授業実践記録(理科)
「水の吸い上げと蒸散」に関する思考・表現
1.はじめに
学習指導要領では,蒸散について,「蒸散が行われると,吸水が起こることを実験結果に基づいて理解させる。その際,葉の断面や気孔の観察と吸水の実験の結果を分析して解釈させ,吸水と蒸散について総合的な理解を図る。」とある。
今回実践した授業では,蒸散が水の吸い上げに関係していることを確かめるための実験方法を考えることを課題とし,生徒が科学的に探求する学習活動を行っていく中で,思考力・表現力の育成を図ることを目標としている。そのために,次のようなことを軸として授業を組み立てた。
「課題を見出し,課題に対する仮説を立て,仮説に基づいて課題解決のための実験計画を立てる際に思考・表現する過程において,「主張」,「根拠」,「理由付け」を意識した言語活動を行わせる。」(今回の授業では,主張は「結論」,根拠は「考えた実験方法とそこから得られる結果等」,理由付けは「結果を分析・解釈し,既習知識や科学概念と関連付けて表現すること」と捉えさせた。)
以下に,今年度の授業実践の一部を紹介したい。
2.授業実践例
(1)学習指導案
① 単元名 「植物のくらしとなかま」
3章 葉のつくりとはたらき(水の吸い上げと蒸散)
② 指導計画〈9時間〉
葉のつくりはどのようになっているのだろうか | 3時間 (本時2/3) |
植物はどのようにして栄養分をつくるのだろうか | 5時間 |
植物も呼吸しているのだろうか | 1時間 |
③ 本時の評価
- 高い木の最上部まで水や養分が運び上げられていることに興味をもち,実験方法を考える活動を意欲的に行っている。〈評価1〉
- 蒸散が水の上昇をもたらしていることを確かめるための実験方法を考え表現することができる。〈評価2〉
④ 本時の目標
蒸散が植物体内の水の上昇に関係していることを確かめるための実験方法を考える活動を通して,蒸散について理解することができる。
⑤ 本時の展開
学習活動 | 教師の支援・評価 | 備 考 |
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1 根圧,毛細管現象について知る。 |
○水が上昇する現象を見せ,課題を考える材料にする。
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細管 キッチンペーパー |
課題1 高い木の上の葉まで水が上がっていくのはなぜだろう。 |
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2 水の上昇について考える。 |
○生徒の考えを引き出す。 ・ 「蒸散しているから」 ・ 「ストローのような原理」 ○発問「なぜ蒸散すると水が上がるのだろうか。」 |
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霧吹き | |
課題2 蒸散が水の上昇をもたらしていることを確かめるための実験方法を考えよう。
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3 実験方法を考え表現する。 | ○他の人の意見と比較しやすいように,実験に用いる器具を限定して考えさせる。(キッチンペーパー,ガラス棒,幅広テープ,試験管,着色した水) | |
(1) 個人で考える。 |
○仮説に基づいて実験方法を考えさせる。〈評価1〉
○主張,根拠,理由付けにそって思考し,表現させる。〈評価2〉 |
ワークシート |
(2) 班で考える。 | ○自分の考えを出し合い,自分の考えと他の人の考えを比べ,違いを分析し修正させる。 | |
(3) 全体で話し合う。 |
○班の意見をまとめ,ホワイトボードを使い発表する。 ○互いに疑問点や反論があれば発表させる。 ○実験計画について再び班で確認する。 |
ホワイトボード |
4 次の点を考える。 (1) なぜ生け花は水の中で切るのか。 (2) あじさいの葉を用いた実験。 |
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(2)思考・表現の流れ
①【課題】
蒸散が水の上昇をもたらしていることを確かめるための実験方法を考えよう。
②【仮説】
キッチンペーパーなどを用いた植物のモデルを使って対照実験をすることによって,蒸散が植物体内の水の上昇をもたらしていることを確かめることができる。
③【課題解決のための実験計画(主張,根拠,理由付け)】
[1]「主張」(結論)
(ワークシート記入例)
[2]「根拠」(考えた実験方法とそこから得られる結果等)
(ワークシート記入例)
[3]「理由付け」(結果を分析・解釈し,既習知識や科学概念と関連付けて表現する)
(ワークシート記入例)
(3)実験方法と結果
① 実験方法
[1]ガラス棒にキッチンペーパーを巻き,幅の広いテープで覆う。(キッチンペーパーの上部と下部は少しずつ出し,テープで覆わない。)
[2]A~Eの条件を次のようにする。
- A…キッチンペーパーを乾燥したままにする。
- B…キッチンペーパーは上部から下部まですべて水を含ませる。
- C…上部にキッチンパーパーで葉の形をつくり,Aと同じく乾燥したままにする。
- D…Cと同じものを準備し,キッチンペーパーは上部から下部まですべて水を含ませる。
- E…Bと同じものを準備し,キッチンペーパーの上部が外に出ないようにテープで覆う。
[3]A~Eをそれぞれ着色した水が入った試験管の中に入れる。(AとCはすぐに水を吸い上げるので,吸い上げがある程度止まってから,着色した水の量を同量に調整し,それぞれに油を少量加える。)
[4]風通しがよい明るいところに置く。
② 結果
● C・Dは上部に葉の形を作ったことで,A・Bに比べて試験管内の水の変化が顕著にあらわれ,Dは着色した水がすべてなくなった。(Dは葉の形のところまで,すべて水を含ませることによって,水がとぎれずに上ることができる。また,上部の面積が大きい分,水がどんどん蒸発(蒸散)するので,水がさかんに引き上げられることにつながった。)
● A・Bはともに着色した水が減少したが,差はわずかであった。(このAのサイズでは,蒸発(蒸散)に関係なく着色した水が自ら上部まで上がってきてしまうことが分かる。もっと長いガラス棒で装置を作った方が結果を分析しやすい。)
● Eは変化しなかった。(気孔の開閉に伴う変化を考える材料にも使える。)
3.おわりに
今回の授業では,課題に対して興味を持つことが大切である。そのために,まず高い木の最上部まで水や養分が運び上げられていることに興味を持ち,課題意識を持つことからのスタートとなる。根圧と毛細管現象だけでは,水が高い木の最上部まで上がらないことや,道管の中では,水が柱のようにつながっている(凝集力)ことなどを知識として教え,その上で「蒸散」というはたらきが,植物体内の水の上昇に関わっているのではないかという仮説へつなげることが重要となる。そして,生徒が仮説に基づいて,そのことを確かめるための実験計画を主張,根拠,理由付けの流れにそって思考・表現することで,科学的な思考力・表現力を育みたいと考えた。これは,現在勤務する中学校の研究と関連させたものであるが,特に,実験結果を分析・解釈し,既習知識や科学概念などをもとに関連付けながら理由付けしていく活動を重視し取り組んでいる。このような流れで他の単元でも授業実践を重ね,科学的な思考力・表現力を高めたい。
4.参考文献
- 文部科学省:中学校学習指導要領解説 理科編,2008
- 熊本大学教育学部附属中学校:研究紀要「未来を拓く思考力・判断力・表現力の育成」,2012
- 未来へひろがるサイエンス1 啓林館,2012