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生活

生きて働く資質・能力を高める生活科授業

1年 鹿児島大学教育学部附属小学校 小薗 博臣

1.はじめに

今,教室で学んでいる子どもたちは,やがて社会に出て,様々な事象と出会いながら生きていく。今後の未来社会において,自己実現を目指し,活躍するために必要な資質や能力を,学校教育では培っていきたい。

実社会で求められる資質・能力は,諸機関が各々に設定し,分類しているが,おおよそ3つの側面から説明することができる。それは,①論理的思考力や問題解決力などといった探究力に関するもの②他者とのコミュニケーションや人間関係調整力といった社会性に関するもの③自己肯定感や忍耐力といった自己制御に関するものである。つまり,生きて働く資質・能力とは,「自他を尊重しながら,他者と協働し,問題解決を行う資質や能力」であると捉えた。

そこで,生活科の特質を踏まえて,生活科における「生きて働く資質・能力」を,探究力,社会性,自己制御能力の3つの視点から,下の図1のように具体化・整理した。

【図1 具体化した生活科における生きて働く資質や能力】

この,具体化した7つの資質・能力を基に,授業を見直し,実践することとした。その際,留意したいことは,これら7つの資質・能力は,生活科の学習の過程で発揮させて,高めていくということである。つまり,学習の最終ゴールとして,この7つを設定していないことを前提としたい。したがって,単元のゴールは,学力の3要素(活動への意欲,思考・表現,気付き)であり,教科のゴールは自立への基礎である。

2.実 践

1 実践単元について

第1学年 11~12月単元「木のみ・木のはと ともだち」全15時間 内容(6)

(1)本単元の目標

① 「秋の素材を使って遊びたいな。」という思いや願いを基に,木の実や木の葉などの自然物を使った遊びや工作に進んで取り組むことができる。

② 秋の素材の色や形などの特徴を生かした遊びや工作を考えたり,工夫したりすることができる。

③ 秋の素材の面白さやそれを使った活動の楽しさに気付くことができる。また,道具の使い方や片付けなど,活動上必要な習慣・技能を身に付けることができる。

(2)これまでの実践上の課題

これまでは,学校付近の森へ出かけて拾った木の実や木の葉を使って,遊んだり物作りをしたりしていた。そして,作る活動と遊ぶ活動の繰り返しを重視し,子どもの活動の連続・発展を狙っていた。しかしながら,木の実を使った物作りでは,おもちゃだけにとどまらず,アクセサリーや飾り作りに目を向ける子どもも多く,作ったおもちゃで遊ぶ活動へと発展しない姿が見られた。また,木の実・木の葉を使っておもちゃなどを作っても,そこで活動が停滞したり,作ったおもちゃを生かした活動へと発展しなかったりする姿も見られた。

(3)授業の見直しポイント

① 単元を貫く学習活動を見直す

本実践では,「森のお店屋さんごっこをひらこう」という学級共通のテーマを設定し,それに向けた話し合い活動や製作活動を中心とした。【参加・協力・自他】

② 交流活動を見直す

学習の中に,意図的に交流活動を設定した。ポイントとなる交流活動は,上で述べた,学級共通のテーマを設定する話し合い活動【交流・計画】,及びお店屋さんの準備・製作活動におけるグループ内で行われる交流活動【交流・諸感覚】である。

③ 学習カードを見直す

これまで,作ったり遊んだりしたことを表現させるための学習カードを使用していたが,本実践では,新たな活動や気付きを見出すための学習カードとし,思いや気付きを可視化させたり,互いに交流したりするツールとして活用した。【諸感覚・自分・計画・交流】

2 実践の実際(全15時間)

過程 主な学習活動と子どもの様子 教師の具体的な働きかけ
意欲をもつ

1 木の実・木の葉で遊ぶ④

【大学で秋遊び】

【教室でものづくり】

○木の実や木の葉など,秋の素材に出合い,「それらを使って,作ったり遊んだりしたいな」という思いをもたせるために,大学の森に出かけ,木の実・木の葉を使って自由に遊ばせる。

2 これからの学習について話し合う①

○共通テーマを設定するために,見付けた遊びを基に,「どんな活動をしたら,みんなが楽しめるかな?」と発問する。

活動する

3 お店屋さんの準備をする④

【アクセサリー作り】

【図工でユニフォーム作り】

○友達と協力や役割分担しながら活動できるようにするために,やりたいお店屋さんごとにグループを作る。

○ユニフォーム作りは図画工作科と,チラシ作りは国語科と,関連的に扱う。

4 ミニお店屋さんごっこをする①

【ミニお店屋さんごっこ】

【チェックシート】

○準備がひと段落したところで,ミニお店屋さんごっこを開き,何ができて,何が足りないのかを自覚的に捉えるようにする。その際,「商品」「ユニフォーム」「レジ」など,これまで取り組んできた活動を基に観点を設定し,表にまとめたチェックカードを用いる。

5 もう一度,お店屋さんの準備をする③

【チェックシートを基に準備】

【更なる工夫・アイデア】

○チェックカードを用いて,さらに工夫できるように,再度,準備の時間を設定する。

6 お店屋さんを開く①

【森のお店屋さんごっこの様子】

○お店屋さんごっこ中は,教師もお客さんとなり,意欲的な姿や分担して取り組む姿を価値付け,全体にも広げる。

振り返る

7 これまでの学習を振り返る①

・友達と協力したから,いろんなアイデアが浮かんで,楽しかったよ。

・また,木の実・木の葉で遊びたいな。

○単元全体を振り返り,絵や言葉で表現させる。その際,写真や作品などの具体物で,振り返ることができるようにする。

3 実践の考察

◎ 右のワークシートのように,友達と協力して取り組んだおかげでアイデアが浮かんできたことや楽しく活動できたことを実感する姿が多く見られた。
このような姿は,7つの資質・能力を発揮して,探究的に活動に取り組んだ姿と捉えることができる。

● 7つの資質・能力から,学習活動を設定し,働きかけを具体化することの有効性を,他の単元,内容においても実践し,検証していく必要がある。

● 総合的な学習の時間で育てようとする資質・能力との関係性を明らかにし,生活科・総合で系統的に育てることができるようにする必要がある。

3.おわりに

「生きて働く資質・能力」とは,学んだことや経験したことを「自分の学習や生活に活かす力」であると考えている。つまり,学習活動を,より探究的・横断的・協同的・発展的に展開させることが重要である。

未来社会は,イノベーションの時代である。限定的な分野でのみ物事の解決を図るのではなく,あらゆる分野を超えた広い視野で問題を解決していく人間が求められるだろう。