ボルタ電池のしくみを調べ,イオン化傾向や起電力の実験結果を基に電池ができる条件について説明させる。 ・実験結果をもとに自分の考えをつくっている。(ワークシート)
5-(2)ボルタ電池のしくみをイオンモデルをつかって説明させる。
展望 6 いろいろな電池の活用と他への利用を調べよう。 6 これまでの学習を踏まえ,身近にある電池の工夫点やメッキなどへの利用についてレポートにまとめ,報告させる。 ・化学変化とイオンの関係性について,自分の考えを導いたりまとめたり,表現することができている。(レポート)

4.ジグソー法導入過程

(1)知識構成型ジグソー法について

生徒が主体的になるには「強い課題意識」や「問題解決能力」が必要であり,協働的になるには他者との話し合いによる「合意形成能力」や「批判的な思考力」が必要となります。それには,アクティブ・ラーニングを学習活動に効果的に取り入れることが望ましいと考えます。そこで協調学習の1つとして挙げられる,知識構成型ジグソー法に取り組みました。本時の授業過程を以下に示します。

(2)本時の授業過程

知識構成型ジグソー法を取り入れたのは,単元の第5次「電池のしくみを調べ,しくみを説明しよう。」である。

過程 学習活動と内容 形態 教師の指導・支援 評価とその方法
導入 1 本時の見通しをもつ。 1 本時の授業の進め方を確認させる。
課題「ボルタ電池の電極に銅と亜鉛が使われたのはなぜか,そのしくみを説明しよう」
2 ボルタ電池のしくみに対する自分の考えをワークシートに記入する。 2 課題とエキスパート活動(E)の資料を配布し,以下のようにエキスパート班を構成させる。
E1:金属(鉄,亜鉛,鉛,銅)の塩酸に対する溶け方のちがい
E2:金属(鉄,亜鉛,鉛,銅)の塩化銅水溶液に対する溶け方のちがい
E3:異なる2種類の金属の組み合わせによる電圧のちがい
展開 3 エキスパート活動を行い,それぞれの実験結果をまとめ,自分の言葉で説明できるようになる。 3-(1)金属の表面の変化や電圧の大きさに着目させ,実験結果を説明できるようになっているか班内で確認させる。
3-(2)実験のようすをタブレットで録画させ,説明の補助にできるように促す。
4 ジグソー活動を行い,ボルタ電池のしくみを明らかにし,課題に対する考えをまとめる。 4-(1)他者の説明を聞いて,金属のイオン化傾向と電池の起電力との関連を考えさせる。 ・自分の考えを根拠をもって説明することができている。(発表)
4-(2)ボルタ電池のしくみについて,課題に対する答えを出させる。
5 クロストーク活動を行い,課題に対する答えを全体で発表し,答えの根拠を検討する。 5 ホワイトボードに記入した考えをタブレットで撮影し,電子黒板に表示させ,いくつかの班に発表させる。 ・電池のしくみをモデルを使ってまとめることができている。(ワークシート)
展望 6 ボルタ電池のしくみについて,学んだことを振り返り,ワークシートに記入する。 6 授業前と授業後の考えを比較させ,化学電池の中で生じている化学エネルギーが電気エネルギーに変化されているしくみを考えさせる。

E1,E2,E3とは,エキスパート班における各課題である。

知識構成型ジグソー法の班構成は,1学級40人を1班4人構成の10班として,以下のようにしています。Aの生徒がE1の課題,Bの生徒がE2の課題,Cの生徒がE3の課題を担当し,エキスパート活動においてその課題を解決し,再び元の班に戻り,クロストーク活動において,3つの異なる視点から問いに対しての答えを導き出すようにしています。

知識構成型ジグソー法での班の構成
知識構成型ジグソー法での班の構成

(3)エキスパート活動のようす

メインサーバーに保存している各班のデータ
メインサーバーに保存している各班のデータ

本校では,タブレットPCを導入し授業を行っています。観察・実験の様子やホワイトボートにまとめた内容を動画,静止画で撮影し,メインサーバーのフォルダに保存するようにしています。生徒が必要に応じて,データを用い授業の振り返りや情報共有に利用しています。今回の授業では,タブレットPCを各班に2台準備し,課題解決のための観察・実験の様子を同時に記録しています。

E2の課題である,「金属(鉄,亜鉛,鉛,銅)の塩化銅水溶液に対する溶け方のちがい」では,銅イオンより陽イオンになりやすい金属を,実験結果から導き出しイオン化傾向を考えることができていました。実験結果はワークシートに記入をしていますが,クロストークで説明する際により分かりやくするために,静止画にポイントを記入したり,比較し結果を検証しやすいように撮影を工夫したりする班が多く見られました。

E3の課題である「異なる2種類の金属の組み合わせによる電圧のちがい」では,簡易テスターを用いて,異なる2種類の電位差を調べ,より大きな電圧になる電極の組み合わせを考えることができていました。また,指定された金属の組み合わせ以外の測定を行い,意欲的に実験に取り組む班も見られました。

(4)ジグソー活動のようす

再びジグソー班に戻り,それぞれのエキスパート班の結果を報告し,課題を解決していきます。自分の担当した実験結果を,他の班員に正確により分かりやすく伝えなければ,課題を解決することができないため,一人ひとりの責任感も高まっています。他の意見を取り入れ,自分の考えと関連付けることを行うことで,協働して課題を解決することを促しています。

(5)クロストーク活動のようす

クロストーク活動では,各班の考察や疑問などを報告し合い,お互いの考察と根拠を確認します。各班がホワイトボードにまとめた内容をタブレットPCに取り込み,電子黒板上で比較します。各班の考えを説明させ,その根拠が科学的なものになっているか問いかけます。このような活動を行うことで,思考力,表現力を高めることができると考えます。

5.まとめ

今回の実践で,課題を分担したことで生徒一人ひとりの責任が明確になり,問題意識をもって主体的に問題解決に取り組む生徒が増えました。これまで,観察・実験を他人に任せてしまう生徒も,実験に積極的に取り組み,ジグソー活動の話し合いでも自分の実験結果を伝え,主体性の高まりが見られました。生徒の主体的,協働的に探究する意欲を高めるとともに,思考力,表現力を高めることに有効であったと考えます。

知識構成型ジグソー法を取り入られる場面は多くあります。今後も実践を重ね,生徒が学ぶことの意義や有用性を感じるような授業を目指します。