児童に理科について聞いてみると「好き,大好き」という答えが返ってくる。それは何も学級だけのことではない。事実,科学クラブは毎年一番人気であるし,フェスティバルのワークショップでもおもしろ科学コーナーは毎年大盛況である。ここ数年,児童が主体となった学びの中で,「もっと知りたい!」「ほかの実験方法もあると思う!」といった思いを抱けるよう授業改善を行ってきた成果といえる。
「自然に親しむこと」を,児童が自然の事物現象を身近に感じることだけではなく,そこから得た疑問や発見から問題を見出す姿とした。ここでいう問題とは,この先の学習へとつながるような問題意識をもつこと,すなわち児童自身が探究可能な見通しをもつことができた「自分事の問題」ということができる。「探究するよろこび」を,自ら見出した学習問題を比較したり関係づけたり条件を制御したり推論したりして解決していく過程によろこびを感じる姿とした。また問題を解決したことで考えが深まったり,新たな発見や疑問が生まれ次の学習問題が立ち上がったりすることによろこびを感じる姿とした。
児童が発する言葉の中で,「あれ?」という言葉に問題を自分事として捉えて自然に親しんでいる姿を,「そうか!」という言葉に実験・観察を通し学習問題を解決する姿を,「ということは…」という言葉に問題解決後に考えをまとめたり,つなげたり,発展させたりする姿を見取ってきた。この「あれ?」「そうか!」「ということは…」を繰り返しながら学習を進めていくことが学びのサイクルであり,そのサイクルが広がる姿が,探究するよろこびを感じていることに他ならない。
この単元は,導線を巻いたただのコイルに電流を流したものと,そのコイルの中に鉄心を入れたものとの違い,そして,電磁石の基本的な仕組みをおさえることをポイントにおいて進めていきたい。電磁石とは何なのか,子どもたちの認識のずれや混乱を避け,明確な共通認識をもたせるための構成を考えた。電流の流れたコイルには磁界が発生するが,それのみでは磁力はごく弱いものであり,これはまだ電磁石ではない。そのコイルの中に鉄心を入れ,鉄が磁化されることによって磁力は強くなる。このコイルと鉄の性質をつかった仕組みが電磁石であるという共通認識をもたせたい。
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導入では,単元全体の見通しをもたせることを大事にした。教科書の指導計画では,はじめに「コイルとは」「電磁石とは」を指導する。しかしそのままでは「自分事の問題」をもつことがむずかしいと考えた。そこで地域の工場に交渉し,本物のリフティングマグネットを操作・活用しているところを撮影させてもらった。
映像を見た児童からは「磁石みたい」「(仕組みは)どうなってるの?」「電気が関係している?」などの疑問や気づきが多く出された。
児童の発言の中から「同じものを作りたい」「あの工場の磁石のミニみたいなものはないかな?」などの言葉を取り上げ,「ミニ強力電磁石」を提示した。クリップが700個から800個ほどついた状態に歓声があがったが,その中での「かくれている部分は,どうなっているの?」「中心の金属棒にしかクリップがつかない。鉄かな?」「導線が2本出ている。電気を流しているのだと思う」などの言葉に価値づけをした。そこから①導線に電流を流すと磁石の力が発生するの?②磁石と同じならば,極があるのかな?③どうしてあんなに強力なのかな?どんな仕組みかな?などの問題を見出すことができた。
実際の動画を見て,次にミニ強力電磁石で驚いた児童からは,3年生の既習事項と結び付けて考える姿を見取ることができた。また,自然に,仕組みや電気の存在の気づきや疑問をもつことができたことも成果の一つと言える。このことが,単元全体の学習問題を引き出し,意欲の継続につながったと感じた。
1次では前時を受けて,1本の導線に電流を流し,方位磁針の針がふれることから鉄心の有無にかかわらず,電流が流れるところには磁力が発生するということをとらえさせた。子どもたちは当初「想像つかないなあ」「無理じゃないかなあ」という反応だったが,方位磁針がふれると驚きを隠せず夢中で実験を繰り返した。この次の成果は,この単元でこれまで見てきた電磁石と比較し,磁石の力といっても方位磁針をわずかに動かす程度だったので,「もっと強くするにはどうすればよいだろうか」という新たな問題を見出すことができたことであった。また,導線や電気の存在には目が向いたが,棒(鉄心)の存在には注目がいかなかったのは課題であった。
1本の導線だけではそこに発生する磁石の力が弱いことから,コイルを束ねた実験と心材を確かめる実験を進めていった。児童の発想で導線を束ねて実験を繰り返すことで,「同じ向きに」「規則正しく」「密に巻く」などのキーワードにしぼられていった。1本の導線よりコイル,コイルより鉄心入りのコイル(電磁石)の方が磁石の力が強くなったことから,「コイル=電磁石」ではなく,電磁石はそれぞれの性質や働きを生かした道具なんだという見方をもたせることができた。
コイル
コイルに付いたマグチップ
3次では電流計を使い,結果を表にまとめ考察をしていく。児童には常に「何を解決するための実験なのか」を意識するように支援した。そのことで,児童は常に条件を考えながらたくさんのデータをとることを念頭に進めていた。条件に着目している児童は「コイルの巻き数が同じなら,電流を強くすると磁石の力も強くなる」「乾電池の数が同じなんだから…」というような話し合いをしていた。信憑性の高いデータをたくさん集め,他のグループと結果を共有し話し合ったことで「ということは」を引き出すことができた。「…ということは,電流が強ければ強いほど,磁石の力は強くなるんだよ!」「ミニ強力電磁石の仕組みがわかってきて,おもしろい」などの言葉を発言や記述から見取ることができた。
この単元で電磁石を学ぶまで,電磁石を身近に感じていたり,生活に役立っていることを知っていたりした子どもたちは皆無であった。そこで4次では有用性を実感できるように,「どんな物に電磁石が使われているかな?」という投げかけをした。様々な資料から生活の中に電磁石があふれていることを知ると,「電磁石って,すごいな」「モーターを作ってみたいな」といった声があがった。この次の最後に「この単元名は"電磁石のはたらき"だけど,電磁石の働きをつくっている"もと"は何だろう?」と投げかけた。すると児童からは間髪入れず「電流!」とかえってきた。さらに「電流がすごいんだね」「電流には豆電球をつけたり,電磁石を強くしたりする働きがあってすごいな」など,これまでの学習をつなげた考えや,これからの学習につながる発言を多く見取ることができた。
教科書 5年P.169より
児童が以前と比べて"考える"ようになってきたことを実感している。低学年の生活科において児童自身からの気づきが増えた。中学年の理科において児童が自分たちの活動を考えることができ,結論を出せるようになってきた。高学年の理科において,児童は実験の結果が出たら「その学習は,終わり」とは考えず,既習を生かしたり関連付けたりして学びのサイクルを意識していたことなどがあげられる。またどの学年のどの教科でも言えることは,授業の中で「ということは」(またはそれに近い言葉)をよく使うようになったとも感じる。このことは,単元の後半になっても意欲が低下するどころか,むしろ考えようとしている姿に他ならず,成果の一つと言うことができる。