新学習指導要領にあるように,これからは,「主体的・対話的で深い学びの実現」が求められる。子ども自身が手を動かしながら他者と協働的に関わることは,科学的概念の形成におおいに役立つ。その重要性について森本(2017)は,協働的な活動において学習が多様な道具で媒介されることにより,説明や受け入れ可能性が増すからだと述べている。
手を動かす理科学習の一つとして,我が国では伝統的に「ものづくり」が行われ,子どもの創造性を育む教育として一定の成果を上げてきた。類似の学習として,国際的にはSTEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育が注目されている。これは,科学,技術,工学,数学を融合させて,理科学習が実生活に有用であることを実感させながら学ぶ学習プログラムである。我が国の「ものづくり」は,学習したことを活用する場面で行われることが多いが,STEM教育では単元を通して課題解決のために探究的に原理や法則を探っていくように授業が設計されている点において我が国の「ものづくり」とは異なる。このことに関わって人見(2016)は,教材キットに頼りすぎることなく,製作活動の過程で高められる力を詳細に位置づけることと,ものづくりの過程に科学的原理の学習を織り交ぜることの重要性を提起している。しかしながら,新聞報道にあるように教員の多忙化が問題となり,教材準備や教材研究の時間が十分にとれない教員が多いことと,小学校において理科を専門とする教員が1~2割と少ない状況から,「ものづくり」における教材キットの役割は大きい。そこで,操作性の高い教材キットの選定と,その教材の活用方法の実践検討が重要となる。目指す方向性としては,対話的に「ものづくり」を行いながら,子どもが科学の原理に迫っていけることである。
一例としては,小学校第4学年でよく使われる教材キット「空気でっぽう」を挙げることができる。この教材キットでは,玉を飛ばすだけでなく筒の中に水や空気を入れて圧し縮めた時の目盛りを読むことができる。この教材の活用で見られるように,一つの教材で複数の実験ができるような操作性の高い教材では,教師が子どもに「圧し縮めた時の目盛」といった視点を与えることによって,子どもは問題解決的かつ対話的に多くのことを学んでいくのである。
このような好例がある一方で,小学校第5学年「電流がつくる磁力」,いわゆる「電磁石」の単元における「ものづくり」では,次に示すような,「教えにくさ」の存在が指摘されている。
学習指導要領には,「電磁石の強さは,電流の大きさや導線の巻数によって変わること」を扱うことが示されている。ここで,科学的な見方としてはエネルギーを「量的・関係的」に捉えることが,科学的な考え方としては「条件を制御しながら」調べることが重要である。したがって,条件を制御しながら磁力の変化を見るために,電磁石に付く物も個数や重さを定量的に量ることが望ましい。しかし,よく用いられる金属クリップでは,直線的に連なった場合と横に広がって付いた場合とで付く個数の差が大きく,定量的に測定することが困難である。
電磁石の原理を利用した「ものづくり」では,クリップモーターづくりが行われることがある。私たちの生活の中でも電磁石を利用した道具で一番多いのはモーターであることから,この単元でモーター作りに取り組ませることは,科学の有用性の実感という観点から大いに奨励されるべきだと考える。しかし,クリップモーターでは導線の輪が回転し,子どもたちが作った鉄芯のある電磁石が回転する構造とは異なる。したがって,子どもにとっては電磁石ではなく,別のものが回っているように映り,単元内の一貫性が保たれにくい。
今回の実践では,上記の2点について改善を図った教材を用い,その効果について検証する。
クリップの代わりに鉄球を用いて定量的に磁力の効果を測定し,協働的にグラフを作りあげていく指導計画の検討。
自作の電磁石をモーターに変身させる学習における協働的な学びの内実の検討。
平成26年から3年間,東京都内3校で同じ教材を用いて授業実践を行い,単元の指導計画を検討,改良した。対象となった児童は,小学校第5学年約500名。
用いた教材は,「ガリレオ理科パック」(NPO法人ガリレオ工房)。
単元の構成は下の図の通りである。縦軸は,子どもが事物・現象を理解する自然認識の広がりと深まりが高次になっていく様を示している。横軸は,学習段階が時間とともに変化する様子を表している。
本研究では,子どもの学習段階を下記の通り3段階として表した。
①「自由な探索」=子どもは自分が何を知っていて何を知らないかを明らかにしていく。
②「体験的な学び」=子どもは疑問を解決するために,実験や観察を行う。
③「科学的概念との結びつけ」=子どもはこれまでの学習を振り返りながら,学んだことを活用して新たな課題に取り組んだり,学んだことを他の人に伝えるために読み物を活用し自分の考えを表現したりする過程を通して,科学的概念を再構成していく。
図1 5年生「電流のはたらき」の単元の構成のフロー
〈授業のポイント〉
電流の大きさやコイルの巻き数によって磁力が変化することを,定量的に捉えさせたい。一般的には電磁石に付いたクリップの数で磁力の違いを測るが,より正確に測定するために,鉄球を使用する。また,表を作った後,実験結果の可視化を図るためにグラフを作る。これらの教材や教具を活用することで,子どもは小さな科学者として,独立変数と従属変数の関係(例えばコイルの巻数をどれぐらい変えたら,付く鉄球の数がどれぐらい変わるかということ)を,教師の少ない指示で,仲間とディスカッションをしながら実験方法を考え,探究的に学んでいくものと期待できる。
教師の働きかけ・使用器具 | 予想される児童の反応 | 評価規準 | |
---|---|---|---|
4・5時 体験的な学び① (定量的実験) |
コイルの巻き数を変える実験
「電磁石の鉄を引き付ける力はどうすれば強くなる?」 「今回は乾電池は1個にしよう。」 「電磁石に付く鉄球の数を,3回の平均を取って記録しよう。巻き数は50回,乾電池1個を基準にしよう。」 「コイルの巻き数を変えると磁力は変化するか調べよう。」 「表を基にグラフを書こう。」 「わかったことを発表しよう。」
使用器具
パーツシート,電池ボックス,エナメル線,銅箔,ネジ,ナット,スペーサー,ストロー,マンガン単3乾電池,鉄球(直径4mm)
ワークシート
「エナメル線の巻き数とついた鉄球の数調べ」の表とグラフ |
・乾電池を増やす。 ・エナメル線をたくさん巻く。 ・50回巻きの電磁石に付いた鉄球の数と比べよう。 ・コイルの巻き数を増やすと,付く鉄球の数が多くなっていくね。 ・グラフだと,巻き数と付いた磁石の数との関係が分かりやすいね。 ・50回巻きよりも少なくするとどうなるかな。 |
・条件制御した実験をしながら,データの平均を算出することができる。【技】 ・表をグラフにすることができる。【技】 ・表やグラフに基づいて考察し,表現することができる。【思】 ・コイルの巻き数を増やすと,付く鉄球の数が多くなることを理解している。【知】 |
6・7時 体験的な学び② (定量的実験) |
電磁石のはたらきを調べよう
「コイルの巻き数を50回より少なくすると付く鉄球の数はどうなるでしょうか。」 「何回巻いた時に,磁力が生まれるのでしょうか?」 「巻き数を減らして実験しよう。」 「コイルにしない導線に電気を流した時,磁力は発生しているでしょうか。」
使用器具
前時に使用したものと,方位磁針,スチールウール
ワークシート 前回と同様
・スチールウールの粉を握ると手を怪我することがあるので注意。 |
・50回巻きよりも少ないと,付く鉄球の数も少なくなると思う。 ・グラフから考えると,鉄球1個を付けるには,エナメル線を10回ぐらいは巻かないといけないと思う。 ・鉄球は重いから落ちちゃうけど,もっと軽いものだったら付くと思う。 ・方位磁針で調べるといいと思う。 ・スチールウールが付いた。 ・コイルにしないエナメル線にも磁力があることが分かった。 |
・前回のデータやグラフに基づき,鉄球1個を付けるには,コイルを何回巻いたらよいか予想することができる。【思】 |
8・9時 体験的な学び③ (定量的実験) |
流れる電流の大きさを変える実験
「乾電池を2個に増やして流れる電流を大きくすると,磁力は変わるでしょうか。」 ・エナメル線が熱くなるので,つなぐ乾電池は2個までにさせる。 ・乾電池1個の時と比べる時に,巻き数が同じ条件の時の結果と比べる必要性について,子ども自身に気付かせたい。 ・乾電池を直列につなぐと流れる電流が大きくなることを確かめるために,電流計や検流計を使用するとよい。
使用器具
前時に使用したもの,電流計か検流計 |
・変えられると思う。 ・電磁石にエナメル線をたくさん巻く。 ・乾電池を増やす。 ・流れる電流が大きくなれば,磁力は強くなると思う。 ・乾電池は直列でつなごう。 ・乾電池1個の時のコイルの巻き数と同じ巻き数で比べないといけないね。 ・平均を出すことは,より正確なデータを出すために大切なんだね。 ・乾電池1個の時より,乾電池2個の時の方がつく鉄球の数は多いね。 |
・乾電池の数以外の条件を統一して実験する計画を立てることができる。【思】 ・流れる電流が大きくなると電磁石の磁力が強くなることが理解できる。【知】 |
図2 電磁石鉄球がつく様子
鉄球は縦に連なるので定量的に測りやすい
図3 模造紙サイズのグラフにみんなのデータを集約する様子
図4 乾電池1個の場合と直列2個つなぎをした場合の,導線の巻き数と取れた鉄球の数の関係
ばらつきはあるものの,図4のようなグラフの姿が見えてくる。比例に近いが,巻き数が多くなると鉄心と導線の距離が長くなるなどの要因によって,グラフは緩やかなカーブを描く。
〈授業のポイント〉
この単元では,ものづくりの視点が重視されている。この教材では,子どもたちが作った電磁石がモーターになるので,ものづくりを通して電磁石とモーターの共通性と仕組みを理解することが容易になる。実際に手を使って学ぶハンズオンによって,回転部分のバランスや金属同士の接触の重要さにまで気づくことは,科学技術の理解の基礎となる。また,苦労して作ったモーターを回転させるという成功体験を持つことは,技術者の理解のみならず,技術革新への期待や意欲へとつながっていく。
教師の働きかけ・使用器具 | 予想される児童の反応 | 評価規準 | |
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2次 1・2時 科学的概念との結びつけ (ものづくり) |
電磁石でモーターを作ろう
「説明書を読みながら,モーターを作ってみましょう。」 ・エナメル線の両端の被覆のはがし方を説明する。 ・長く使うと熱くなるので,1分使用したらしばらく休ませることを伝える。
使用器具
エナメル線を巻いたもの,パーツシート,銅シール |
・どうしたら電磁石を回転させることができるのだろう。 ・回転によって,スイッチが入ったり,切れたりするような仕組みだ! ・電池の入れる向きを変えると,回り方は反対になるかな? |
・モーターを回すことに興味・関心を持ち,粘り強くモーターを作ろうとしている。【関】 ・電流の流れを意識して正しい回路になるように乾電池とモーターをつなぐことができる。【技】 ・上手くモーターが回らなかった時に,その原因を考え,回るように改良をすることができる。【思】 |
図5 電磁石にカバーをつけて組み立てたモーターが回転する様子
図6 良く回せている子(手前)と,なかなか回らなくて苦労している子(奥)が,教え合いながら製作している様子。
下記は,コイルの巻き数を変える実験を行った子どもの学習後の感想である。
左の感想から,クラスで協力して結論を導いていったことが伺える。また,電池の消耗の様子までも,定量的に把握できていることが分かる。右の感想では,副次的であるが,鉄球を集めるのに電磁石が便利であるという,科学技術の利用についての考えを持つに至っている。子どもの主体的な活動によってこれらの結論を導き出せているのは,教材の操作性が高いことと,鉄球を用いているからだと言える。
また,下記は,モーター作りを行った子どもの学習後の感想である。
左の感想では,子どもはモーターのことを電磁石と言っている。このことから,子どもは,「電磁石」=「モーターの回転子」と捉え,電磁石の仕組みを応用したものがモーターであることに気付いたと言える。また,友達と協力して対話的にモーター作りを行い,苦労した分だけ達成感が大きかったことが分かる。右の感想では,作ったものを持ち帰って家族に紹介するように学びが継続したことが分かる。
これらの事例から,本教材および指導計画によって,子どもは対話的に「ものづくり」を行いながら,科学の原理に迫った様子が確認できた。
教材セットの詳細は,「ガリレオ理科パック」でWEB検索すると確認できる。
(https://galileorika.thebase.in)
教材を購入すると,WEBサイトで作り方の動画を見たり,ワークシートやミニテストをダウンロードしたりすることができるようになる。また,教材セットには作り方の解説を兼ねた科学読み物がついてきて,電磁石の発見や,モーターの仕組み,身の回りでの電磁石の使われ方の例などについて学べるようになっている。
森本信也「深い学びを実現する授業をいかにデザインするか」『理科の教育』2017年3月号,pp.5‐8,東洋館出版社.
人見久城「理科における「ものづくり」の意義と課題」『理科の教育』2016年11月号,pp.9‐12,東洋館出版社.