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生活

自立し生活を豊かにする生活科の在り方

鹿児島県教諭

1.はじめに

私が生活科の授業に限らず,日頃の教育活動で意識していることは,子どもたちに魔法をかけることである。子どもたちが自分の良さや周りの人の良さに気付いていけば,主体的で生き生きとした言動をして,そしてより良くなりたいと成長していけると考える。そのために,効果的な声の掛け方,切り返し方,場の設定等が大切であると考える。

2.テーマ設定について

(1) 今日の教育的課題から

現代社会の変化は著しく,子どもたちの生活や意識に多大な影響を及ぼしている。また,現在の子どもたちの実態をみると,いじめや不登校,非行などが大きな問題になったり,生活上必要な習慣や技能も十分身に付いていなかったりする状況がある。さらには,自主性や自立の精神が乏しいということも指摘されている。
子どもたち一人一人が,全人的な発達を遂げるためには,児童・保護者・教師の三者が互いに理解し合い,個人と個人,個人と集団,集団相互が互いに作用し,高め合う必要があると感じた。

(2) 本校の教育目標及び生活科の課題から

本校の校訓は,「ふるさとを愛し,夢に向かって自ら学び,共に生きる市の子を育てる」である。そして,本校が目指している子ども像は,「自ら学ぶ子ども」,「心豊かな子ども」,「たくましい子ども」である。また,生活科の課題として以下の4点があげられる。

  • 1:活動あって学びなし。具体的な学びを通して,どのような思考力等が発揮されるのか検討する必要がある。
  • 2:幼児教育との連携。幼児教育において育成された資質・能力と小学校低学年教育で育成される資質・能力との繋がりを明確にし,そこでの生活科の役割を考えること。
  • 3:幼児教育との連携や接続を意識したスタートカリキュラム。国語,算数,音楽,図画工作などの他教科との関連についても,カリキュラムマネジメントの視点から検討し,学校全体のスタートカリキュラムとすること。
  • 4:各教科への接続。社会科や理科,総合的な学習の時間をはじめとする中学校の各教科への接続を明確にすること。

具体的な活動や体験を通して,身近な生活に関わる見方や考え方を生かしていくことが大切であると考えた。
以上のことから,「自立し生活を豊かにする生活科の在り方」をテーマに設定した。

3.研究の仮説

<仮説1>

無自覚な気付きや単発的な気付きを大切にしていったならば,子どもたちは自らめあてをもって動き出していけるのではなかろうか。

<仮説2>

実感や体験に基づく理解や気付きを対話活動によって自覚させることができれば,気付きの質を高め,自信を深めることにつなげることができるのではないだろうか。

4.研究の実際

(1) <仮説1>に対して

①切り返しによって

図1は,子どもの発言に切り返すことによって,よく跳ぶように作成できたおもちゃである。発言の一部を紹介する。

  • 子ども:もっと跳ぶといいのにな。
  • 教 師:どうやったら跳ぶようになると思う?
  • 子ども:輪ゴムを2本にしてみたいです。
  • 教 師:どうぞ。やってみましょう。
  • (子どもは,輪ゴムを二重にして取り付けた。すると,紙コップがつぶれてしまった。)
  • 子ども:先生,コップがつぶれました。
  • 教 師:そうだね。どうしたらつぶれないかな。
  • (子どもは,10分程試行錯誤していた。)
  • 子ども:先生,輪ゴムをクロスにするとつぶれません。
  • 教 師:すごい。〇〇さんは発明家だね。よく考えたね。
  • (子どもは満面の笑みを浮かべていた。)

図1

図2は,授業の終末で,本時の振り返りを発表している場面である。一部を抜粋する。

  • 子ども:今日はいつもより明るくお店屋さんをすることができました。
  • 教 師:何で今日は明るくできたのかな。
  • 子ども:お客さんが来てくれたからです。
  • 教 師:そうだね。周りの方からパワーをもらうことができるんだね。どんな気持ちでしたか。
  • 子ども:嬉しかったです。
  • (身近な人々と関わる良さを感じているようであった。)

図2

②声掛けによって

図3は,トコトコガメというおもちゃを作成している際に,甲羅に折り紙を小さくちぎって,1つずつテープで貼っている場面である。

  • 教 師:〇〇さん,よくがんばっているね。
  • 子ども:先生,でも大変です。
  • 教 師:そうだね。どうやったら速くできそうかな。
  • (子ども1分程考える。)
  • 教 師:1つずつではなく,まとめて貼れないかな。
  • 子ども:そうだ。
  • (テープを長くして,そこにまとめて折り紙を付けてから貼る方法を思いつく。)
  • 教師:すごい。いい方法だね。
  • (子どもは喜んで製作を続けていった。)

図3

図4は,おもちゃランドの得点表を書いている場面である。

  • 子ども:先生,真っすぐに書くのが難しいです。
  • 教 師:そうだね。どうやったら真っすぐに書けるかな。
  • (子ども1分程考える。)
  • 子ども:そうだ。定規で線を引きたいです。
  • 教 師:どうぞ,やってみましょう。
  • (子どもは自分で考えた方法なのでいつも以上に生き生きと活動していた。)

図4

(2) <仮説2>に対して

①対話活動の時間を十分に確保することによって

図5は,おもちゃランドの看板を作成するための6色ほどある折り紙の順番を話し合っている。

  • 子どもA:こことここは同じような色が並んでいるから入れ替えようよ。
  • 子どもB:端は明るい色がいいんじゃない?
  • 子どもA:斜めにした方がかわいいよ。

図5

などと楽しそうに対話をしながら,看板を作り上げていた。

図6は,店員の練習をしている様子である。お客役の子どもと振り返りをしながら,高め合っている様子である。

  • 子どもA:もっと明るく話した方がいいよ。
  • 子どもB:池が分かりにくいから,ひもを付けた方がいいんじゃない?

図6

などと意見交換して,よりよいお店にすることができていた。

②対話活動の場を意図的に設定することによって

図7は,割り箸鉄砲のゴムが引っ掛かりにくかったので,皆に意見を求めさせたところである。クラスの全員に問いかけると,「先に切れ込みを入れるといいんじゃない?」とアイディアが出てきて,改造している様子である。

図8は,おもちゃランドのオープニングで何かできないか問いかけたところ,お店の紹介や工夫したところを話そうということになり,自分たちで練習をしているところである。

図7

図8

上記の取組の発表として,研究授業を行ったので,その授業研究の資料を示す。

5.実践の結果

切り返しや声掛けを工夫することで,子どもたちの気付きが広がり,主体的に行動する姿がみられた。それは,子ども一人一人の良さや個性を,見つけるきっかけにもなって良かったと思う。教師がアンテナを高くして子どもたちの言動に気付くとともに,心にゆとりを持って接していくことも大切であると感じた。
さらに,教師との関わりだけでなく,子ども同士の中で気付き,改善できるようにすると,子ども自身に自信が付いてくることを実感できた。保護者の方から,「うちの子が最近,生き生きとしています。」と嬉しい言葉を頂いた。子ども自身が,自分の良さや個性を自覚して,活動できるようにしていきたいと思う。そのような活動を続けていくことで,自立し生活を豊かにできる子が育まれていくと考えた。