水溶液の性質については,「小学校学習指導要領 理科編」 6年 A物質・エネルギー (2)に,
いろいろな水溶液を使い,その性質や金属を変化させる様子を調べ,水溶液の性質や働きについての考えをもつことができるようにする。
ア 水溶液には,酸性,アルカリ性及び中性のものがあること。
イ 水溶液には,気体が溶けているものがあること。
ウ 水溶液には,金属を変化させるものがあること。
と記されている。また「解説」では,ウの内容について,
「水溶液には,金属を入れると金属が溶けて気体を発生したり,金属の表面の様子を変化させたりするものがあることをとらえるようにする。また,金属が溶けた水溶液から溶けている物を取り出して調べると,元の金属とは違う新しい物ができていることがある。これらの実験から,水溶液には金属と触れ合うと金属を変化させるものがあることとをとらえるようにする」とあり,水溶液については「薄い塩酸,薄い水酸化ナトリウム水溶液など」,金属については「鉄やアルミニウムなど」とある。
水溶液は薄い塩酸が,金属は鉄(スチールウール)とアルミニウム(箔)が,多くの小学校で使われている。
ここでは塩酸の濃度や入れる金属(スチールウール,アルミニウム箔)の量によって,金属が溶けた水溶液からどれくらいの量の塩化鉄,塩化アルミニウムが取り出せるかを調べてみた。参考にしていただければ幸いである。
次の表は,鉄(スチールウール)やアルミニウム(箔)の量を変え,濃度の違う塩酸(10mL)を加えて,それらが溶けた上澄み液の殆ど全てを蒸発皿に移し加熱蒸発させ,残った物質(塩化鉄,塩化アルミニウム)の量を調べたものである。
なお,試験管に入れた金属の量は,全て写真の左から100mg,200mg,300mg,500mgの順である。
3% | 5% | 9% | 15% | |
---|---|---|---|---|
100mg | (1) 0.2g | (5) 0.3g | (9) 0.3g | (13) 0.2g |
200mg | (2) 0.5g | (6) 0.7g | (10) 0.6g | (14) 0.6g |
300mg | (3) 0.5g | (7) 0.8g | (11) 0.9g | (15) 0.9g |
500mg | (4) 0.5g | (8) 0.8g | (12) 1.4g | (16) 1.5g |
写真1 鉄+塩酸(3%) | 結果(1) 100mg → 0.2g | 結果(4) 500mg → 0.5g |
◯ 写真1のように,濃度3%の塩酸では,スチールウールの量が多いと溶け残りがあった。
写真2 鉄+塩酸(5%) | 結果(6) 200mg → 0.7g | 結果(7) 300mg → 0.8g |
◯ 濃度5%の塩酸では,500mgのスチールウールだけ少し溶け残りがあった。
写真3 鉄+塩酸(9%) | 結果(10) 200mg → 0.6g | 結果(11) 300mg → 0.9g |
◯ 濃度9%の塩酸は市販のものを使用した。全てのスチールウールが溶けた。
写真4 鉄+塩酸(15%) | 結果(13) 100mg → 0.2g | 結果(16) 500mg → 1.5g |
◯ 濃度15%の塩酸では,全てのスチールウールが溶け反応も速いが,濃度が濃いため児童には危険である。
3% | 5% | 9% | 15% | |
---|---|---|---|---|
100mg | (1) 0.6g | (5) 0.7g | (9) 0.9g | (13) 1.3g |
200mg | (2) 0.8g | (6) 1.1g | (10) 1.9g | (14) 1.9g |
300mg | (3) 1.0g | (7) 1.3g | (11) 2.0g | (15) 2.9g |
500mg | (4) 1.2g | (8) 1.9g | (12) 2.3g | (16) 3.4g |
写真5 アルミニウム+塩酸(3%) | 結果(1) 100mg → 0.6g | 結果(3) 300mg → 1.0g |
◯ 全ての試験管で,アルミニウム箔が溶け残った。
写真6 アルミニウム+塩酸(5%) | 結果(6) 200mg → 1.1g | 結果(8) 500mg → 1.9g |
◯ 500mgのアルミニウム箔を入れた試験管だけ,ほんの少し溶け残りがあった。
写真7 アルミニウム+塩酸(9%) | 結果(9) 100mg → 0.9g | 結果(11) 300mg → 2.0g |
◯ 反応が激しく試験管の上部に多少こびりつきはあるが,ほぼ全て溶けた。また,500mgを入れた試験管では反応が激しく吹きこぼれが生じた。
写真8 アルミニウム+塩酸(15%) | 結果(13) 100mg → 1.3g | 結果(16) 500mg → 3.4g |
◯ 全てのアルミニウム箔が溶けるが,塩酸の濃度が濃いため,試験管(18ミリを使用)では吹きこぼれが生じ,危険であるので,ビーカーを使用した。
写真9と10は,アルミニウム箔300mg(左)と500mg(右)を入れた試験管に,濃度15%の塩酸を加えた様子である。
写真10のように,7分後には激しく反応し,試験管の表面温度は83℃にもなっていた。
写真9 4分後 | 写真10 7分後 |
この実験から,塩酸の濃度が3%では金属が溶け残り,15%では反応が激しくなり危険なため,5%から9%が適切である。
9%の塩酸を使用する場合,塩酸10mLあたり鉄(スチールウール)300mgを入れると,上澄み液全体で約1gの反応物(塩化鉄)が得られる。同様に,塩酸10mLあたりアルミニウム箔100mgで,約1gの反応物(塩化アルミニウム)が得られる。
ただし,児童実験の際は,少量の上澄み液(1~2mL)を用いるようにする。
なお,この実験では,薬傷や火傷に特に注意する。
◯ 危険防止のため,安全眼鏡を着用し,常に十分な換気を行う。
◯ 実験の前に児童に刺激臭のある有毒な気体(塩化水素)が少量発生することを説明する。
(においに敏感な反応をする児童がいる場合があるため,配慮する。また,発生する気体を直接吸い込まないことを伝える。)
◯ 蒸発皿の液体が沸騰し始めたら,極力弱火で加熱する。飛び散らないように,また,焦げないようにするために,余熱を活用する。塩化鉄は飛び散りやすいので,特に注意が必要である。
◯ 蒸発皿がかなり高温になるため,るつぼバサミや軍手を用意し,火傷をしないように指導する。
◯ 実験後は,薬品や器具などをすべて速やかに回収し,器具は十分に洗浄する。