自然事象に対して児童のもつこれまでの考え方を修正し,新たな考え方を形成していくためには,感動や不思議を伴った事象との出会いが必要であると考える。その出会いによって,自ら問題意識が生まれ,見通しをもった学習活動を展開させていくことができるといえる。子どもたちが主体的に「!」から「?」を見つけるために,単元導入のあり方を重視して授業を行いたいと考えている。
また,学習において大切なのは,「ことば」のとらえ方であろう。自分の気づきや考えを「書き」「話す」こと,そして,他者の気づきや考えを「読み」「聴く」ことを通して,子どもたちは,自ら学んだことを生活の中で生かすことができるのではないだろうか。そこで,子どもたちには,「ことば」を用いて伝え合う力を育てさせたい。
本稿では,事象との「出会い」および「ことば」を大切にした授業を,担任している5学年においてどのように行ってきたかについて述べたい。
メダカの発生を「自分事」としてとらえられるように,メダカを観察する機会を多く作ること,また,子どもたちが実感を伴った追究活動を行えるように,大型液晶テレビと教材提示装置とデジタル顕微鏡を活用する機会を多く作ることを目標に,授業を進めていった。
導入の段階では,「メダカ」を中心語句にしたイメージマップを作成することをきっかけに,メダカの発生や成長について興味をもたせようとした。メダカの誕生の様子を知るためには,メダカのオスとメスを飼育し,観察することが必要となる。そこで,オスメスの見分け方や飼育方法,特に食べ物に着目させた課題作りを行うようにした。
課題作りの際には,「はっきりしていること」「はっきりしていないこと」を意識させるようにした。グループで各自のイメージマップの中身や,「はっきりしていること」「はっきりしていないこと」について紹介し合い,そこから出てきた解決したい疑問を出し合って,課題作りを行った。
その後,メダカを実際に飼育・観察し,オスメスの違いについて理解させたり,卵を産ませるための飼い方の工夫について考えさせたりした。ここでは,一人ひとりがしっかり観察を行い,さらに生命尊重の態度を育てることをねらいとして,ペットボトルを用いた飼育容器での飼育・観察をグループで行わせた。
それぞれの学習段階においても,学習した内容から新たな「はっきりしないこと」を意識させることで,次の課題を作りやすくした。また,メダカを飼育する上で重要な「えさ」に着目させ,ビオトープの水や地域の水田の水を観察する活動を通して,メダカのえさとなる生き物について調べ,自然界のしくみについてとらえるようにした。
自然界の水の中にはプランクトンをはじめとする,さまざまな生物が生息している。まずはそれらを観察することから,メダカが何を食べているのかについて推論させた。ただし,観察した生物を本当に食べているのかはわからない。そこで,「本当に食べているのか」という新たな疑問が出てきてから,海水魚であるカタクチイワシの煮干しの「解剖」を行い,胃の内容物を観察したり,メダカに,水中の生物であるミジンコを食べさせたりするなどの方法で,実感を伴った理解を促そうとした。
煮干しの解剖を行う授業では,担任扮する大学教授が,解剖の手ほどきをする,というドラマ仕立ての解説ビデオを用意し,視聴させた。子どもたちは驚くほど食い入るようにテレビの画面を見つめており,その後の解剖にも大変意欲的に取り組んだ。
煮干しの胃袋の中からは,種類のわからない微生物が多く出てきた。そのたびに,顕微鏡テレビ装置に映し出し,よく探し出せていないグループが参考にできるようにするとともに,プランクトン図鑑を理科室内の一角に置くことで,見つけた微生物の名前を調べたり,どんなものが見つかったかを報告し合う児童同士の情報交換の場とした。
授業の最後に,テレビの画面に学校ビオトープで採集したメダカを映し出し,実際にミジンコをスポイトで与えて,食べるかどうかを確認した。
しかし,メダカはなかなか食べようとしなかった。自然界の中でしっかりエサを見つけて食べているため,あるいは警戒心が強いためのいずれかがその理由だと思われる。
そこで,今度は教室で飼育している,ペットショップで購入してきたヒメダカに同じようにミジンコを与えてみた。すると,ものすごい勢いで動き回り,ミジンコを食べるところをみんな「目撃」することができた。
一つ一つの事象から,新たな疑問→課題を生み出すことで,児童の高い興味・関心が持続され,最後に「腑に落ちる」学習内容となった。
その後,教室で飼育しているメダカが産卵し,その発生の様子はこまめに大型液晶テレビに映し出して観察を続けられた。子どもたちは「自分たちの」メダカとして,意欲的に記録することができた。
なお,この単元における池の水を観察する授業は授業参観時に行った。さらに,保護者からボランティアを募り,煮干しの解剖を行う授業では,顕微鏡操作と解剖の支援をしていただいた。保護者も久々?の顕微鏡に夢中になり,「親子で共に」学ぶことができた単元となった。
本単元ではまず,「水にものを溶かす」という体験を十分にさせた上で,「溶ける」ことに対するイメージをしっかりもたせ,そこから生まれた疑問に沿って学習を展開していきたいと考えた。
子どもたちにまず,食塩やコーヒーシュガー,ミョウバンを水に溶かす経験を,ビーカーや棒ビンなどを用いて行わせた。そこで「水溶液とは」ということについて簡単に押さえた。
次に,演示によって,水を入れた水槽に観賞魚用の産卵ネットを設置し,そこに食塩を1袋すべて入れ,どんな変化が起こるか,ということを観察させた。
子どもたちは,網の下から出てくるもやもやに,非常に興味をもった。水槽の後ろには黒い画用紙を置き,LEDのライトを当てて見ると,もやもやの影が画用紙に映し出され,「おーっ」という声が上がった。
食塩の山が少しずつ低くなっていくことで,もやもやの正体は食塩が溶けたものであることが分かり,それが水底に沈んでから再び舞い上がる様子を見ることを通して,水の中における溶け方の均一性についての疑問も出てきた。
食塩1袋ということについては,とにかく豪快に,というのが一番のねらいだが,当然溶けきれずに網の中に残る食塩もあるため,「どこまで溶けるのか」という疑問にもつながった。
さらに,水を入れた長さ1mのアクリルパイプを登場させ,今度は,食塩を1粒だけ,入れてみた。糸を引くようにしながらなくなっていく食塩を見て,「消えた」「溶けた」という声が上がった。続いて1つまみだけ食塩を入れ,それぞれの粒が同じように落ちながら溶けていく様子を観察した。また,溶ける様子が少しでも見やすいようにと,中には縦長に切った観賞魚用のバックスクリーンを入れた。
その後,子どもたちにもそれぞれのグループで2本のパイプを使わせ,食塩とミョウバンの両方を溶かす体験をさせた。
同じように溶かしているのに,ミョウバンの方は溶け残りが出てきてしまったりして,子どもたちの中にも「あれ」という声が上がった。
観察したことは,子どもたちには絵と言葉を使って表現させるようにした。「水の中で何が起きているのか」ということを常に投げかけるようにして,自分なりの方法で表せるようにした。
その時発見したことや出てきた疑問については,学級全体で話し合った。
「食塩が溶けて見えなくなる」という発見に対しては,「見えなくなるということは,重さもなくなるのかなあ?」と返した。食塩をたくさん溶かしていくことでパイプ中の水溶液の体積が増えてくることを指摘し,食塩は見えないだけで,中にまだ残っていることをイメージしやすくした。
また,子どもたちからは食塩とミョウバンで溶け方にちがいがあるのか?という疑問が出てくる事を想定して,お湯を入れたアクリルパイプを密かに用意しておき,そこに「あまり溶けない」はずのミョウバンを入れた。すると,ミョウバンがあっという間に溶けてしまい,再び「あれっ?」と言う声が上がった。その後,目ざとい子どもがパイプから湯気が出ていることや,パイプの上の方が曇っていることを発見し,「先生のはお湯じゃん!」と,見事にばれたが,「ホットコーヒーには砂糖を入れるけれど,アイスコーヒーにはシロップだよね。だから,温度が関係あるのかも」といった,生活経験をもとにした発言も出てきた。
最後にグループに戻り,これから調べたいことについて話し合わせた。
「重さは溶かした分だけ増えるのか」「温度によって溶け方は違うのか」「溶かすものを入れた分だけ全部溶けるのか」「溶かすものによって溶けたり溶けなかったりするのか」という疑問が出て,これからそれらを確かめてく,という形で,その後,この単元を進めていくことができた。
○成果
●課題