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理科

子供の課題を引き出す学習指導過程の工夫について
第6学年「水溶液の性質」の実践を通して

6年 福岡教育大学附属福岡小学校 古賀 誠

1.はじめに

これからの理科学習では,特に,何の目的があって,観察・実験をしているのか,どのようなことを解決したいから理科学習を行っているのかなどの真の課題が必要だと考える。また,子供自身が主体となって学ぶためには,自分自身が「問い直す」ことが重要である。第6学年「水溶液の性質」の実践を通して,「真の課題」「問い直すこと」について述べていきたいと思う。

2.真の課題について

自然事象と出合ったときに,子供は,素朴な疑問や驚きをもつ。そのときに,疑問から,明確な学習課題へとつなげていく必要がある。理科学習では学習内容が明確であるため,教師が,学習内容の方向へ強く導いてしまうことが多い。そこで,子供自身の疑問から,学習課題へとつなげるためには,図1のような発問や課題で集約する必要がある。子供が課題を意識できるように,思考を立ち止まらせたり,考えのズレを明確にしたりしていく。また,学習内容に近づけていったり,課題を焦点化していったりすることが重要であると考える。

【図1 課題意識がうまれる仕組み】

【図1 課題意識がうまれる仕組み】

3.「分かったつもり」から「問い直す」理科学習について

分かったつもりから問い直す理科が必要な理由は,大きく二つある。一つは,子供自身の問題解決になっていないからである。単元の導入段階で,事象の提示を工夫したり,生活経験から問題を見出したりしているが,子供自身の課題になり得ていないのが現状である。

二つは,考察が不十分だからである。結果から考察することは大切だが,どのような段階を踏んで,考察しているのか,また,仮説をもとに考察できているのかということに課題があると考える。この課題から,自然事象を十分に解釈したり,考察したりすることができていないと言える。分かったつもりの状態なので,考察することや結論の話合いができていないと考える。そこで,図2のような理科の問題解決過程を経ることにより,問い直す理科の授業づくりへとつながる。

【図2 理科における問題解決過程】

【図2 理科における問題解決過程】

4.第6学年「水溶液の性質」の実践について

【目指す子供】

本単元のねらいは,水に溶けている物に着目して,それらによる水溶液の性質や働きの違いを多面的に調べる活動を通して,水溶液の性質や働きについての理解を図り,観察,実験などに関する技能を身に付けるとともに,より妥当な考えをつくりだす力や主体的に問題解決しようとする態度を育成することである。具体的には以下の3つの内容を設定する。

①水溶液には,酸性,アルカリ性及び中性の物があること
②水溶液には,気体が溶けている物があること
③水溶液には,金属を変化させる物があること

本単元では,水溶液の性質や金属の質的変化について,多面的に調べた結果を表に整理したり,そこから考えたことを図や絵,文を用いて表現したりするなど,水溶液の性質について考えたり,説明したりして,より妥当な考えをつくりだすことができると考える。

【子供とつくる学習計画(10時間)】

段階 導入(2時間) 展開(6時間) 終末(2時間)
活動と内容

1 身近な水溶液を調べ,水溶液の性質についての追究課題を話し合う。

(1) 水溶液の特徴を知る。①

○身近にある水溶液の様子を捉えること

(2) 追究課題をつくる。①

○水溶液の性質を調べる目的をもつこと

2 いろいろな水溶液を調べ,水溶液の性質や働きを見いだす。

(1) 気体が溶けている水溶液を調べる。③

○炭酸水やアンモニア水などの気体が溶けている水溶液を捉えること

(2) 金属を変化させる水溶液を調べる。③

○塩酸や水酸化ナトリウムなどに金属を入れて調べることを通して,水溶液の中には金属を溶かす性質があることを捉えること

3 6つの水溶液の性質と名称を調べる。

(1) 6つの水溶液を調べる計画を話し合う。①

○複数の水溶液を調べる方法を捉えること

(2) なぞの水溶液の結論を話し合う。①

○結論をまとめること

支援

※泡が出るお菓子の提示

※水溶液の性質を調べる方法の提示

※水溶液の変化を比較する活動の設定

※金属が溶ける様子を見るための映像資料の提示とタブレットの活用

※実験方法の検討活動

※水溶液の結果を表すフローチャートの活用

【子供が課題をつくる】

【資料1 水溶液についての交流】 【資料2 実験をしてみて】

6年生の子供たちは,水溶液の存在は知っている。しかし,実際はどのような性質があり,どのようなものなのかは確かではない。子供の素朴な疑問を出し合い,この学習では何が知りたいのか,何を調べたいのか集約し,学習を進めた。このようにすることで,真の課題解決につながると考える。(資料1,2)

【子供が課題解決に向けて実験する】

子供たちは,いろいろな実験をしてみて,「水溶液には,どのようなものがあるのか。」「水溶液の性質とは,どのような性質なのか。」「金属が溶ける水溶液があると聞いたが,本当なのか」など,様々な疑問が出てくる。その疑問を焦点化し,課題解決を子供自身が行うようにする。そして,水溶液の性質には酸性,中性,アルカリ性の物があり,気体が溶けたり,金属を変化させたりする物があることなどから,水溶液の性質の違いを捉えることができるようにする。資料3は,金属を溶かした時の様子をかかせたものである。観察しながら,小さな変化を見逃さず,金属が溶ける様子を表現している。(具体的な授業の流れは以下の資料4,5を参照)

【資料3 金属を溶かした結果の表現物】

【資料3 金属を溶かした結果の表現物】

【資料4 気体が溶ける水溶液の実験】 【資料5 金属を溶かす水溶液の実験】

【子供が学びをいかす】

これまでの学びを生かして,正体がわからない6つの水溶液を調べる学習を行った。子供たちは,これまでの知識や技能を生かして,解決する方法を考え,水溶液の正体を見つけていった。子供たちは,どのように調べればいいのか,調べる方法にも着目し,フローチャートを利用することを考え出した。フローチャートのよさは,手順や結果が明確に分かり,何度もやり直せることである。これは,プログラミング的思考にもつながる。この学習を通して,水に溶けている物に着目して,それらによる水溶液の性質の違いを多面的に比較することで,6つの水溶液の性質について考えることができた。

【資料6 子供が考えたフローチャート図】

【資料6 子供が考えたフローチャート図】

5.おわりに

理科学習は,子供にとって楽しいものである。しかし,楽しいだけで終わってはいけない。子供が課題を解決した喜びを味わったり,課題解決のプロセスを学んだりして,子供自身の人間性を高める学習の一つにする必要がある。子供が楽しく学習し,深い学びになるように今後も実践を重ねていきたい。