小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

マルチリンガル教科書を活用して

桑名市立大山田北小学校

1. はじめに

本校には,全校児童600名中50名程度の外国にルーツを持つ児童が在籍しています。国籍はブラジル,フィリピン,ボリビア,中国,ベトナムなど様々な国からやってきている。児童の日本語レベルも様々で,初来日でほとんど日本語が分からない児童から,日本生まれで日常会話には不自由のない児童まで多岐にわたっている。これらの児童には,国際教室での日本語学習や教科補充などを実施しつつも,教室に戻って学習も行っている。
日常生活上は問題なく日本語が話せる児童は,一見すぐ授業にも参加し理解できるように思えるが,学習に使われる言語理解は難しく,学習する上で困難を要している。
学級での学習指導では,JSL(Japanese as a Second Language)を学習の土台とした授業づくりをおこなってきているが,思考が母国語で完成されている児童の場合は二つの言語で思考することが必要となっている。また,理科の学習は独特の専門用語も多くあり,日本語で説明しても完全に理解を促すことに難しさを感じていた。

2. マルチリンガル教科書

啓林館の理科・生活科・算数の教科書には,それぞれの教科書に対応した,多言語対応アプリ「マルチリンガル教科書(Catalog Pocket:株式会社 モリサワ)」が作成されており,日本語,英語,韓国語,中国語繁字体,中国語簡体字,タイ語,ポルトガル語,スペイン語,インドネシア語,ベトナム語に対応している。(令和2年度は実証研究として利用。)
教科書の記述内容が,表題,本文,挿絵のすべて翻訳されている。児童の学習形態や母国語の習得状況に応じて【読み上げ】【ポップアップ表示】を選択することができる。

3年理科 わくわく理科3 じしゃくのふしぎ 【ポルトガル語】

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3. 本校での活用

【個別学習での活用】

教室の一斉授業が理解できるまでの学習言語の習得ができていない児童には,国際教室などで学習に必要な言語の学習や教室授業の先行学習,補充学習の際にこのアプリを活用している。
日本語学習のために個別で学習している児童が,当該学年の学習内容を母語での知識として持っておくことは,今後,教室での授業に参加する際に必要となってくる。マルチリンガル教科書を読んだり聞いたりして,児童が「今,教室ではこのような内容を学習しているんだ。」と分かることで,教室とのつながりを感じることができ学習の意欲にも繋がってきた。
これまでこのような補充授業は,母語の分かる教員が必要に応じて支援をおこなってきたが,この教科書を使うことで母語が完成している児童にとっては日本語が分からなくても自ら学んでいく力となっている。

【教室授業での活用】

桑名市では,児童一人一人にタブレット端末が貸与されている。児童は理科の授業中,教科書の説明や語彙が分からないときに,マルチリンガル教科書を活用することができる。
他の翻訳ソフトでは,翻訳をする際には教科書のページから離れて検索するため,どこを翻訳しているのか見ただけでは分かりにくいところがあるが,マルチリンガル教科書は実際活用している教科書のそのページ上に翻訳された母国語が表示されるため,大変理解しやすい。

2年生活 いきいきせいかつ下 これまでの わたし これからの わたし

自分の成長について聞き取ったことを,どのようにまとめるかを学習するために教科書を使って,カードに書かれている内容を参考に読みました。日本語で文章を読むことは出来る児童ですが,ポルトガル語の音声通訳を聞くことで今からやるべき事の内容がはっきりと分かり,自分が調べたことをまとめるときのヒントになった。

6年理科 わくわく理科6 大地のつくりと変化

高学年になると,教科書に出てくる学習言語が難しくなる。地層のようすを調べる方法を学習する際に,「ボーリング」という単語がある。すでに習った球技の「ボーリング」と勘違いを起こしやすいが,マルチリンガル教科書を使って意味を確認する事が出来た。

4.今後の活用方法

今年度マルチリンガル教科書の利用は,それぞれの教室に複数人いる外国にルーツを持つ児童の日本語レベルが大きく異なるため,個人タブレットを使っての活用が中心であった。しかし,このマルチリンガル教科書は,外国の児童の為だけでなく色々なケースでの活用の可能性もあると思う。教師が中心として見せたい画像を大きく映し出したり,日本語で大切な用語をポップアップさせて様々な児童に要点を注目させたりするなど,活用の可能性は大きいと思う。
今後も,多言語の児童にとっての様々な学びのサポート教材としての活用を続けつつ,色々な学び方を考えていきたい。