授業を行ったのは5年生の「もののとけ方」という単元である。この学習では当たり前と思って注目しないようなこと,例えば塩が溶けたり,コーヒーに砂糖を溶かしたりする日常的なことに対して,科学的な思考を持って臨める単元である。身近なものの中にも不思議が存在し,それを自分たちで解き明かすアプローチがしやすい単元と言える。児童が自ら主体的に理科の授業に取り組めるようにするにはどのように授業を工夫したらよいかを考えてみた。
インターネットが普及している今,豊富な知識を持つ児童は多い。また知らないことがあればすぐにネットに散らばっているあらゆる情報を集め,調べることができる世の中である。理科においても知りたい答えはすぐに見つけることができるであろう。しかし理科の教科で培うものは知識だけではない。自分が不思議だなと思ったものに対して,自分なりの仮説を持ち,それをどのように証明するか方法を考え,実際やってみてその結果から何がわかったか考えることのできる問題解決の力も大切だと感じる。時間はかかるかもしれないが児童自身に主体的な活動をさせることで,問題解決型の授業にチャレンジしてみた。
問題解決型の授業の流れの例
※大阪府教育センターの資料から
まず,砂糖や塩が溶けて見えなくなるという現象に,興味関心を持たせた。ペットボトルをつなげて水を入れ,口から塩や砂糖を少しずつ落としていくと下に着く前に消えて見えなくなったり,ティーバッグの中に塩や砂糖を入れて水につけると屈折率が変わり,透明なうねりのようなものが見えたり(シュリーレン現象),そんな不思議を存分に感じさせた。
次に塩や砂糖のように水に溶けるものが他にあるか,みんなで考えた。児童が挙げた中から,①砂糖,②塩,③カレー粉,④コーヒーの粉,⑤絵の具,⑥土,⑦こしょう,⑧ミョウバン,⑨かたくり粉,⑩角砂糖 を用意した。溶けるということは,・色がついていても透き通っている ・全体に広がり混ざっている ・時間がたっても分離しない ことを確認したうえで実際に水に溶かしてみた。自分たちが思っていた予想と違うと「うそやん!?」と反応して何度も何度も溶かそうとする児童がいたり,予想が的中して大喜びの児童がいたりと,十分に興味関心を持たせることができたと感じる。
そして,溶けたということは,塩や砂糖がどうなったのかを重さに注目させ,予想させたり仮説を考えさせたりした。『水にとけて見えなくなったものの重さはどうなるだろう。』という課題に対して「見えないということは消えてなくなるので重さはない」という児童もいれば,「塩味があるから重さも存在する」,「重さが味に変わったので重さはなくなる」,「よく見ると水溶液のかさが増しているので透明になっただけでものは存在する」など,いろいろと自分なりの予想や仮説がでた。討議しているうちに意見が変わったり,少数派でも自分なりの考えを主張したりと白熱した論議になった。しかし最終は,実験によって自分の仮説を明らかにするということでグループに分かれ実験方法を考えさせた。
自分たちのグループで計画を立てるので知恵を出し合い,溶けて見えなくなったものの重さはどうなるかを知るための実験を真剣に考えていた。先の授業で実際に水に溶けた砂糖・角砂糖・食塩・ミョウバンの4つのうち実験したいものを選ばせた。また電子天秤はグループに一台用意したが,それをどのように使用するかは児童に任せた。あるグループは,最初に容器の重さを差し引いた水の重さを量り,同じく次に溶かすものの重さをそれぞれ量ってからそれらを混ぜ合わせ,できた水溶液の重さを量り,溶かす前と後の重さを比べていた。またあるグループは,水や容器,溶かすものまで電子天秤にのせ,その後全て溶かして,溶かす前と後とでは全体の重さに変化があるのかを調べていた。各班で水や溶かすものの重さ,やり方はそれぞれ違っても,それをしっかりと記録し,プレゼンできればよい。また各グループが行う実験方法を計画書として書かせた。
実験計画書
そしていよいよ自分たちが立てた実験計画の通りに実験をする。児童が用意してほしいと計画書に書いてあったものはすべて用意した。7グループとも違う実験方法で,違うものを溶かすというものなので,それぞれの責任は重くなる。児童一人一人が意欲的に取り組んでいると感じたと同時に真剣さも感じられた。後日の授業で自分たちの実験を方法から考察まで説明する。そんな時に使用した便利な道具がタブレットである。実験道具や実験中の様子,結果などを映像や画像に収めることで,後で記録の整理もできるし,発表のときにそれを使ってわかりやすくプレゼンができる。ちょうど最近タブレットが学校に導入されたということで7グループそれぞれに一台ずつ渡し,画像と映像を撮りながら,時間のある限り実験を繰り返させた。実験中はノートに記入しながらではあるが,タブレットで次のような画像や映像を撮れば,プレゼンで使いやすいことを伝えた。
(例.角砂糖を溶かしたグループが撮った画像や映像)
※1 と書いてある札は,1回目の実験という意味
実験中の様子。タブレットと計画書を持って自分たちで考えた実験を行っている。
それぞれのグループはノートの記録や画像と映像を見返しながら,『水にとけて見えなくなったものの重さはどうなるだろう。』という課題の答えを考察させた。どのグループも独自の分量や違う方法で実験を行っていたが,それなりの結果は得られたようであった。その後は画像や映像を整理しながら,プレゼンの準備をさせた。プレゼンの大切なところは,いかにわかりやすく自分たちが行った実験を説明できるかである。自分たちがしっかりと理解しておかなければ人に説明するのは難しい。
最近の児童はタブレットの使い方を教えると,簡単に使いこなし,画像の消去や並び替えなど予想以上にスムーズに行っていて驚かされた。
中にはミョウバンを飽和量よりも入れすぎて,溶けきれなかったグループがあったが,それはそれで溶ける量に限界があるのかという,新たな課題をみんなに示すことができるので,あえてそれも発表させることにした。
いよいよ自分たちで行った実験の方法や結果,考察を発表する時である。タブレットの画像や映像を,無線で大型テレビに映してクラス全体で共有する。電子天秤の重さを示す部分を拡大したり,画面を指差しながら説明したりとどのグループも工夫して発表していた。それぞれのグループは溶かすものも違えば,方法も違うので興味を持って聞いていた。聞いているほうも疑問点があると最後に鋭い質問もしていて,それに対する回答も自分たちで考えて答えさせた。
溶かしたものや実験方法,分量に違いはあるが,7つあるどのグループも『水にとけて見えなくなったものの重さはどうなるだろう。』の答えが,「見えなくなっても重さは変わらない」となった。そのものはそこに存在するという共通の答えが出た。
プレゼン中の様子。発表する方も聞く方もいきいきとしていた。
各グループ(今回は4人程度の7グループ)でそれぞれ解決方法を考え,それを発信するということをポイントとして指導を行ったが,児童が主体的に動け,意欲もかなり高く学習ができたと感じる。誰かに発信するときにはしっかりとした理解が必要である。あいまいな理解では人に説明することは難しい。児童はそれを感じているので実験から真剣さが感じられた。
また今回はタブレットを使用したが,無ければデジカメでも十分に対応できる。数こそグループに一台必要だが,それだけたくさんの実験方法で行えるということである。
今回のように些細な不思議から物事に興味を持ち,その不思議を自分の力で解き明かそうとする力,問題解決の力をこれからも伸ばしていきたいと思う。