本校は,福岡市の中央に位置しながら,隣に西公園,近くに大濠公園があり,自然に囲まれている。また,公共交通機関を利用する子供がバスから降りて歩く通学路にはコナラやマテバシイなどのどんぐりの木が街路樹として植えてあり,秋になるとたくさんのどんぐりが落ちる。さらに本学級の子供たちは,入学後,校庭や西公園を探検して自然とかかわることが大好きである。そこで,この環境を活かして本単元「あきって たのしいな」を取り上げる。
近年の子供の育ちに関して,「学習に対する意欲や関心が低い」,「他者とのかかわりが苦手である」などの課題が指摘されている。そこで,生活科学習において,一人ひとりの思いや願いをもとに対象とかかわる一人での活動や体験とともに,他者とともに対象とかかわる活動や体験の必要性があると考え本実践を行った。そこで,本実践では単元の中に,「~したい」という子供の思いや願いに沿った「一人での活動」から「~さんといっしょにしたい」「もっと~したい」という願いに沿った「ペアでの活動」を位置付けた活動構成を行うことで,対象へのかかわり方を変容させ,対象の本質または価値,自分や他者のよさに気付かせることをねらいとする(図1)。
○ 自分の思いや願いをもって,進んで秋の自然物とかかわることができる。
(生活への関心・意欲・態度)
○ 思いや願いの実現に向けて,自分なりに工夫したり,友達とともに工夫したりして表現することができる。
(活動や体験についての思考・表現)
○ 自然を観察して秋を見つけたり,見つけた秋を使って表現物をつくったりする活動を通して,四季の変化とそれに合わせた生活の様子の変化,自分や友達の発想のよさに気付くことができる。
(身近な環境や自分についての気付き)
段階 | 活動と内容(○)と教師の支援(※) | 配時 |
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導入段階 |
1 春や夏のころの様子をふり返り,学校内外の秋みつけに関心をもち,秋を見つけたり集めたり,見つけた秋を絵や言葉で表現したりして,春や夏との違いについて話し合う。 ○ 生活の様子や日差し,植物や虫の様子,人の服装などの観点から春や夏との違いに気付くこと ※ 諸感覚を使って身近な自然と触れ合う活動の設定(関心・意欲・態度) ※ 季節によって生活の様子や自然の事象が変わることに気付く活動の設定(思考・表現,気付き) |
2 |
展開段階 |
2 秋みつけで見つけたり集めたりした秋の自然物を使って表現したり,また新しく採集しに行って制作したりする。 |
4 |
(1) 見つけた秋の自然物を使って表現する。 ○ 秋の自然物や身近にある物を使って表現することで秋を楽しむことができることに気付くこと ※ 自分が見つけたり集めたりした秋の自然物を使って,思いや願いをもとに,表現物を制作する一人での活動の設定(思考・表現) |
② | |
(2) 必要な秋の自然物を取りに行ったり表現物を工夫したりする。 ○ 自分の表現物を秋らしくするために新しく秋の自然物を採集したり使ったりすること ※ 制作に使いたい秋の自然物を取りに行ったり制作したり,繰り返し自然と触れあう活動の設定(関心・意欲・態度) |
② | |
3 自分が選んだ表現物について,ペアで一緒に考えを出し合って制作活動を行う。 |
7 | |
(1) 同じ課題を選んだ者同士でペアをつくり,一人での活動を組み合わせたり拡張させたり創造したりして表現物をつくる。 ○ ペアで表現物を作ったり工夫を加えたりして秋らしさを考え,季節の変化に気付くこと ※ 一人での活動を組み合わせたり,活動空間や表現物そのものを拡張させたり,新しく創造したりするペア活動の設定(思考・表現) |
④ | |
(2) ペア間で表現物のよさを認め合ったり工夫を出し合ったりして表現物を付加・修正する。 ○ 秋らしさを表現するための工夫や,自分や友達の発想のよさに気付くこと ※ 互いの表現物のよさを認め合ったり工夫を伝え合ったりしてさらに表現物に付加・修正するペア間での交流活動と制作活動の位置付け(気付き) |
③ | |
発展段階 |
4 ペアの表現物を持ち寄って,秋フェスタを開き,秋らしさを表現できた互いのよさに気付く。 ○ 学級全体で表現物を持ち寄り,鑑賞したり遊んだりすることを通して,秋の楽しみ方やペアの発想のよさ,がんばった自分に気付くこと ※ 秋を使った表現物を鑑賞したり実際に遊んだりして学習を振り返り,自分や他者のよさを伝え合う活動の設定(気付き) |
3 |
導入段階では,学校内外の秋見つけを通して,季節によって植物や生活の様子がどのように変わったか気付くことをねらいとしている。そのために,落ち葉や木の実の量と人通りを考慮して学校そばの沿道を探検した。子供は,春や夏と比べ様子の違いに気付いていた(写真1,2)。また,「これを使って遊びたい」という思いや願いを発表する姿が見られた。その思いや願いをもとに一人での活動を行わせた。子供は,人形や動物を描いたり,葉っぱ飛行機や魚釣り,洋服や小物をつくったりしていた(写真3)。活動後の振り返りでは,「赤や黄色の葉っぱで魚つりの魚を作って楽しかった。」と秋についての思いを発表していた。また,「もっと秋のものを使いたい」「Aさんみたいなあったかそうなマフラーを作りたい」と新たな思いや願いが発表された。
展開段階では,同じ課題の友達と一緒に制作活動を行い,他者とともに秋を楽しむ活動を通してペアで思考を巡らせ,お互いの考えを取り入れたり取り入れられたりして活動を進めることをねらいとした。そのために,一人での活動の結果生じた「もっと~したいけど,どうしたらいいかな」「○○さんと一緒にやりたいな」と新たな思いや願いをもとに,課題別(洋服,魚つり,葉っぱ飛行機など)にペア編制を行い,ペアでの活動を行わせた。子供は一人での活動をもとに,ペアでどんな表現物にするかを話し合い,素材や活動を選択していった。そして,ペアで協力して新たに1つの表現物を制作したり,互いの表現物に付加したりして制作し,成果に満足する姿が見られた(写真4)。資料1の振り返りノートの記述からも,ペアでの活動に達成感や満足感を感じていることがわかる。
発展段階では,学級全体でペアの表現物を鑑賞したり遊んだりすることで,自分や他者,対象の本質や価値を味わい,制作した表現物を使って楽しんだ秋を振り返ることをねらいとした。そのために課題別に学級全体に表現物を紹介する場を位置付けた。子供は,「どんぐりをたくさん使っていて,秋らしくていいね」「あったかそうなマフラーですね」「私も作ってみたいな」など,表現物のよさや感じたことを伝え合い,活動の成果に満足する姿が見られた(写真5)。
○ 一人での活動からペアの活動へ活動形態を変えて活動構成することで,秋の存在から一人での主体的な秋の自然物へのかかわり,友達の考えのよさ,自分ができたことへの自信,秋への親しみへと気付きの変容がみられた。
● 今後も気付きの質の高まりと他者とのかかわりの両者が高まるペア編制の仕組みについて他の単元でも追究していきたい。