学級全体の学習の様子を見ると,子どもたちは,見いだした問題について,自ら予想をもって観察・実験を行うようになってきている。しかし,個人で見ると,自ら問題を見いだすという点で課題がある。自然事象と出会うことで抱いた疑問は,具体的に何がはっきりしないのか(わからないのか)うまく表現できないために,明確な目的意識をもたないまま観察・実験を行う児童も少なくない。
そこで,子どもたち一人一人が,自ら問題を見いだし,何をはっきりさせたいのかという目的意識をもって実験に取り組めるような手立てを考えた。
まずは,教科書を参考にし,実際に鉄板の上で調理している動画の映像を提示した。この映像から子どもたちは,同じ鉄板の上でも,よく焼ける部分とそうでない部分があることに気付 くことができた。「家庭で焼き肉をする際も同じような調理のしかたをするよ」といったように,日常の体験と重ね合わせて事象を捉えている児童もいた。しかし,熱している部分(火の位置)がわからないため,特に問題になるような児童の反応は見られなかった。
そこで次に右のような事象を提示した。
同じ2つのフライパンの異なる位置にろうを置き,熱する部分を同じにして比較させる事象提示である。ろうのとけ方の違いを観察させ,その要因を考えさせることで問題づくりをさせた。(実際は,アルコールランプで実施)
この事象提示だけで,子どもたちの多くは,「熱した部分からあたたまっていくから,ろうのとけ方がちがった」と捉えることができてしまった。しかし,「フライパンの他の部分(ろうを置いていない部分)のあたたまり方がわからないから,もっと詳しく調べてみたい」という声も多く,「金ぞくはどのようにあたたまっていくのだろうか。」という問題をつくることができた。自分の考えを表現することが苦手な児童についても,何を調べていくのかはっきりさせることができた。また,鉄板焼きの映像や事象提示を根拠とし,自分なりの予想を表現することもできた。
事象提示をもとにすることで,すぐに実験計画を立てることができた。多くの児童が,フライパンに置くろうの数を増やした実験を計画していたが,教科書を参考にして金ぞく板を使いたいという児童や,フライパンにろうを塗る児童がいて,一人一人が工夫しながら自ら実験に取り組もうとしている姿が見られた。
教科書にあるような問題が設定できるよう事象提示を工夫すると,教科書を参考にしながら実験計画を立てられるということもわかった。
グループごとに計画した実験をさせることは,自分たちで問題を解決できたという「実感を伴った理解」につながっていくと考えられる。また,少しではあるが,グループごとに異なる実験を行うことで,結果を共有する場面では,さらに考えが深まると考えられる。
多くの児童が,ろうを使った実験を計画していた中,ある児童が,熱したフライパンの温度を測ってみたいと考えたので,右のような放射温度計を使って測定させた。
熱した部分の近くと離れた部分(実際には,角の4か所)を測定させたところ,下の図のような結果となった。
実際に測定してみると,温度の上昇が速いために,正確な数値を読み取ることが難しかったようである。しかし,温度の変化の様子を捉えることはでき,熱した部分から順にあたたまっていくという予想とずれる結果ではなかった。
上記のような実験を経て,子どもたちは「金ぞくは,熱した部分から順にあたたまっていく。」という考えをもつことができた。そこで,金ぞくの棒を見せ,「この金ぞくも同じように温まっていきますか。」と聞いたところ,自信をもって答えられない児童が見られた。
「同じ。」と答える児童もいたが,「やってみないとはっきりはわからない。」という思いから,「金ぞくは,形がちがっても,熱したところからあたたまっていくのだろうか。」という問題をつくり,次の実験へと進んだ。
このように,子どもたちに「何がはっきりしていないのか。」「実際に観察・実験をしてみないとわからないことは何か。」を考えさせ,納得のいくまで観察・実験を行わせることで,問題意識をもって学習が進められるようになるのではないかと考えている。
「金属のあたたまり方」の学習においては,事象提示を工夫し,要因を捉えやすくしたり実験計画を立てやすくしたりすることで,理科を苦手とする児童も,自ら問題解決が行えたと考えられる。
子どもたちが,自ら問題解決を行えるようにするためには,意図的に様々な工夫をする必要があるが,その際,教科書やそのガイドブックは積極的に活用するべきである。教科書は,問題解決の学習過程に沿ってつくられているので,まずは,子どもたちが教科書と同じような問題をもつためには,どのような事象提示が有効か考えてみることから始めるとよいと思う。児童の実態と照らし合わせて考えることで,工夫するべき点も明らかになっていく。
「金ぞくのあたたまり方」の学習では,もっと多くの児童が,自ら問題解決を行えることをねらいとし,学習を計画した。教科書に即した問題意識をもたせることができ,多くの児童が教科書を参考にしながら実験計画を立てることができていたことは,成果の一つだと言える。