生活科の授業を構想するとき最も重要な課題は,教師の指導意図に沿って行う活動に対して,どのように児童に思いや願いをもたせ,どのように単元の終わりまでそれを持続させるかであると考える。具体的な活動や体験を重視する生活科では,児童の「やってみたい」という内なる思いは具体的な活動や体験を支える原動力となり,活動や体験において児童が気付きをもったり,その質を高めていったりするための大切な要素になるからである。しかし,生活科の学習者である1,2年生の特性として,活動が断続的であったり長期間にわたったりする場合,興味・関心の持続は難しいという実態がある。そこで,生活科の授業においては単元のはじめはもちろん,毎時間の授業においても児童に活動のきっかけや必要感をもたせたり想起させたりして,活動に対する思いや願いをもたせるように心がけたい。また,活動において気付かせたいことを教師が明確にもつことで児童の支援を充実させ,気付きの質を高めることにつなげたい。
第1学年 「わたしだけのお花を育てよう」
【生活への関心・意欲・態度】
○植物の変化や成長を楽しみにしながら,親しみをもち,進んで世話をしようとしている。
【活動や体験についての思考・表現】
○植物の変化や成長に合わせて,水や肥料など,世話の仕方を考えて適切に関わり,成長の様子や育てる喜びなどを振り返り,それをすなおに表現している。
○植物の変化や成長を楽しみにしながら,親しみをもち,進んで世話をしようとしている。
【身近な環境や自分についての気付き】
○植物も自分と同じように成長していくことや,自分が大切に世話をした植物が成長することの喜び,世話を続けることの楽しさなどに気付いている。
生活科では「動物を飼ったり植物を育てたりする活動」は重視されているが,その対象はあさがおでなければならないという指定はない。しかし,実際には「栽培の容易さ(水やりと1回程度の元肥・追肥で栽培できる)」や「種植えから発芽までの期間や発芽から花が咲くまでの期間が比較的短い(成長が目に見える)」等の理由からあさがおの栽培活動が一般的である。本実践でもあさがおをとり上げる。
ただ,成長が速いとは言っても,種の収穫まで3ヶ月程度の長期的な活動となる。児童の思いや願いを持続させるために,「わたしだけのお花を育てる」という意識をもたせるようにするとともに,育てる中でマンネリにならないような活動を設定して充実させるようにする。
学習活動 (◎思いや願いをもたせ持続させる活動) |
気付かせたいこと | 活動の実際 | |
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五月 |
1 あさがおの栽培活動への思いや願いをもつ。 ◎あさがおのことを書いた絵本の読み聞かせを聞く。 |
○あさがおを育てることへの思いや願い。 |
○「オオカミガロとあさがお」(世界文化社)を読み聞かせた。その後「こわかったオオカミさんがやさしくなるくらいあさがおってきれいなのかな。」と投げかけ児童の「あさがおを見てみたい」「育ててみたい」という思いや願いをもたせた。 |
2 あさがおのたねを植える。 ・種の観察 ◎自分の朝顔に名前をつける。 |
○種の特徴 ○芽が出ることや大きくなることへの期待や思い |
○自分の育てるあさがおへ親近感をもたせるために,あさがおに名前をつけさせた。 |
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3 あさがおの世話をする。 ・水やりをする。 ・あさがおを観察しながら「あさがお日記」を書いて気付いたことを交流する。 |
○あさがおの成長の変化 ・双葉と本葉の違い ・葉の数やあさがおの背丈の変化 ○葉の手触り |
○毎日水やりをし,自分のあさがおの様子を見たり伝えたりする時間を業前にとった。 ○観察の際には,親指と人差し指を丸めてめがねを作り「生活科のめがね」と命名しそこから覗いて観察するようにした。 |
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六月 |
3 間引きをする。 |
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◎大きくなったあさがおの様子を見て,同じ状況を体験し,どうしてあげたいかを考える。 ・ひっこしをする。 |
○間引きの必要性 |
○大きな段ボールを用意し,その中に植木鉢のあさがおと同じ数の人数(4人)を入れて立たせ,窮屈であることを実感させ,どうしたらいいかを考えさせた。 ○間引きしたあさがおは,学級園に移したり,給食の牛乳パックで家に持ち帰らせたりした |
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4 あさがおの支柱記念日を祝う。 |
○葉っぱの葉脈 |
○支柱を立てる日は,あさがおが元気に育った記念日だよと投げかけ,自分達がこれまで育つ中で区切りの日にしてきた「手形(足形)」を想起させ,「葉形」をとることにした。 |
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七月~九月十月 |
【やり方】 |
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5 咲いた日に,あさがおの花との記念撮影をする。 |
○花が咲いた喜び ○花を咲かせたことに対する自分に対する自信 |
○記念撮影をした写真を,「朝顔のお世話名人認定証」として全員に渡した。 |
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6 種をとる。 |
○夏休み中,家庭で世話と種取りを続けさせた。 |
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7 とれた種を再び植えて,観察する。 |
○生命のつながり ○夏に比べて早く花が咲くこと |
◎自分が育ててとれた種から,再び芽が出て育つかを予想させた。 |
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8 あさがおを育てたことを振り返り,絵と文でかく。 |
○あさがおの世話を続けた自分について |
思いや願いをもたせるための読み聞かせにより,あさがおを育てることへの期待が膨らんだ。また,「自分だけの花」という意識をもたせることは,育てる花に対する愛着を醸成するのにとても有効であった。
対象に深くかかわらせる方法としてとった「あさがおの支柱記念日」での「葉がた」をとる活動は,児童の意欲面だけでなく新たな気付きへも寄与した。それは,シートに写し出された葉脈が葉の縦横に走っている様子がくっきり表れること。また,バレンでこするとき葉脈が凸凹した感覚が児童に強い印象を与えるからだと考える。観察だけでは気付かない葉脈の厚みを実感したようだ。
また,自分の育てたあさがおの種を,また植えてみる活動を取り入れた。これは,自分があさがおを育てたことが,その命を繋いでいることを児童に感じさせたかったからである。発芽したとき「あさちゃんの子どもが生まれた」という児童もいて,命の連続性について感じ取れたようだ。最初に育てたあさがおとは違い,背丈が10cm程度で花を咲かせたことに児童は驚いていた。きたる季節に備えてあさがおは早く結実させるために花を咲かせる。その理由に気付いた児童はいなかったが,「寒かったからかな」と季節の違いから理由を考えた児童はいた。
長期的な活動であったため,児童の思いや願いの持続を図るため,あさがおを親近感と愛情をもって育てる支援をすることや,単調な栽培活動にならないように,育てていく過程の中で折々に,観察以外の活動を設定することなどを工夫した。
その結果,多くの児童があさがおを育てた自分に対して充実感を得ていた。今後も,児童の思いや願いを大切にした生活科学習を展開していきたい。
○「気付きを深める生活科授業の創造」 内藤博愛著 明治図書