授業実践記録(理科)
「考える力」を育てることを大切にした理科の授業
1.はじめに
学習指導要領の理科の目標として「自然の事物・現象に進んでかかわり,目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め,科学的な見方や考え方を養う。」とあります。しかし,普段の授業の中で,生徒たちの様子はひたすら板書を写し,それを覚えるという学びのスタイルからなかなか抜け出せずにいるのではないか?というのが実感です。
そこで,以前より私は,科学教育研究協議会や仮説実験授業等の実践で学びながら,課題を提示し,その課題に対する答えについて,理由も含めて考え,その意見を述べ合い実験・観察することで何が正解かを確かめるという,生徒の論理的思考力を育てる授業づくりを積み重ねてきました。
2.具体的な展開例
〔写真1〕
音の導入の授業を例に,具体的にどのような授業なのかを示していきます。私は音の導入はばねの振動から入り,振動数が増えるとやがて音がきこえることから,音とものの振動が関係あることを印象づけるようにしています。
「ものの振動と音」ということで,演示実験で導入とします。〔写真1〕
【実験1】ばねにおもりをつり下げて,おもりを引いて手を離すと,おもりは上下に振動します。1秒間に振動する回数のことを振動数と言います。ばねの振動数を求めてみましょう。
ばねを振動させながら,全員で1,2,3,…と数えます。
《実験結果》10秒間に( )回振動したので,振動数は( )Hz〈回/秒〉
( )の中に結果を書かせます。写真のばねでは100gのおもりをつり下げて,10秒間に6回振動しました。
次に,【問1】を考えさせます。
【問1】おもりを離す位置を下に下げ,おもりの振幅を大きくすると振動数はどうなるでしょうか。
生徒は《自分の考え》として,振動数は「大きくなる」「小さくなる」「変わらない」のいずれかを選び,そう考えた理由を書きます。
ここで大切なのが,正解を求めているのではなく,間違ってもいいから自分の考えが書けることがすばらしいと,折に触れて繰り返し強調することです。全員が書ける時間をとった後,手を上げさせて人数を確認します。このとき,クラスの出席者数に合うまで数えます。このことにより,ひとりも切り捨てず参加させる授業なのだと生徒たちは認識します。人数が出席者数に合ったあと,理由を聞いていきます。理由を聞く順番は,原則として少数意見からにしていますが,課題によってその都度,どの順に聞いていけばいいのかを考えています。今回の【問1】の場合は「大きくなる」「小さくなる」「変わらない」の順に聞きました。
生徒たちから出た主な理由を上げておきます。
「大きくなる」理由
- ばねをのばすと戻る力が大きくなり,おもりの勢いが増すから,振動する回数が増えるから,振動数は大きくなる。
- メトロノームはおもりを下げると,回数が増えるからそれと同じだと思う。
「小さくなる」理由
- ばねの振幅を大きくするとおもりが移動するのに時間がかかるから振動する回数が減るので,振動数は小さくなる。
- 小学校でやった振り子の実験で,糸を長くしておもりを下げると振れる回数が減るので,それと同じだと思う。
「変わらない」理由
- おもりを下げるとおもりの勢いが増すが,その分,距離も増えて,振動数は変わらない。
- 小学校でやった振り子の実験で,振れる幅を変えても振れる回数は変わらなかったから,振動数は変わらないと思う。
〔写真2〕
このような意見が出てきます。「それでは実験で確かめよう」ということで,ばねのおもりを【実験1】のときより2倍ぐらい下げて,1,2,3…と全員で数えます。
結果はやはり10秒間で6回振動しますから,生徒は《実験結果》の欄に結果を書きます。そして,《わかったこと》として『同じばねならば,振幅が大きくなっても,振動数は変わらない』ことを確認します。
続いて【実験2】の説明をし,演示実験をします。
【実験2】ステンレスの金尺の片方を固定して振動させます。振動数を求めてみましょう。
先ほどと同じく,全員で確認しながら振動する回数を数えていきます。〔写真2〕の金尺で60cmの長さで振動させると10秒間に24回振動しました。
《実験結果》10秒間に( )回振動したので,振動数は( )Hz〈回/秒〉
金尺の振動数を確認した後,【問2】を訊きます。
【問2】振動しているところを短くすると,振動数はどうなるでしょうか。
これも振動数は「大きくなる」「小さくなる」「変わらない」のいずれかを生徒は書き,そう考えた理由を《自分の考え》に書きます。
この問いでは「大きくなる」と考える生徒が多いので,「変わらない」「小さくなる」の順に理由を聞いていきます。
「変わらない」理由
- ばねの実験のときに変わらなかったから今回も変わらない。
「小さくなる」理由
- 短くなると振動しにくくなると思う。
止まってしまうのではないか?と考える生徒もいます。
「大きくなる」理由
- 短くすると重さが軽くなるから,その分振れやすくなると思う。
- 短くすると振動させるのに力がいるので,その分,速く振動すると思う。
- メトロノームはおもりを下げて短くすると,速く振れるからそれと同じと思う。
これも意見を聞いたのち,金尺の長さを40cmにして振動させます。
結果は10秒間に44~46回(速いので生徒によって答えが違う)上下に振動することが確認できるので,その結果を生徒は【実験結果】の欄に書きます。このとき,何も言わないと,「大きくなった」としか書かないので,【実験結果】の欄は自分の言葉で見たこと,起こったこと,わかることを文章で書くように指導しています。
【実験3】定規をさらに短くすると,今までになかったことが起こってきます。どんなことが起きるか実験してみましょう。
教室全体を静かにさせて,金尺の押さえる位置を変え,振動する部分を少しずつ短くして振動させていくと,やがて音が聞こえ出します。
《わかったこと》として,次のことを書いてこの授業は終わります。
ものが振動して,その振動数が20Hz~20000Hzのとき,音が聞こえる。
3.「音」の授業の全体像
「音」の授業は全5時間で行っています。以下,2時限目以降の【実験】【問】《まとめ》も書き出して,「音」の授業の全体像を示します。
時数 | 【実験】 【問】 《まとめ》 |
---|---|
1時限目 | 1.振動と音 【実験1】ばねにおもりをつり下げて,おもりを引いて手を離すと,おもりは上下に振動します。1秒間に振動する回数のことを振動数と言います。ばねの振動数を求めてみましょう。 【問1】おもりを離す位置を下に下げ,おもりの振幅を大きくすると振動数はどうなるでしょうか。 【実験2】アルミの細い棒の片方を固定して振動させます。振動数を求めてみましょう。 【問2】振動しているところを短くすると,振動数はどうなるでしょうか。 【実験3】定規をさらに短くすると,今までになかったことが起きます。どんなことが起きるか実験してみましょう。 《まとめ》ものが振動して,その振動数が20Hz~20000Hzのとき,音が聞こえる。 |
2時限目 | 2.音の大きさと高さ 【実験4】モノコードをはじいてみよう 音を大きくする方法と音を高くする方法を自分たちで見つけましょう。 【発展】モノコードで弦の長さが音の高さに関係していることがわかったので,弦の長さを変えて,ドレミ…の音階をつくってみましょう。 (生徒たちは音を聴きわけにくいので,音さを鳴らし「ラ」の音を聴かせたり,キーボードでドレミ…を聴かせたりした方がよいでしょう) 《実験結果》として,弦の長さを記録します。 《まとめ》 ①弦などの振動する物体の振幅を大きくすると,振動数は(変わらない)が,音の大きさは(大きくなる)。 ②弦などの張る強さを強くしたり,弦の太さを細くしたり,長さを(短く)すると,振動数は(大きく)なり,音の高さは(高くなる)。 |
3時限目 | 前時の測定結果のうち,高い「ド」と低い「ド」の弦の長さを,各班ごとに黒板に書きます。 ドレミ…の振動数を示すと,高い「ド」の振動数は低い「ド」の振動数の2倍になっていることに生徒は気づきます。そのことから,高い「ド」の弦の長さは低い「ド」の弦の長さの2分の1になるはずであることを推測できる子もいるので,そのことを実験結果で確かめます。 【実験5】オシロスコープで音の波形を見てみましょう。 フリーソフト「振駆郎」を使って,大型テレビ画面に音の波形を出して,音の高低や音の大小によって,波形がどのように変わるか生徒とともに確認していきます。(音さを使ったり,生徒の声で確認していきます) ※オシロスコープの波形で振動数や振幅を知るにはどうすればよいのかを説明します。 |
4時限目 | 3.振動を伝えるもの 【実験6】大太鼓の前に火のついたろうそくを立てます。大太鼓をたたくとろうそくの炎はどうなると思いますか。理由も書きましょう。 【実験7】音さAと音さBを用意し,開いている口を向かい合わせにし,音さAを鳴らしてすぐに振動を止めます。どんなことがおこりましたか。 【実験8】ガラスの容器の中でブザーを鳴らします。まわりの空気を抜いていくと,どうなると思いますか。理由も書きましょう。 《まとめ》音が聞こえるのは,(空気)が物体の(振動)を伝えるからです。 |
5時限目 | 4.音の伝わる速さ 【実験9】AとBの2人がスタート位置から10mはなれた場所と,100mはなれた場所に立ちます。先生がスタート位置から陸上競技用のピストルを撃って,その音が聞こえたらすぐに座ってもらうとどちらが早く座るでしょう。理由も書きましょう。 《自分の考え》を確認した後,グラウンドに出て実験をします。 (同時に押したストップウオッチをそれぞれ持ったCとDの2人をAとBの横に立たせ,音がきこえたら止めるように指示を出しておきます。ここでAとBにストップウオッチを止めることもやらせてもいいのですが,1つの役割に神経を集中させたほうがいいようです) 理科室に戻り,実験結果の確認と音の速さの計算をします。 音の速さは340m/秒であることを伝え,実験結果との比較をします。(かなり誤差は大きくなります) 【問3】雷は,必ずピカッと光ってからゴロゴロと雷鳴が聞こえてきます。なぜですか。 理由を聞いて,光の真空中での速さと音の速さとの違いを示して終わります。 |
4.まとめ
今まで述べてきましたように,《自分の考え》を書かせて,それを発表させ,実験・観察によって確かめるスタイルの授業を年間通してやることによって,大部分の生徒たちが《自分の考え》を書けるようになってきます。その中には定期テスト等の結果はおもわしくないのに,すごく論理的に考えられる子がいたりして感心させられることもしばしばあります。ですから,正解を求めるのみでなく,1つの課題に対して,いろいろな考えができることを皆で味わうことも大切なことだと考えています。また,教科書に載っていないような課題の場合,ほとんどの生徒が不正解なのに,定期テストでは点数が取れない生徒が正解だったりする場合もあります。このことは,理科の苦手な生徒に自信を与えるものだと思っています。
自分の考えの発表からさらに討論にまで発展させることができれば,また違った学びの力をつけさせることができると思いますが,なかなかそこまではいけていません。本校の生徒は,ひとの意見に反論することを嫌う傾向にあり,それをするには相当のエネルギーと時間を要しますが,授業内容がちょうど年間計画通りに終わるので,授業時数に余裕のない状態ではそこまではできないというのが現状です。
また,実験・観察を重視し,可能な限り実験・観察をしていますので,それが安全に実施できるように授業規律については日頃からかなり気を使いながら指導しています。
以上,私が30数年かけて積み上げてきた授業スタイルについて述べてきましたが,先生方の実践に少しでも参考にしていただけたら幸せです。