令和2年度になり,新しい小学校学習指導要領が完全実施を迎えた。数多くのキーワードが並ぶ中に「指導と評価の一体化」がある。だが,このキーワードは目新しいものではなく,これまでも言われていたものである。では,なぜ今この言葉が取り上げられるようになったのだろうか。
わたしは「学習評価」と聞くと,授業の後半または終末に行うものであるイメージが強い。そして,授業が終わると「○○君はさすが,よし,Aだな。□□さんはちゃんと考えていたのかな,ん~これだとCだな…」と,評価場面における子どものノートや発言等を基に評価を付けていた。しかし今,自分の「評価観」を見つめ直してみると,子どもの学びを「点」で見ていたこと,そして授業中に子ども一人一人に適切な指導・支援をしていなかったことを猛省する。
このことから「指導と評価の一体化」という言葉には,わたしのような「学習評価」に対する認識を,転換・拡充することが求められていることを強く感じる。そのことを念頭に置いて,本稿では実際の授業実践を基に,「指導と評価の一体化」を踏まえた理科の授業の在り方について述べていきたい。
令和2年3月に発刊された国立教育政策研究所著書の『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』によると,学習評価の改善の基本的な方向性として,次の3点が挙げられている。
(国立教育政策研究所『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』,p.5)
以上のことから,子ども一人一人の学習状況を把握し,それに見合う指導・支援を行っていくことで資質・能力を育成していくこと,そして子どもに資質・能力を育成していくために,教師は子どもの姿を通してよりよい授業を創っていくことが求められていることが分かる。よって,学習評価は学期末に通知表で返すものだけでなく,日々の授業や子どもの学習改善を図る上で重要な視点になることを,我々教師は理解しておく必要があると考える。
また,評価の機会の精選も視点となっており,毎時間A,B,Cを付ける評価を行うのではなく,子どもの学習状況を「確認する場面」と「記録する場面」に分けて,子どもの学習状況を把握していくことについても理解し,授業実践につなげていくことが求められている。
これまでのことを基に,指導と評価の一体化のための学習評価を機能させた理科の授業を行うべく,次の2点を大切にしていくことにした。
①と②を大切にしていくためには,子どもの学習状況に関する記録を充実させることが必要ではないかと考え,2パターンの記録の仕方を考案し,子どもの姿を見取り,累積しながら授業実践に取り組むことにした。
表1 学習状況を記録した白名簿(例)
上述した取組みを活用し,これまで授業実践を行ってきた。本稿では,第5学年理科「振り子の運動」における事例を紹介したい。
まずこの単元を通して,子どもたちに振り子の周期を決める要因についての理解はもちろん,繰り返し実験を行い,より妥当性の高い結果を得ようとする態度を養いたいと考えた。そこで,次のような評価規準を設定することとした。
表2 本単元における評価規準
知識・技能 | 思考・判断・表現 | 主体的に学習に取り組む態度 |
---|---|---|
①振り子が1往復する時間は,おもりの重さなどによっては変わらないが,振り子の長さによって変わることを理解している。 ②振り子の運動の規則性について,観察,実験などの目的に応じて,器具や機器などを選択し,正しく扱いながら調べ,それらの過程や得られた結果を適切に記録している。 |
①振り子の運動の規則性について,予想や仮説を基に,解決の方法を発想し,表現するなどして問題解決している。 ②振り子の運動の規則性について,観察,実験などから得られた結果を基に考察し,表現するなどして問題解決している。 |
①振り子の運動の規則性についての事物・現象に進んで関わり,粘り強く,他者と関わりながら問題解決しようとしている。 ②振り子の運動の規則性について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。 |
また,上述した資質・能力を育むために,次のような単元デザインを行った。
図2「振り子の運動」における単元デザイン(●:確認する場面 ☆:記録に残す場面)
本稿では,主に「思考・判断・表現②」と「主体的に学習に取り組む態度①」における指導と評価の実際について述べていくこととする。
振り子の運動の規則性について,観察,実験などから得られた結果を基に考察し,表現するなどして問題解決している。
振り子の運動の規則性について,観察,実験などから得られた結果を基に考察し,表現するなどして問題解決しているかを,記述分析や発言分析等の方法で評価する。
【授業で見られたH男の姿】
前時までに「おもりの重さ」と振り子が1往復する時間との関係を調べるために,おもりの重さのみを変えながら実験を行ってきた。H男の班をはじめ,全ての班がおもりの重さを変えても,振り子が1往復する時間にはほとんど影響がない結果を得ていた。結果から考察する際,H男は次のように,ノートへ記述をした。
この記述から,H男は実験結果を基にして考察せず,自分の考えのみを記述していたため,「努力を要する」と判断した。
【教師の指導・支援】
H男が考察の際,実験結果を基にして考察を記述することができていなかったことを見取った教師は,H男に対して「この考察は,どの結果から言えるのかな」と問いかけた。するとH男は,自分やほかの班の実験結果から言えることを教師に説明した。実験結果を基に考察をすると,より説得力が増したことを伝えた。
【授業で見られたH男の姿】
「振り子の糸の長さ」と振り子が1往復する時間との関係を調べるために,糸の長さのみを変えながら実験を行い,その結果についてまとめ,考察した。H男は,右図のような考察をノートに記述していた。この記述から,H男は自分の班が行った実験で得られた結果を踏まえながら,糸の長さと振り子が1往復する時間との関係について考察していることが分かる。よって,教師は,「概ね満足できる」と判断した。
図3 第7時のH男の考察
【教師の指導・支援】
教師はH男に,前回の考察との違いを明らかにするため,前回のノートと比較する場を設定した。実験結果を踏まえて考察を記述したH男の学び方のよさを価値付けることで,H男自身も自分の変容を感じているようであった。
振り子の運動の規則性についての事物・現象に進んで関わり,粘り強く,他者と関わりながら問題解決しようとしている。
振り子の運動の規則性についての事物・現象に進んで関わり,粘り強く,他者と関わりながら問題解決しようとしているかを,実験中の様子に対する行動観察や振り返りの場面における発言,記述分析等の方法で確認する。
※なお,「主体的に学習に取り組む態度」については,長期的な視点で評価していくことが考えられるため,本単元では「学習状況を確認する場面」のみ位置付け,次単元において「記録に残す場面」を位置付け,評価していくようにした。
【授業で見られたK子の姿】
本時は「振り子を離す位置(振れ幅)」によって,振り子が1往復する時間が変わるという予想を検証するために,実験を行い,実験データを収集する時間である。各班,振り子を離す位置(振れ幅)を変えながら,複数回実験を行っていた。その中,K子は集計した実験データの傾向を見ながら,班の友だちに実験方法を立案した際に設定した振れ幅だけでなく,その他の振れ幅でも実験してみることで,より信頼性のあるデータが得られるのではないかと提案していた。班の友だちもその提案を受け入れ,予め設定した振れ幅とは違う振れ幅で実験を行っていた。
図4 実験方法を見直すK子
この姿から,K子はより確かな実験結果を得るために,自分たちの実験方法を見直しながら,友だちと共に問題を解決しようとしていることがうかがえるため「概ね満足できる」状況にあると確認した。
【教師の指導・支援】
自分たちの実験方法を見直し,新たな方法を提案するK子に対し,教師は「より説得力のある実験結果にするために,たくさんのデータをとろうとするところがいいね」と,K子の学び方のよさを価値付けた。長期的な視点で,K子の主体的に学習に取り組む態度を評価していくために,今後のK子の探究を見守っていくことにした。
【授業で見られたK子の姿】(「電流がつくる磁力」第4時目)
「振り子の運動」が終わり,次に「電流がつくる磁力」に入った。電磁石を作製し,電磁石の磁力を強くするための条件について探究していった。K子は,予想を確かめるために立案した実験方法だけでなく,導線の巻き数を少しずつ変えながら,電磁石に付くクリップの数がどうなるかを班の友だちと共に調べていた。この姿から,より妥当性の高い結論を導くために自分たちの実験方法や考えを見直そうとする姿がうかがえるため「十分満足できる」と判断した。
これまで子どもの姿を基に述べてきたが,わたし自身,特別目新しいことや印象的な働きかけをしているわけではないことを再認識できた。もっとも大切なのは,子どもの学びをどう見取り,その学びに対して教師がどのように指導・支援していくかではないだろうか。まだまだわたし自身,「評価観」を完全に転換・拡充するまでに至ってないかもしれない。今後も,長期的な視点で子どもの学習改善やわたしの授業改善につなげていけるよう,子ども一人一人の学びを的確に捉えていけるようにしていきたい。
【参考文献】