ふりこの学習をすすめたとき,私の担任するクラスでは,「ふりこが一往復する時間は,おもりのおもさによってかわらない」という科学的知識に,一番驚きを感じたようであった。これは,事前に行った下記のアンケートからもそのことがうかがえる。
体重100kgのぶたさんと,体重40kgの男の子が同時にブランコをしました。
同じ高さから,「よーいドン」1分間にゆれる回数が多いのは,どちらでしょうか。
【注意】
(1) 一度スタートしたら,足でこぎません。
(2) だれも押しません。
(3) ブランコのくさりは切れません。
記号に○をつけましょう。
ア 100kgのぶた イ 40kgの男の子 ウ どちらも同じ回数 エ わからない
このアンケートの結果は,右のようになった。この結果から分かるように,ふりこが1往復する時間はおもりの重さに左右されると思っている子どもが,87%もいることがわかる。これは,生活経験から得た科学的知識に誤認があったためだと考える。それは,アンケートの理由の欄に次のように書かれていたことからも分かる。
「ティッシュペーパーと消しゴムを同じ高さから,同時に落とすと,重い消しゴムの方が速く落ちるから,重いぶたさんの方が多いです。」
このような生活経験から得た科学的知識は,実際の経験から得たものなので,誤認であっても正しいと思っている子どもたちが多い。この誤った科学的知識を活用して仮説・予想を立てると,仮説・予想と異なる実験の結果と出合う。このとき,「あっ!」と驚き,仮説・予想を考えなおし,誤った科学的知識の修正が行われる。そして,仲間とともに考察を話し合うことで,正しい科学的知識の納得や理解を得られるのである。また,習得した確かな科学的知識を活用させて考えることは,さらに確かな科学的知識の納得や理解が得られるとも考える。今回は,そのような授業の一例を紹介したい。
第1時では,各自でふりこを作成し,ふりこの長さ,おもりの重さ,振れ幅を自由に決めて振れさせ,ふりこの仕組みを理解させていく。第2,3時では,ふりこが1往復する時間に振れ幅が関係しているか調べさせる。同じふりこを用い,ふりこの振れ幅を30°と15°で1往復する時間に違いがあるか調べさせる。その結果,ふりこの振れ幅は1往復する時間に関係ないことを理解させる。第4,5時では,ふりこが1往復する時間にふりこのおもりの重さが関係しているか調べさせる。ふりこの長さ50cm,振れ幅30°でふりこのおもりの重さを変えた3つのふりこの1往復する時間を求めさせる。その結果,ふりこが1往復する時間にふりこのおもりの重さが関係ないことを理解させる。第6,7時では,ふりこが1往復する時間にふりこの長さが関係しているか調べさせる。ふりこの振れ幅30°,おもりの重さ120gで,長さを変えた3つのふりこの1往復する時間を求めさせる。その結果,ふりこが1往復する時間におもりの長さが関係し,短い方が速く,長い方が遅いということを理解させる。
ここまでの学習で,子どもたちは次の3つの科学的知識を習得している。
これらの科学的知識を習得させた後,これらを活用させて考えることができる「へびふりこ」の授業を行うのである。
次のような,教具を開発した。
この教具は,6つのふりこが付いている。おもりの重さは空気抵抗に左右されない,ある程度の重さをもった適当なものである。ふりこの長さは,右図のように図に表すと,①のふりこが一番短く,左に行くに従って次第に長くなっている。1往復する時間が以下のようになるようにふりこを作成する。
この教具を使い,「この6個のふりこを同時に振らすと,どんな動きをしますか」という課題を与え,考えさせる。
このとき,3つの既習の科学的知識を活用させ,予想させる。
3つの既習の科学的知識とは,次のようである。
この3つの既習の科学的知識から「この6つのふりこは規則正しく前から順に振れ,ヘビのように見える」と予想させる。「観察・実験」の場面では6個のふりこが同時に振れる実験をして,観察・記録させる。このふりこは規則正しく前から順に振れ,まるでヘビのように振れたというだけでなく,観察を続けるとふりこが3つのグループになったり,2つのグループになったりしながら振れることに気がつく。既習の科学的知識を活用して,ヘビのように振れることは説明できるが,3つのグループになったり,2つのグループになったりして振れることの理由は既習の科学的知識を活用しても説明することは難しい。この現象は,より条件を制御した2つのふりこを用い,算数で習得した最小公倍数を活用させながら,説明することができる。しかし,この扱いについては,児童の実態に応じて指導していく。
子どもたちは,「へびふりこ」の動きを見ながら,仮説・予想を確かめていった。「ヘビのように振れると思います」などという仮説・予想を立てた子どもたちは,既習の科学的知識を活用できたことを実感できた。「バラバラに動くと思います」などと,既習の科学的知識を正しく活用できなかった子どもたちは,グループで行った実験中の話し合いや,考察の話し合いにおいて,仲間の考えを理解していくことができ,考察を考えなおすことで,既習の科学的知識を活用できることを実感していった。しかし,ふりこが3つのグループになったり,2つのグループになったりしながら振れることの説明はできなかった。子どもたちは,このふりこの動きに興味を持ったので,指導者が,6つのふりこの振れ方のきまりについて説明した。「60秒間に,⑥のふりこは60回ふれ,⑤のふりこは59回,④のふりこは58回,③のふりこは57回,②のふりこは56回,①のふりこは55回,振れるようにつくりました」「このきまりと,算数で習った最小公倍数の知識を使えば説明できます」と伝えた。さらに,「6つのふりこで考えると難しいので,2つのふりこで考えると分かりやすいです」「1往復するのに2秒かかるふりこと,3秒かかるふりこで考えてみましょう」とヒントを与えた。本時では扱う時間がなかったので,家で考えてくるように促した。何人かの子どもが説明できるように考えをまとめてきたので,次の授業で発表させ,全員で考えさせていった。子どもたちの中に,「算数で習ったことが理科でも使えると分かって,とてもおもしろいと思いました」と感想をもった子どもがいたことからも,理科だけでなく「様々な知識が活用できた」と実感させることができたと考える。
既習の科学的知識を活用できた子どもたちは,既習の科学的知識に対しての納得や理解を得られたり,活用できたことに対しての驚きや喜びを感じたりすることができた。このようにして,科学的知識の活用ができるようになると,新たに出合う事象の性質・働きに対しても,既習の科学的知識を活用しようと,自らかかわりたいと思わせることができ,さらに,「他の場面でもしてみたい」「別のことでも試してみたい」という思いや願いをもち,自ら追究する活動へとつながっていくものと考える。