小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

子どもが学びを追求し続ける学習

奈良学園小学校 吉岡 真志

1.はじめに

2020年度に全面実施された新学習指導要領では以下のように理科の目標が示された。

自然に親しみ,理科の見方・考え方を働かせ,見通しをもって観察・実験を行うことなどを通して,自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
  • (1) 自然の事物・現象についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
  • (2) 観察,実験などを行い問題解決の力を養う。
  • (3) 自然を愛する心情や主体的に問題解決しようとする態度を養う。

つまり,新学習指導要領では,問題を解決するための能力と態度の育成が目標に明確に位置付けられ,自然事象を中心とした子ども主体の授業の実現がより一層強まったといえる。さらに「主体的・対話的で深い学び」の実現も提起され,興味関心をもって,見通しをもとに観察・実験に取り組むことや,仲間との学習を通して,自分の考えを広げ深めながら,教科の本質に迫ることがより重視されてくると考えられる。
しかしながら,筆者のこれまでの経験では,理科の授業を考えていくときに教材をどのように指導するかに重点をおいてしまい,本来大切である子どもの学びの道筋を考えることが不足していることがよくあった。そこで,本研究では,子どもたちが単元全体で意識をつなぎ,自然の事物・現象に興味をもち続けるための方法について検証し実践した。

2.研究の視点

子どもは進むべき方向が明確であれば,自ら学習に対して動きだす。そこで,追究の方向性を見いだすために,単元の中に「達成したい」や「明らかにしたい」といったような,心の動きを伴う目標を位置づける必要がある。そうすることによって,子どもの追究が進み,自然への認識が深まり,自然事象の本質に迫ることができると考えた。

3.研究方法

そこで,「子どもが学びを追求し続ける学習」という主題に迫るための授業実践を行うにあたって,次の①〜③の手続きを行うこととした。

また,授業実践の概要を表1に示す。

表1 授業実践の概要
単元 時期 児童について 心の動き
1 風やゴムの働き 6月〜7月 小3 39名 達成したい
2 大地のつくりと変化 10月〜12月 小6 33名 明らかにしたい

4.授業実践1

(1) 「風やゴムのはたらき」の単元の特徴と子どもの実態把握

本実践「風やゴムのはたらき」は小学校第3学年のエネルギー分野として子どもたちが初めて出会う単元である。子どもはおもちゃの車を渡されたときから「できるだけ遠くまで車を走らせたい!」という思いをもつ。その思いを実現させるために,「できるだけ遠くまで車を走らせよう!」といった意識づけをすることで,仲間と共有しながら追究活動を展開していくことができるようになる。
そこで,本単元では課題ごとに仮説を立てて問題解決を行うのではなく,実験を進める過程で目の前の事象を見て仮説を立て問題解決を行うことのほうが,子どもの追究意欲がよりもちやすいのではないかと考えた。このようにすることで子どもたちの中に車を遠くまで走らせるといった「達成したい」という気持ちが芽生え,子どもが学びを追求し続ける学習になるのではないかと考えた。

(2) 授業デザイン

【単元目標】

【単元計画】

段階 おもな学習内容
1 1 風やゴムの力に気づく 手を使って車を動かし,車を動かすには力が必要であることを知る。
2 息を車に当ててみたり,うちわであおいだりして風で車を動かす体験をしたり,ゴムの力を利用して車を動かす体験をしたりする。
3 風のはたらきを知る 車にあてる風の強さを変えて,車の動き方の違いを調べる。
4 自分が考えた方法で実験を繰りかえし,結果を記録し考察まとめをする。
2 5 ゴムのはたらきを知る ゴムの種類やのばし方を変えて,車の動き方の違いを調べる。
6 自分が考えた方法で実験を繰りかえし,結果を記録し考察まとめをする。【展開例】
3 7 学びを生かす ゴールインゲームをすることで,エネルギーは条件制御できコントロールできることを理解する。
8

【展開例】

学習展開と子どもの意識の流れ 教師の意図と関わり
  • ・ゴムで動く車を教師が演示実験して見せ,ゴムでも車が動くことに興味を持たせる。
  • ・自分で考えた実験方法で検証できる場を保障する。
  • ・見通しを持てずに困っている子どもを個別に支援する。
  • ・予備実験を十分に行い,安全に実験をできるようにする。
  • ・遠くまで進んだときの手ごたえについて聞くことで,手ごたえに着目させる。
 

(3) 実践の実際

①車を走らせる。

  • T:まずは記録の確認の仕方も含めて短い距離から,走らせてみよう。
  • C:5cmくらいでやってみよう。

②より遠くまで走らせる方法を考え,走らせてみる。

目の前の現象からの仮説を立て子どもの達成したいという追究意欲を生み出す場面
  • C:いろいろなゴムで試してみよう。
  • C:短いほうが(同じ長さ引っ張った時)遠くまで進む。
  • C:太いゴムは引っ張れば引っ張るほど遠くまで進む。
  • C:ゴムをねじったほうが遠くまで進む。
  • T:遠くまで,車を走らせるにはどうしたらいいだろう。
    実際に走らせてみよう。
  • C:太いゴムに変えて走らせてみよう。
  • C:ゴムの数を多くして走らせてみよう。
  • C:ゴムをねじる回数を多くして走らせてみよう。
  • C:となりの班は(私たちの班より)遠くまで走っている。
    なぜかな?

③根拠を探る。

  • T:遠くまで進んだ時,感じたことはありますか。
  • C:引っ張る力が強くなったら遠くまで行くと思う。

(4) 児童の変容(成果と課題)

成果

課題

5.授業実践2

(1) 「大地のつくりと変化」の単元の特徴と子どもの実態把握

本実践「大地のつくりと変化」は小学校第6学年の地球分野として子どもたちが小学校で最後に学習する単元である。子どもたちは5年生の「流れる水の働き」で,水には運搬・侵食・堆積のはたらきがあるということを理解している。しかし,子どもたちはなかなか,これらの事象がすごく広大な場所で,大変長い時間をかけて作られてきたということには気づきにくい。
そこで,本単元では「時間的・空間的」というひとつのキーワードで単元を貫くことによって,子どもの追究意欲を持続することができやすいのではないかと考えた。このようにすることで子どもたちが「大地のつくり」について「明らかにしたい」という気持ちが芽生え,子どもが学びを追求し続ける学習になるのではないかと考えた。

(2) 授業デザイン

【単元目標】

【単元計画】

段階 おもな学習内容
1 1 地層とはなにか知る。 いろいろな地層の写真を見て,地層に興味をもち,地層について疑問をもつ。
2 各自がもった疑問を発表し合い,その疑問が観察や実験で確かめることができるかどうか考える。
2 3
4
地層のでき方を知り,地層のモデル実験をして確かめる。 地層の色は,れき,砂,泥によって分かれており,れきなどは丸みを帯びていることを知る。また,地層には貝などの化石があることを理解する。
5
6
7
層は流れる水の働きによってできるのではないかという予想をもとに,実験計画を立てて,地層のモデル実験を行う。【展開例】
3 8 いろいろな地層について知る。 モデル実験だけでは説明のつかない地層(例:火山によるもの,岩でできているもの等)を見て,どうしてそのような地層ができたのか考え,多様な地層があることに気づく。
4 9 火山について知る。 火山から出てくる噴火物を見て,火山に興味をもち,火山についての疑問をもつ。
5 10
11
火山灰の特徴について確かめる。 火山灰を顕微鏡を使い調べる実験を通して,泥や砂,れきとの違いについて気づく。
6 12 地震について知る。 土地は地震によって変化することを理解する。
13

【展開例】

学習展開と子どもの意識の流れ 教師の意図と関わり
  • ・地層は長い時間をかけて広範囲にわたりつくられていることを確認することで実験の可能性と限界性を感じさせる。
  • ・結果を交流する中で他者の考えの中から時間的な視点や空間的な視点を見つけることができるようにする。
  • ・地層は長い時間をかけて広範囲にわたりつくられていることを確認することで実験の可能性と限界性を感じることができる。

(3) 実践の実際

①層のでき方について考える。

時間的・空間的な視点をもって,地層のでき方について明らかにしたいという追究意欲を生み出す場面
  • T:時間的・空間的な視点から考えて層がどのようにできるのか考えてみよう。
  • C:れき,砂などが水に流されて積もってできる。
    (時間的な視点での発言)
  • C:層は海のような水のたまったところにできる。
    (空間的な視点での発言)

②実験方法を考え,実験する。

  • T:どのような実験方法が考えられますか。
  • C:川のように水を流す必要があるから,ペットボトルを切って流しそうめんのようにすればいい。
  • C:色を変えた土を持ってこないといけないかな。
  • C:流れる水のはたらきの実験のように長い時間,水を流しつづけないといけないのではないかな。

③実際の地層と実験でできた地層とのちがい。

  • T:実際の地層と実験でできた地層のちがいを考えよう。
  • C:実際の地層はもっと長い時間がかかってできているのではないか。(時間的な視点での発言)
  • C:実際の地層はもっと多くの土が必要で,もっと広い範囲に地層ができているのではないか。
    (空間的な視点での発言)

(4) 児童の変容(成果と課題)

成果

課題

6.まとめ

今回は,子どもたちの学びをより持続させるためにはどのようにすればいいのかについて考えた。子どもたちにとっては,学びの連続性が大切であり,授業では教師が学びの連続性を実感できる視点をもたせるという活動が必要になってくる。実践では単元を貫いて子どもたちに進むべき方向を与えていくこと,そのことが子どもたちにとって「達成したい」や「明らかにしたい」といった心の動きにつながり,学習意欲にもつながってくるのではないかと感じた。さらには,子どもを指導するときの教師の声かけのポイントになることが多かった。
しかし,単元の中のどのタイミングで実験を入れるのか,そして,実験をどこまでまかせるのか,知識としての用語をいつ教えるべきなのかなどを考えるのは,大変難しくこれからの課題である。
「理科が好きな子ども」をたくさんふやすためにも,自分自身が子どもたちと共に理科の授業を楽しみ,子どもたちと共に学んでいく姿勢をもって,今後も理科の授業を創っていきたい。

[註]
本稿は,筆者の元勤務校で実践した授業の記録である。また,本文に出てきた子どもの発言記録は,読みやすさを考え,内容に変化のない範囲で記録をした。