内容(2)「家庭と生活」は,いまだに「お手伝い単元」と呼ばれることがあるが,この単元の目標は,決して家の仕事を上手にできるようにすることではない。 普段当たり前のように接している家族を改めて見つめ直すことを通して,家族の大切さや一人一人のよさに気付いたり,家族の一員としての自分の生活を見直すことにより,よりよい生活をしようとする意欲を高めたりすることが大事なのだと思う。しかし,家族単元がお手伝い中心の活動になりがちなのは,教師の意識の問題だけでなく,家庭の要望が子どもの思いとずれていることにも原因があるように思う。この単元がやりにくいと言われるのは,複雑化・多様化している家庭と連携を図る難しさにあるとも言えるであろう。そこで,本実践では,子どもたちが自分の家族に思いを馳せながら,自分でできることを考えて活動することができるよう支援した手立てとともに,家庭の理解と協力を得るために学校から働きかけたことを中心に紹介していきたい。
(1)家族や家庭生活に関心をもち,家族の一員としてよりよい生活をしようとする。
(生活への関心・意欲・態度)
(2)家庭の中での自分の役割について考えたり,家族のために自分でできることを工夫して,積極的に実践したりすることができる。
(活動や体験についての思考・表現)
(3)家庭生活を支えている家族の大切さや自分の役割に気付く。
(身近な環境や自分についての気付き)
【小単元1】かぞくをしょうかいしよう <2時間>
● 家族の様子を観察したりインタビューしたりして,家族のすてきなところを見つける。
○ 家族一人一人のすてきなところを紹介し合う。
【小単元2】「かぞく にこにこタイム」をしよう <2時間>
○ 家族を笑顔にするために自分でできることを考え,活動の計画を立てる。
● 各家庭で,「かぞく にこにこタイム」を実践する。
【小単元3】「わくわく アイディアこうかんかい」をしよう <4時間>
○ 自分の取組の途中経過を友達に伝える準備をする。
○ 中間報告をする。(同じコースの友達と・違うコースの友達と)
【小単元4】もっとすてきな「かぞく にこにこタイム」にしよう <3時間>
○ 自分の取組を見直して,新しい活動計画を立てる。
● 各家庭で,「かぞく にこにこタイム・2」を実践する。
○ 活動を振り返り,家族に手紙を書く。
単元の導入で,家族や自分のすてきなところを見つける活動を行い,家族のよさや家庭での自分の役割についてじっくりと考えられるようにした。各自が家庭で家族を観察したりインタビューしたりする期間を設け,「かぞくのすてき はっけんカード」によさを記入させた上で話合いをしたため,活発に意見が出され,家族一人一人の大切さに気付くことができた。
本学級には複雑な事情を抱えた家庭もあるが,多様な家族の形態を認め,「どんな家族も素晴らしい」という姿勢でそれぞれの家庭の違いやよさを尊重することにより,子どもたちは安心して学習に取り組むことができた。
また,「おばあちゃんが居るとほっとする。」「0歳の弟が笑うとみんなが嬉しくなる。」など,存在そのものに価値があると考える意見を意図的に取り上げることで,自分自身も含めて家族一人一人はかけがえのない存在であることに気付くことができるようにした。
「かぞく にこにこタイム」の計画を立てるにあたり,お手伝い以外の取組にも意識が広がるよう,あえて3つのコースを提示した。子どもたちだけでなく,保護者にもコースを知らせることで,親子で話し合いながら,一人一人が自分や家庭の実態に合った活動を選んで取り組むことができるよう工夫した。
☆ じぶんのことはおまかせ!コース | (身辺の自立) | 《例》 | ・上履き洗い ・朝,自分で起きる |
☆ いえのしごとにチャレンジ!コース | (家の仕事・手伝い) | ・洗濯物たたみ ・食器洗い | |
☆ みんなでたのしく!コース | (家族の団らん) | ・ゲーム大会の企画 ・家族で運動 |
また,「家族のために」を合言葉とし,「家族を喜ばせたい」「家族の役に立ちたい」という思いや願いをふくらませて活動の計画を立てることができるよう支援した。
一定期間「かぞく にこにこタイム」に取り組んだ後,「わくわく アイディア交換会」(中間報告会)を設けることにより,友達のよさを自分の活動に取り入れたり,友達からのアドバイスをもとに自分の取組を改善したりすることができるようにした。
アイディア交換会は,相手を変えて2回実施し,意図的・計画的なグルーピングをすることにより,一人一人の気付きが,友達とのかかわりを通して深まっていくように工夫した。
例えば,自分のことだけに目が向いている子は,家族の分まで頑張っている子と組ませて,もっと家族に目が向くようにしたり,違うコースの友達と組ませて,新しい活動に興味をもたせ,活動の幅を広げたりするようにした。
実物や写真を見せながら取組の様子について話したり,実演しながら説明したりすることで,表現力も豊かになり,より質の高い気付きにつながっていった。
家庭で「かぞく にこにこタイム」を実践した後「にこにこカード」で活動を振り返ることにより,自分の成長を実感したり,反省を次の活動に活かしたりすることができるようにした。子どもたちにとって,家族の笑顔や「ありがとう」の一言が何よりもうれしいごほうびとなるので,10回活動したら家の人からコメントをいただいて次のカードへ進めるようにし,意欲が持続するよう工夫した。家族からの感謝の言葉を読んだ子どもたちは,自分が家族の役に立てたことを喜び,達成感や満足感を感じていた。
また,次のカードではコースを変えて別の活動に挑戦することも認めたため,多くの子どもたちは,家族と話し合って新しい課題を見つけ,家庭の中で自分ができることを増やしていった。
学校では,カードが提出されると朝の会や帰りの会で称賛し,一人一人の頑張りを全体に広めるようにした。そのため,自分の取組に自信をもった子どもたちは,これからも継続して実践していこうとする意欲をさらに高めることができたのではないかと思う。
本単元では,家庭を実践の場とする学習活動が重要なポイントとなるため,家庭の理解と協力を得ることが不可欠である。そこで,単元を通して学校から家庭へ積極的に働きかけ,連携を図りながら学習を進めていくことにした。
まず,単元の初めに,単元のねらいや活動の進め方について家庭に知らせ,協力を依頼した。協力依頼文にはできるだけ具体的な例を挙げて分かりやすく説明し,家庭との情報交換を密にするよう努めた。
家庭で実践する取組を考える際にも,子どもと保護者の思いのずれをできるだけ埋めることができるよう,家族でゆっくり話し合って決めることにし,子どもたちの思いや願いを大切にしていただけるようお願いした。
また,家庭での実践がうまく進んでいない場合には,連絡帳で子どもの意欲や頑張りを伝え,保護者に個別に協力を依頼するようにした。
そして,子どもの活動のよさを積極的に家庭に伝えるとともに,保護者からの声も大切に取り上げ,お便り等を通して家庭に返すよう努めた。ほかの保護者の意見を聞くことにより,全体の意識が高まり,子どもへの声かけがより温かく豊かになっていったように思う。
○ 成果
○ 課題