平成24年度に実施された全国学力学習状況調査理科の結果によれば,次のような課題が明らかになった。
ア 観察・実験の結果を整理し考察することに課題がある。
イ 科学的な言葉や概念を使用して考えたり説明したりすることに課題がある。
この課題は,今までの日々の授業の中で抱えてきた課題の1つである,「理科好きの児童は育っているが,なかなか学力が向上しない。」と共通するものである。ここでいう学力とは,「科学的な見方や考え方」のことである。
科学的な見方や考え方と言っても,その構成要素は,知識や判断力,思考力,表現力など多岐にわたる。これらすべての力を高めていかないと科学的な見方や考え方は高まっていかないと言えるが,前述の全国学力学習状況調査理科の結果から明らかになった課題から判断すると,「思考力」を高めることが重要課題ではないかと考えられる。
本研究で言う「思考力」は,論理的思考力のことである。具体的な学習場面で言えば,観察・実験の結果を整理し考察することである。論理的思考力は,論理に支えられて物事を判断し,問題を解いていく過程である。したがって,論理的思考力は教えることも伸ばすこともできると考えられる。現在の理科学習は,帰納的な推論によって展開されている場合がほとんどであるので,論理的思考力を高めることは理科学習において重要なことだととらえることができる。しかし,児童はもちろん,日本人は論理的な思考が苦手だと言われている。その理由は,論理的に物事を考える練習を積んでいないからだと言われている。
そこで,論理的思考力を高めるための手立てを授業に取り入れることにした。
ロジック・ツリーとは,文字どおり論理を構成するツリー状のものである。ロジック・ツリーは,表層に見えている問題から,真の問題を発見する上で,大変役に立つツールである。理科学習においては,提示した事象から,既習内容や生活経験,感じたことなどから学習課題を整理し設定することに有効であると考えられる。
ピラミッド・ストラクチャーは,具体的な情報や観察事項から上位の概念に向けて推論を進める上で大変役に立つツールである。理科学習においては,実験や観察で得られた結果や考察から,単元全体のまとめを行う上で有効であると考えられる。
表を使って実験や観察の結果を整理するツールである。理科学習においては,条件を制御しながら実験や観察を進め,その結果を比較するために有効であると考えられる。
ベン図とは,複数の集合の関係や集合の範囲を視覚的に図式化したものである。理科学習においては,いくつかの実験や観察の結果のかかわりを明らかにするために有効であると考えられる。
論理的思考力を高めるためには,児童にその過程をしっかりとイメージさせ,体験させることが重要であると考えた。つまり,論理的思考力を高める過程を視覚化し,授業の中で活用する必要がある。そのために,学習計画表の開発を行った。これは,論理的思考力を高めることを主眼に置いた学習計画表である。この論理的思考力を高めるための学習計画表は,「考えるツリー」「考えるピラミッド」の2枚で構成している。
学習計画表の活用については,第5学年「もののとけ方」で検証した。
論理的思考力を高めるツールの1つであるロジックツリーをヒントに,「考えるツリー」を作成した。「考えるツリー」では,事象提示後,児童の自由で多様な思いや発想を引き出し,それらをカテゴリー化することによって実験や観察のねらいと方法を明らかにしていく過程を視覚化するためのものである。
検証授業では,事象提示で,コーヒーシュガーが水にとけていく様子を観察したあと,ものが水にとけることについてもっと調べたいという意見が出た。そこで,「ものが水にとける」ことに関して自由に思いを発表させた。その後,「考えるツリー」を配付した。
児童の興味関心はとける「もの」に向いていたので,単元全体のめあてを「水でどんなものがとけるか調べよう」とし,そこからさらに興味関心を広げ,カテゴリー化し,1単位時間ごとの実験のねらいや内容を設定していった。児童は,[予想・仮説]の欄に既習内容や生活経験にもとづいて,自由に記述【図1青枠】していった。本来ならこの記述は,「考えるツリー」であるので,樹形図のように書かせたかったが,そのことで思考を妨げるように感じたので,敢えて自由に書かせた。児童の自由な思いや意見を4つにカテゴリー化し,実験のねらいや方法を設定していった。【図1赤枠】なお,[実験方法]の欄の記述に[実験のねらい]が含まれており,修正が必要である。
論理的思考力を高めるツールの1つであるピラミッドストラクチャーをヒントに,「考えるピラミッド」を作成した。「考えるピラミッド」は,実験や観察の結果をもとに,マトリクス(表)やベン図等を活用し,実験や観察の結果をもとに,比較,関係付け等を行うことによって,結論を導き出す過程を視覚化するためのものである。
検証授業では,[結果]の欄に今までの実験の結果を書き,[思考]の欄でそのかかわりや類似点等について考えるようにした。[思考]の段階では,表やベン図などを活用し,多様な思考ができるようにした。【図2】
児童の中にはまとめや発表が苦手で,実験や観察が終わると同時に学習意欲が薄れてしまうことも少なくなかった。しかし,「考えるピラミッド」によって,段階的に思考する流れに見通しをもつことができ,今までより集中して学習に取り組むことができた。特に話合いが活発になり,発表にも積極的な面が見られた。
【図2 児童が作成した「考えるピラミッド」】