小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
生活

気付きの質を高める生活科の授業づくり
-幼児教育の視点を取り入れたブーメラン作りの活動を通して-

2年 栃木県小学校 I教諭

1.はじめに

生活科は,幼児教育の成果を受け,それを小学校での学ぶ力へとつなぐ中核的教科である。生活科の趣旨である具体的な活動や体験を通して,児童が自分の思いや願いを生かし,自分自身や自分の生活についての理解を深め,生活上必要な習慣や技能を身に付けていくためには,活動の質を問う必要があると考える。

学習指導要領においても,特に,気付きの質を高めていくためには,活動や体験を充実することが重視されている。また,科学的な見方・考え方の基礎を養う観点から,自然の不思議さや面白さを実感する学習活動を取り入れていくことが必要とされている。

そこで,今回の提案では,幼児期の遊びの要素を取り入れた活動の中で,一人一人の気付きが互いに響き合う活動内容の精選,一人一人の気付きが次の活動を誘発していくような活動の展開の工夫と環境構成の工夫について考えてみた。

2.実践の内容

(1)単元名 つくってあそぼう (第2学年 1月)

本単元においては,身近な材料を使っておもちゃを作り,遊び方を工夫していく過程において,遊びの面白さに加えて,その仕組みや材料との関係に気付くなど,科学的な見方,考え方の基礎を養っていくことを期待している。また,友だちと一緒に活動することで,友だちの気付きやしていることを互いに取り入れながら,友だちのよさや自分のできるようになった喜びをともに味わうことができると考えている。

(2)単元の指導計画

身の回りにある材料を利用しておもちゃを作る。 2時間
作ったおもちゃを改良したり,遊び方を工夫したりする。 3時間
作ったおもちゃを使ってみんなで遊ぶ。 1時間

(3)活動の実際

◆一人一人が「ひと・もの・こと」に繰り返しかかわり試行錯誤できる活動内容の精選◆

おもちゃ作りの活動においては,作ることに時間や労力を費やし,その仕組みや作り方との関係性など科学的な見方まで気付きが深まらないことが多い。そこで,一人一人が繰り返し対象にかかわり,気付きの質を高め,友だちとの伝え合いがしやすい活動と素材を考慮し,「とばしてあそぶ」ブーメラン作りの活動を取り入れた。(宇都宮大学教育学部附属幼稚園の活動参考)

◆一人一人の気付きが次の活動を誘発していくような活動展開と環境構成の工夫◆

幼児教育においては,環境の構成が教師の間接的支援として非常に重要であることから,生活科においても活動展開と環境構成の工夫をすることで,児童の自発的な活動の中での気付きの質を高めていくことが可能であると考える。

(4)活動の展開と児童の実態

児童の様子から次のような姿が見られた。

ア ものとのかかわりの視点から

  • ・何回も飛ばすことを繰り返したり,作り直したりを繰り返す。
  • ・予想と実際との違いから「なぜ?どうやったらうまくいくの?」という疑問が生まれる。
  • ・次々と気付きが連続していく。

→紙の種類の違い,重さ(枚数)の違い
 形の違い,大きさの違い
→装飾,まわり方,空気の抵抗
→飛ばし方,投げる方向,力の入れ方

イ 人とのかかわりの視点から

・友だちの飛ばし方や作り方をまねしてみる。
         →見てまねる
・友だちと作り方や飛ばし方を教え合って試す。
         →言葉で伝え合う
・新たな気付きや目的が生まれる。
         →作りたいものが変化する
         →ベストブーメランを作ろうの活動へ

ウ こととのかかわりの視点から

・出来事が次の活動を誘発する。
 「こんなことしたい。」という思いが生まれる。
 →自分なりの追究
 →協同的な活動へ(ブーメランチャンピオンリーグをひらこうの活動)

3 成果と課題

(1)成果

容易に作り変えられ,素材の違いや数,組み合わせ方や形などを比較しやすいこと,また,児童が予想して活動することから,予想と実際との違いで試行錯誤し,科学的な思考が生まれやすい。

環境の構成の工夫によって児童の思考が途切れず,一人一人が,ものとのかかわりを繰り返し,繰り返すことで,気付きから次の活動へという連続した質の高い活動が可能になった。児童のつぶやきを大切にして活動を展開したことで,ブーメランのチャンピオン大会を子どもたちの企画で開くなど,協同的な活動へとつながった。

(2)課題

活動しながら気付きを繰り返す時間を十分に確保したいが,気付きを振り返る時間も大切にしたい。相互の時間配分が難しかった。活動として互いのしていることが分かりやすい活動であるが,意図的に言葉で伝え合う場面を増やすことで,学び合いがより充実していくと思われる。