授業実践記録(理科)
3年【運動とエネルギー】
向きが異なる2つの力の合力の実験について
1.はじめに
旧学習指導要領では,2力のつり合いについては,1学年で扱い,力の合成や合力(力の分解や分力)については必修ではなく発展的な内容であった。新学習指導要領では,3学年で2力のつり合いや力の合成と分解について取り扱い,力の規則性について旧以前の学習指導要領で扱ってきた内容にほぼ戻して必修としている。また身の回りにみられる合力や分力の例,特にトラス橋などについて扱っている。
私は今まで,向きが異なる2つの力の合力について,実験がなかなかうまくいかず,また生徒の興味関心も薄く,さらに日常生活との関連が十分にはかれないで終わってしまっていた。特に実験については,バネばかりを水平方向で引く方法に疑問を抱いていた。本来,バネばかりは鉛直方向で物体をつりさげて重力の大きさを測定する器具である。そこで教科書の水平方向の方法から鉛直方向での方法に変更して実験を試みた。
2.実験の工夫とその実践
図1
図1 鉛のおもりを輪ゴムにかけ,鉛直方向につりさげて,輪ゴムの開く角度を変え,手の感覚と輪ゴムののびを調べた。生徒一人一人が実際に自分の手で行うよう指導した。
図2
図2 板(または画板),B4の紙,鉛のおもり,たこ糸,滑車,画鋲,バネばかり,定規を用意する。
図3
図3 滑車はホームセンター等で購入し,鉄のこで軸を切って使用する。
図4
図4 おもりを鉛直方向につりさげ,バネばかりで測定する。
図5
図5 滑車を画鋲で固定し自由な角度で2本のたこ糸でつりさげ,バネばかりでつりさげる力の大きさを読む(班で協力させて次の留意点をおさえさせる)。
※留意点
・まっすぐ鉛直方向に引く
・板にたこ糸を接触させない
・滑車が自由に動くように画鋲で調整する
図6
図6 0.1N=1cmの大きさで力の矢印を記入する3つの矢印の先を結び,どんな図形ができるか調べる。さらに引く方向を指示したプリントで上記と同様の操作を行う。
3.第3学年理科学習指導案
① 単元名 運動とエネルギー(力の規則性)
② 単元について
(1)「教材観」
力について,生徒は小学校でてこや振り子,中学校1年で力とバネののび,圧力,水圧について学んでいる。3年生の運動と力の単元では,「運動に規則性ある」「測定値に含まれる誤差を踏まえて考察する」「仕事の概念の導入として,日常生活と結びつけてエネルギーの移り変わりと保存について理解する」などの見方や考え方を育成させる。単元を通して「どんな規則性があるか」「誤差が生じたのはなぜか」「日常生徒のどんな場面でそのような力が働いているか」を意図的に考えさせたい。
「指導観」
物体に働いている力は目に見えない。そのため,観察や実験の際には物体の運動の様子を見たり,バネばかりの目盛りを読み取ったりして,どんな力が働いているか考えさせる。
力のつりあい,合成,分解では,他の実験に比べて変化に乏しく,興味を引きにくい単元である。しかし,目に見えない力であるからこそ,生徒が理解できるようになると自分に身についた見方や考え方の伸びを実感するようになる。この変容を価値付け,日常生活と関連を図りながら指導にあたりたい。
「生徒観」
生徒の多くが,実験や観察は楽しいと感じているが,物事を科学的に思考したり,結果をまとめたりする部分ではなかなか楽しさや喜びを見出せないでいる。生徒は日常,様々な機会に多様な運動を経験し,力の働きを感じている。それと同時に目に見えない力の存在を表すことにわかりにくいという苦手意識を持っている。実験や観察の楽しさにとどまらず,それを手がかりに科学的に思考していく楽しさを体感させたい。
(2) 学校研究課題との関わり
本時では,導入で実験の結果を予測し,結果を話し合いや自分のことばでまとめることにより,考察して思考力や表現力の育成を図る。
(3) 教育に関する3つの達成目標との関連
- ①話し合い活動にしっかりと参加し,班員や級友の発表をしっかりと聞く。
- ②効率よく実験ができるように班で協力や工夫をして全員が実験に積極的に関わる。
③ 単元の目標と評価規準
【自然事象への関心・意欲・態度】
身の回りの物体の運動の規則性に関心を持ち,進んで観察,実験を行ったり,それらの事象を日常生活と関連づけて考察しようとする。
【科学的な思考・表現】
身の回りの物体の運動を調べる方法を考え,観察,実験などを行い,規則性を見いだすことができる。
【観察・実験の技能】
力学台車の運動の実験を行い,記録タイマーの基礎操作の習得と結果をグラフにまとめることができる。2力の合力を実験から求められ作図ができる。簡易速度計,レール,小球をつかって運動エネルギーや位置エネルギーを調べ,結果をまとめることができる。滑車やてこを使って仕事の大きさを測ることができ結果をまとめることができる。
【自然事象についての知識・理解】
運動の変化と力,等速直線運動,2力の釣り合いの条件,慣性の法則,作用・反作用の概念,力学的エネルギー保存の法則,仕事の原理,仕事率について説明できる。
④ 指導計画 〈22時間計画〉
物体のいろいろな運動 | 9時間 |
力の規則性 | 6時間(本時 2/6) |
エネルギーと仕事 | 7時間 |
⑤ 本時の学習
(1) 本時の目標
実験を通して,一直線上にない2力の合力とつり合う力の規則性を自ら見つけることができる。そして一直線上にない2力の合力はそれぞれの力を表す矢印を2辺とする平行四辺形の対角線で表されることが理解できる。
(2) 本時の展開
学習内容・活動 | 教師の援助活動・留意点 | 備考・評価 | |
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導 入 15 分 |
1 身近な事象をもとにして,2力の合力について考える。 2 向きが異なる2つの力の合力について疑問をもち予想する。 |
○可動式のいすを2本のロープで引っ張ってみて,合力の方向に動くことを見させる。 ○おもりを2人で物体をもった場合と1人でもった場合とバネばかりの値が違ってくることを示す。 ○物体を1人で持った場合と2人でもった力は同じはたらきをしていることを説明する。 ○物体をつるした2本の輪ゴムの角度と伸びの関係を見つけさせる。 | ○図1,図2,図3の問題について,自ら進んで解決しようと取り組んでいる【関・意・態】 ○今までの生活体験をもとに2力の合力の方向を予想できる【思・表】 |
課題: 物体に方向の異なる2方向に引いた力と,同じはたらきをする1方向に引いた力との間にはどんな関係があるか,実験を通して調べる。 |
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展 開 25 分 |
3 実験3の別法を行う。 4 作図を行い,班で話し合い,規則性を見出す。 |
○グラフ用紙を板に固定し,床と垂直に立てる。滑車をピンで固定しバネばかりを垂直方向で測る。 ○最初は自由な角度で,その後あらかじめ指定した4種類の角度について行う。 ○鉛直方向の上向きの力を作図し,3つの力の間にどのような関係があるか考えさせる。補助線を引かせてみる。 | ○班で協力して,正しい方法で,手際よく誤差が少ない実験ができる。【技能】 ○力の大きさを矢印で比例して図に表すことができる。【技能】 ○班で話し合い活動が行われ,活発に意見交換ができる【関・意・態】 |
ま と め 10 分 |
5 考察の発表とまとめを行う。 6 次回の予告を聞く。 |
○一直線上にない2力の合力はそれぞれの力を表す矢印を2辺とする平行四辺形の対角線で表されることを理解させる | ○自分の考察を自分のことばでまとめ発表できる【思・表】 |
4.その他
力の分散の説明で使用したもの(自作)
図① 給食の牛乳パックで作成したアーチ | 図① |
図② 給食のストローでトラス構造をつくり手でつぶしてみる | 図② |
図③ 厚紙でつくったトラス橋 | 図③ |
図④ 一枚の厚紙での強度の比較 | 図④ |
図⑤ 紙でアーチをつくり10円玉をのせてみる | 図⑤ |
5.おわりに
どの教科書の実験も,バネばかりを水平に使用している。その際,注意点として0点調整をして おくこととある。しかし実際行ってみると,かなりの誤差を生じる。
鉛直方向で行うとより平行四辺形に近づき,考察も容易になる。
ただし班の協力が必要である。
また水平方向の実験では,力の大きさがバネや輪ゴムの伸びでは,実験の目的も理解しにくく,力の概念がわかりにくい。ただし,鉛直方向だけの2力だけだと,固定観念ができあがってしまうことも予想される。力の合成や分解は,可能な限り,日常生活と関連づけることが重要である。さらに生徒が,目的意識をもって授業や実験に取り組めるよう日々教材や指導法の工夫を考えていきたい。
6. 参考資料・文献
鳴門教育大学HP