理科が専門でない先生は,理科の授業や実験を行うことに大変ご苦労されているのではないでしょうか。さらに,地球環境問題に至っては,よりハードルが高くなると,筆者は推察しています。
今回,100円ショップやホームセンターなどにある身近な物品を使って,先生方だけでなく児童・生徒でも簡単に製作することができ,しかも安価な「地球温暖化モデル実験装置」を開発することができましたので紹介いたします。使用する物品にもよりますが,市販のタッパーなどを利用した「地球温暖化モデル実験装置」本体1台は300円程度(温室効果ガスの代用として赤外線カットフィルムを使用),光源(ホームセンターなどで購入できるレフランプとそのソケットなど)は2,000円以下で準備できます。
写真1:地球温暖化モデル実験装置
これはモデル実験ですが,赤外線カットフィルムを貼らない装置を「現在の地球」,赤外線カットフィルムを貼った装置を「温暖化が進んだ地球」と考えて,対比することができます。筆者が行った実験では,市販のデジタル温度計で測定したところ,5分間のレフランプ照射で,温度差は約5℃となりました。5℃程度の温度差が得られれば,実験後に2つの装置の蓋を同時に開けて直ちに容器内に手を入れると,その温度差を手で実感することができます。また,その温度差が2~3℃でも,ある程度実感できると思います。
児童・生徒が行う実験でも,デジタル温度計を使って温度を測定してもよいでしょう。しかし,これはあくまでモデル実験であり,得られた温度差の数値自体には意味はありません。重要なことは,大気中の水蒸気,二酸化炭素やメタンなどが増えることによって温室効果が強まると,地球の気温がさらに上昇すると言われていることを,児童・生徒に疑似体験させることです。
地球環境問題を教えるにあたって,「…しましょう」「…はいけません」という指導だけではなく,「持続可能な開発」という大切な視点があり,児童・生徒の「なぜ,どうして地球が暖かくなるのか」という知的好奇心を喚起し,簡単にその原理や要因などを教え,実感・理解させ,その上で児童・生徒が自らどのような行動をすべきか考えさせる一助になればと考えています。
高校地学の教科書(啓林館,地学基礎)は極めて平易に,そして分かりやすく説明しています。地球温暖化を理解するために,是非,先生方も一読してください。詳しい説明はこの教科書に譲り,ここでは簡単に説明します(後述「4.」でも少し説明します)。
太陽からの光(太陽放射エネルギー)には,可視光線と,人間の目には見えない赤外線(IR),紫外線(UV)などがあります。地球温暖化には人間の目に見えない赤外線が関係します。
地表に届いた太陽からの光(太陽放射エネルギー)は,届いたエネルギーと同じだけ地球外に,目には見えない赤外線によって放出されています。
小学校4年生の教科書(啓林館,わくわく理科4)「天気と1日の気温」では,午前9時から午後4時までの気温変化を調べています(p.18~)。ちょっと発展して,夜の気温変化を調べるとどうでしょうか。夜中に気温を自分で調べるのではなく,インターネットで調べることができます。
真冬の雲一つない夜と,曇った夜。じっくり考えると,「あ!」となるはずです。そう,天気予報でよく耳にする,あの「放射冷却」です。
さらに,日本から世界に視点を移し,砂漠の昼と夜の温度差を例に教えることもできます。砂漠では,昼には気温が40℃以上にもなることがありますが,反対に夜は氷点下以下に冷え込みます。湿度の低い(水蒸気が少ない)砂漠の夜の冷え込み(放射冷却)に着目すると,より一層、児童・生徒の理解が深まるのではないでしょうか。
図1:天気と1日の気温
(「わくわく理科4」p.23より)
温室効果とは曇った夜には気温が下がりにくいという原理に似ています。大気中の水蒸気,二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが適度に働くために,現在の地表の平均温度は15℃にもなっています。これらの温室効果ガスがなければ地表の平均温度はマイナス15℃になってしまうと考えられています(啓林館,地学基礎)。
そして,温室効果ガスが増加することによって,温室効果が強まり地球の気温がさらに上昇する地球温暖化は,産業革命以降の人口増加や増え続ける化石燃料消費量などによる二酸化炭素濃度の上昇の影響が大きいと言われています。しかし,「持続可能な開発」という大切な視点で多面的に地球環境を考えることが重要であるとともに,地質学的歴史の視点なども不可欠であると思われます。
図2:温室効果のモデル
(「地学基礎 改訂版」p.123より)
前述したように,100円ショップやホームセンターなどにある物品を使って,先生方だけでなく児童・生徒でも簡単に製作できる,そして安価な装置です。
<必要なもの>
〇タッパーなどの容器(100円ショップなどで購入)
密閉性のある透明な容器で,角形がよいでしょう。
〇アルミテープ(100円ショップやホームセンターなどで購入)
容器の外側の遮光したい部分に貼ります。
〇赤外線カットフィルム
赤外線の放出を抑える温室効果ガスに対応します。
3M社製ウインドウフィルム「Nano80S」が適しています。
(10cm×10cm程度に切って使用,1台分で150円程度)
<あるとよいもの>
※電池式小型扇風機(100円ショップなどで購入)
容器内の温度を均一化するため容器の底に置きます。使用しなくても実験可能です。
※デジタル温度計(ホームセンターや通販などで購入)
前述したように,デジタル温度計の使用については先生方の判断です。地球温暖化モデル実験装置内に手を入れてその温度差が実感できれば十分であると考えれば,必要ありません。
使用するとすれば,熱電対式で,センサー部分が小さく,0.1℃刻みのデジタル温度計がよいと思います。1,000円程度のものでも実験可能でしょう。なお,アルコール温度計でも測定は可能です。
写真2:地球温暖化モデル実験装置本体
<必要なもの>
○レフランプ(ホームセンターなどで購入)
地表から放射される赤外線と考えます。
筆者は150Wのレフランプ(1,500円程度)を使用して,5分間で約5℃の温度差を得ました。これより出力が小さいレフランプは安価ですが,それを使った場合は温度差が小さくなることもあります。しかし,重要なことは児童・生徒が温度差を実感できることですので,5℃の温度差を得ることにこだわる必要はありません。
150W…1,500円程度
〇ソケット(ホームセンターなどで購入)
耐熱に優れるのは陶器製(800円程度)のソケットです。しかし,5分間程度の照射であればプラスチック製(100円程度)でも可能です。
陶器製…800円程度,プラスチック製…100円程度
〇コード線(廃品利用)
要らなくなった電気製品のコード線で十分です。リユースを実践できます。
〇ソケットの台(廃品利用)
ソケットに取り付けたレフランプの固定には,木製の廃材が利用できます。これもリユースです。
○地球温暖化モデル実験装置を載せる台(100円ショップなどで購入)
園芸用植木鉢立と,バーベキュー用金網などが使用できます。 200円程度
図3:温室効果のモデルと地球温暖化モデル実験装置の対応
製作は極めて簡単で,10分程度で児童・生徒でも1台作れます。この装置を2台用意し,一方はそのまま,もう一方には赤外線カットフィルムを貼り,「現在の地球」と「温暖化が進んだ地球」として実験します。
では,実験装置の製作方法の概略を紹介します。先生方が各自,創意・工夫してください。これが,最善だということはありません。
○容器のレフランプ側は1/3程度を残し,アルミテープを貼ります。
○レフランプの反対側にはアルミテープを貼らず,残りの面は全てにアルミテープを貼ります。
○レフランプの配置などは,写真1を参考にしてください。
これだけです。
なお,デジタル温度計やアルコール温度計を使って実験する場合は,
○ハンダごてなどで,温度計のセンサーが容器内に入るような穴を開けます。
○温度計のセンサーは,容器の中でレフランプの光が直接当たらないような位置に入れます。
という操作が加わります。
地表から放射される赤外線は,水蒸気,二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスにいったん吸収(振動励起状態)されます。その後これらの温室効果ガスからまた赤外線が四方八方に放射され,その約3分の2は地表に戻ってくるのが温室効果です。この温室効果が強まることにより地球温暖化が起こると言われています。
今回紹介している地球温暖化モデル実験装置では,温室効果ガスの代用として,赤外線カットフィルムを使用しました。このフィルムは住宅の窓ガラスなどに貼って,室外から入ってくる赤外線を減らすために夏は涼しく,一方室内から逃げていく赤外線を抑えるために冬は暖かくすることなどに使用され,電力使用量を抑えることができるものです。また,温室効果ガスが赤外線をいったん吸収するのとは異なって,赤外線カットフィルムは赤外線の多くを反射するだけです。
今回紹介している装置では,地表から放射される目に見えない赤外線を,可視光線も含まれるレフランプの光で代用しています。赤外線だけの光源を使用できれば理想的ですが,大変高価であり,今回は安価で入手しやすいレフランプを使用しました。
レフランプからは赤外線だけでなく可視光線なども出ているために,児童・生徒は実験に使用するレフランプを太陽であると考えてしまうことも多いと思います。地表から放射される目に見えない赤外線によって地球大気が暖められることは,例えば,日なたと日陰の温度差の原因を説明する,前述した天気予報でよく耳にする「放射冷却」等の身近な実例をうまく使う,などの工夫をするとよいでしょう。
今回紹介している装置は「身近な物品で簡単につくる」というコンセプトで作成しました。この装置から得られた温度差は,モデル実験から得られた数値であり,この温度差の数値自体には科学的な意味はありません。しかし,これも前述したように,大気中の水蒸気,二酸化炭素やメタンなどが増えることによって温室効果が強まると,地球の気温がさらに上昇すると言われていることを教えるためのツールのひとつであると認識していただければと思います。
以上のような点から,これはモデル実験です。しかし,簡単に,安価に,誰でもできるのが,今回紹介している装置の特長です。なお,児童・生徒にはこのような原理を詳しく説明する必要はないと思います。先生方が認識の中に,少し留めることが肝要なだけです。
教師の演示実験でも,予算や時間が許せばグループ実験でもよいでしょう。一度,地球温暖化モデル実験装置を製作すれば,何回でも使えます。
○現在の地球
赤外線カットフィルムを貼らずに測定します。
○地球温暖化が進んだ地球
光源であるレフランプの反対側の容器内側に,赤外線カットフィルムをセロハンテープなどで貼って(写真2参照)測定します。
今回の地球温暖化モデル実験装置がほぼ完成した初期に,筆者がデジタル温度計を使用して測定した結果を表に示します。なお,150Wのレフランプを使用しました。
また,温度計を使わずにタッパーなどの容器内に手を入れるだけの実験でも,5℃程度の温度差があれば十分にその温度差が感じられます。しかし,タッパーなどの容器内の温度差は10秒間程度しか維持できませんので注意してください。2~3℃の温度差ですと,測定する児童・生徒の感覚が影響するかもしれません。
表1:地球温暖化モデル実験装置内の温度 ※( )内の数値は,実験開始時からの温度上昇
レフランプ照射時間 〔分〕 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
赤外線カットフィルムなし 〔℃〕 | 22.8 (-) |
24.9 (2.1) |
26.7 (3.9) |
28.8 (6.0) |
30.4 (7.6) |
32.4 (9.6) |
赤外線カットフィルムあり 〔℃〕 | 22.3 (-) |
27.1 (4.8) |
28.7 (6.4) |
32.0 (9.7) |
35.2 (12.9) |
37.1 (14.8) |
温度上昇の差 〔℃〕 | 0 | 2.7 | 2.5 | 3.7 | 5.3 | 5.2 |
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環境問題において,「〇〇〇すると,△△△になってしまう」というようなマイナスの議論がなされることが多いのではないでしょうか。科学実験教室を主宰する先生から,「温室効果ガスが減ったら」という視点での実験ができないか問われました。
様々考えた上で,次のような実験を考えました。
〇実験装置はそのまま
〇赤外線カットフィルムを貼った装置が,現在の地球
〇赤外線カットフィルムを貼っていない装置が,温室効果ガスが減った地球
先生方の考えや児童・生徒の状況に応じて,いろいろな展開ができるのではないでしょうか。
小学生,中学・高校生,親子科学教室や一般の方々などを対象に,今回開発した地球温暖化モデル実験装置を使って,地球温暖化を考える環境学習プログラムを検討,実施しました。基本的な内容は同じですが,今回は小学校の児童を対象に約50分程度で完結する環境学習プログラムを簡単に紹介します。
なお,デジタル温度計を使っての展開例です。
○地球儀を使って,大気を考える。
地球の半径は約6,500km
宇宙ステーションは地表から約400km上空
地球の大気は地球に比べると非常に薄い
○地球と月の表面の温度を考える。
地球には,非常に薄い大気があるために暖かい
○太陽から来る光を考える。
暖かい色は?冷たい色は?
光には人間の目には見えない光もあり,赤外線という光が暖かさと関係している
○今,地球がさらに暖かくなると言われているが,実験で確かめよう。
写真3:実験のようす
○地球が暖かいのは,水蒸気,二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの効果です。これが増えると,地球温暖化になると言われています。
○この薄く透明なフィルムには,温室効果ガスと似た効果があります。これを容器内に貼ると温室効果ガスが増えると考えよう。
○では,実験しよう。
1分毎の温度を記録しよう
5分間程度,温度を調べて,初めの温度からどれだけ暖かくなったかを求める
「現在の地球」と「地球温暖化が進んだ地球」の結果を調べてみよう
○各班の結果を発表する。
○温室効果ガスについて考える。
○「では,どうしよう」と質問する。
前述したように,「…しましょう」「…はいけません」ということは,「どうしよう」の質問に対する答えの1つである
○「その他に」と議論を進める。
ある機関の応募論文のまとめに,次のような一説を書きました。
では,「あなたは何をしているか」と質問されたら,次のように答えます。
今の児童・生徒,そしてこれからの児童・生徒のために,子どもの「なぜ?」を大切にした,そして「楽しい」「面白い」「ご褒美」などのある,さらに日常生活の中で「もったいない」という意識を児童・生徒に定着させた上で,先生方自身も楽しく地球環境問題に関する授業をされることを望みます。