小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

~自ら問題を発見し工夫して解決していく理科学習を目指して~
振り子数直線板を活用した1秒時計の実践から

5年 神奈川県横浜市立黒須田小学校 政 隆一朗

1.はじめに

振り子の動きはエネルギーについての基本的な考え方や概念を柱とした内容のうち,エネルギーの見方に関わる学習である。力学の基本となる概念が多く含まれており,中学校の理科や高等学校の物理につながるため振り子の現象をしっかりと理解する必要がある。

本単元では,ガリレオの紹介から1秒時計(1往復1秒の振り子)を作るという目標に向かい学習を始める。第一次では,おもりの重さや振れ幅,振り子の長さなどの条件を変えながら実験を計画し,ガリレオがひらめいた振り子のきまりを追究していく。第二次では,見つけたきまりを使って一秒時計やメトロノームなどを作り,理解したことを深めていく。これらの学習を通して,振り子は振り子の長さによって1往復する時間が変わることをとらえるとともに,それぞれの条件を制御しながら,振り子の運動の規則性を追究する能力を育てていく。今回は,学習で活用した「振り子数直線板」や1秒時計を単元の目標とした学習展開について紹介したい。

2.主体的な学習を目指して

どの学習でも子どもが主体的に取り組み,自ら問題解決していくためには単元を通して子どもの意欲を高めていく必要がある。天気の変化では,気象学者や気象に携わる仕事,電磁石の性質ではウィリアム・スタージャンをはじめとする物理学者など学習に関わりのある科学者を紹介してきた。ガリレオの紹介から始まるこの単元では,一人ひとりが「リトルガリレオ」になり,振り子の運動の規則性を追究していく。1秒時計を作るために自分自身が科学者になり研究を進めていく,その過程が学習問題となり一つ一つ謎を解いていくという喜びが学習意欲の高まりへとつながると考えた。さらに,ものづくりを取り入れていくことで児童がより理解を深めたり,生活との関連に気付いたりできるようにした。

3.振り子数直線板の活用

実験を正しく行ったが考察が書けなかったり,結果と考察の区別ができなかったりと考察を苦手と感じる児童は多い。何のために実験を行っているか見通しをもっていないと結果からどんなことが分かるのか考えるのも難しい。見通しをもった学習を行えるよう,予想の場面では,言葉だけでなく図や絵などを使って一人ひとりが振り子の動きについて考える時間を確保していく。自分なりに根拠をもって立てた予想と関連付けながら言語化していくことで考察がより充実したものになるようにしていく。

また,実験結果を適切に整理し全体化していくことも考察の質を高めることにつながると考えた。グループの実験結果をノートにまとめ,全体の結果は「振り子数直線板」を活用し目に見える形で共有できるようにした。

4.研究の実際

振り子の長さが変わると1往復する時間は変わるのか調べる学習で振り子数直線板を使った。グループごとに10cm~150cmの中から振り子の長さを選択し実験に取り組む。結果が出たら数直線板にそれぞれのグループが使った振り子をかけて全体で共有しながら学習を進める。

使った振り子を吊り下げて周期について考えると「だんだん振り子が長くなっている。」「振り子の長さを変えると1往復する時間も変わった」などの発言が見られた。1往復する時間は変化しないと考えていた子どもも数直線板にかかった振り子を見て周期が変化していることに気付くことができた。さらに振り子を長くするとどうなるか考える子どもや,長さを2倍にしても周期が2倍にならないことに気付く子どももいて,振り子の長さと周期の関係性について自分なりに考えている様子がうかがえた。

次に,振り子の長さを変えれば1秒時計を作ることができると理解した子ども達がどれぐらいの長さの振り子を作ればよいか思考する場面を設定した。周期が0.9秒の20cmの振り子と周期が1.1秒の30cmの振り子から1往復1秒になる振り子の長さを推論し,25cmに近い振り子を作って細かい調整をしていた。一人ひとり1秒時計を作った後は,クラス全員で60秒を計る大会をして盛り上がった。誤差はほとんど出ず全員が1秒時計を作ることができ,子どもたちはとても満足していた。

大会の様子

5.成果と課題

1秒時計を単元の目標とし,振り子の謎を解いていく学習の流れが子どもたちの意欲を高めた。毎時間,授業の終わりに「1秒時計」について話し合うことで何のために実験し考えていくのかが明確になった。単元をつらぬく教材を選定していくことは難しいが,子どもの実態に合ったものであれば主体的に問題解決していこうとする姿勢につながるのだと感じた。

振り子数直線板においては結果の共有から思考する場面,全体の結果から傾向をとらえる場面,傾向から推論する場面まで幅広い活用ができることが分かった。長い振り子と短い振り子の比較だけではなく,様々な振り子の長さで実験を行い,結果を共有したことで現象の規則性や関係性を見出すきっかけとなった。結果を表にまとめたり,プロットしたりすることは実験が正しく行えていれば比較的容易にできる。しかし,結果から考察することが難しく,苦手と感じている子どもも多い。だからこそ「分かった!」と子どもに思わせるような結果のまとめ方や全体化の方法を学習内容ごとに教師側が常に考えていく必要がある。その意味で今回の振り子数直線板はとても有効だったと思う。

すべての振り子を数直線板にかけたときに子ども達から大きな歓声があがった。それは,周期が描く曲線に自然事象の不思議さや美しさを直感的に感じたからではないだろうか。教える側として,自然事象を理解するのは勿論のこと,その不思議さや美しさを感じ,子どもにどう伝えていくか考えることが魅力ある授業展開につながっていくのだと思う。今後も追究する姿勢をもちながら教材研究をしていきたい。