子どもたち(特に低学年)は,生き物が好きですね。低学年の生活科の中に多くの生き物たちが取り扱われているのは,そのためでしょう。
私も生き物が好きで,3年生を担任すると子どもたちと同じようにワクワクしてしまいます。
3年生で扱われている「昆虫のからだとつくり」の単元は,適切な関わりをすることによってこれから続いていく理科の学習への興味,関心を大きく変化させる単元だと考えています。
子どもたちが昆虫に興味を示していても,指導する私たちが,昆虫に興味を持てないようでは,子どもたちのふくらみかけた蕾がしぼんでしまいかねません。
そこで,今回は子どもたちと共に取り組んできた授業について,心構えや問題点を少しご紹介したいと思います。
「虫を扱った授業はどうも」という皆さんの一助となれば幸いです。
3年生の子どもたちは,理科の時間の中で初めて"昆虫"に出会うことになります。これまで,生活科を通して何度も触れあってきた"虫"たちが"昆虫"と"そうでないもの"とに分けられることを知ります。この時期なら,高学年ほど虫嫌いには出会うことは少ないようです。それまでの経験にもよりますが,大半の子どもたちは虫と楽しく触れあうことができていました。校庭や野原で虫たちと過ごせる貴重な時期でもあるでしょう。
さて,教材として昆虫を見てみましょう。多くの教科書ではモンシロチョウ,アゲハチョウが取り上げられています。どちらも身近な昆虫ですので,手に入れることはそれほど難しくはないでしょう。学校園にキャベツやアブラナを植えておけば,学校でも見かけるようになります。アゲハチョウは,柑橘類を植えておけばやってきます。
モンシロチョウやアゲハチョウを通して,子どもたちは,昆虫の体の仕組みやチョウの成長について学んでいきます。
モンシロチョウやアゲハチョウだけでなく,校庭ではたくさんの虫たちが見つかります。
しかし,私たちの都合に合わせて虫たちは出てきてはくれません。それぞれの虫によって生息する環境が違います。見つけるためには,虫たちのことを少し知っていなくてはなりません。
あまり意識はされませんが,季節によって見つかる昆虫も違います。昆虫を使って四季の移り変わりに気づくこともできるのです。
このように考えれば,虫たちは子どもたちに様々な面での学習を行うことができる教材ではないでしょうか。
私は,お天気のいい春の日に子どもたちと校庭を巡ります。たくさんの花が咲きハチやチョウがみられることもあります。目的のチョウがいなくても花壇に行けば何らかの昆虫が見つかります。
モンシロチョウのたまごや幼虫,アゲハチョウのたまごや幼虫もたくさん見つかりました。時には,産卵中のアゲハチョウを見つけることもできました。
クラスに戻り,それぞれのグループで見つけた事の報告会をさせます。アゲハチョウの産卵を目撃した子どもが,グループで報告します。「えっ,どこで?」「花壇の横の木の葉っぱで」というように情報の共有化が始まりました。さらに各グループからの報告会でも話題になります。「あれは,ミカンの木だ。前にミカンができていたよ。」「アゲハチョウはミカンの葉を食べると教科書に載っている。」こんな声が出てきました。
こうして,自分たちが見つけたチョウのたまごを教室に持ち帰り,飼育に取り組みます。
校庭に出る時には,その時期に見られる昆虫たちの形や草丈に注意してスケッチさせていきます。発見したときの感想も記録します。
教室で飼育する場合もスケッチをさせました。
描きにくい所は文にして記録させます。
なぜスケッチをするのか。
描くためには見ないと描けないですね。スケッチをすることによって虫の体のつくりだけでなく,食べる様子や歩く様子,跳ねる様子などを,知らないうちに観察することになるからです。虫の苦手な子どももケースの中に入っているとスケッチはできていました。何度か描いていくと慣れていく子どもが増えました。
草花は5月,6月と時が進むと背丈を伸ばします。8月頃には4倍5倍の背丈になります。4月のうちにスケッチをしておけば,4月の時点での校庭の草丈と8月の草丈を比較させることができます。3年生の目標の一つは比べる力です。自分たちが,実際に記録した物を比べることによって比べる力が育っていきます。
草花だけでなく虫もそうです。ある時期には幼虫の姿を見せ,3週間ほどの期間でチョウはサナギとなりやがて成虫へと変化します。
授業を通して"たまご・幼虫・サナギ・成虫"というチョウの変容について子どもたちに説明をしていきます。このときに自分が記録してきた"たまご・生まれたばかりの幼虫・育った幼虫・サナギ"を一匹の生き物の記録として比較しながら,その形の変化に気づかせることが大切になります。気をつけないと,"たまご・幼虫・サナギ・成虫"という過程だけ伝えてしまい「時間と共に成長していったのだ」ということに触れることを忘れてしまいます。
また,「この時期にはどんな生き物が校庭にやってくるのか」「いったいどこへ行ってしまうのか」「校庭のどこを探せば見つかるのか」たくさんの疑問が出てきました。
季節と共に変化する昆虫たちの様子をその都度スケッチしたことが,ここでも役に立ちました。出てきた疑問に対しての手がかりとなったわけです。
春から観察を続けていくとそれぞれの生き物が好む場所について子どもたちは,徐々に気づいていきました。
キリギリスを幼虫から育てたときに,草と一緒に入れていたハルジオンの花粉をキリギリスが食べていることに気づいたのは一人の子どもでした。気づいた子どももビックリです。
昆虫の特徴は,体が頭・胸・腹に分かれていることです。
始めのスケッチで脚が4本のバッタがいました。しかし,子どもたちが飼育し観察するうちに,自然と見る目が育って行きます。そして,次のスケッチを見ると,見事に6本の脚がありました。
私は,細かい部分も観察できるようになってから,昆虫の体は頭・胸・腹に分かれているんだということを伝えるようにしています。いつも子どもたちは,すんなりと理解できていました。
伊丹市昆虫館との協働
飼育してみることは,大切です。どれくらいでお腹が空くんだろうか,どれくらい食べさせればいいんだろうか,たくさんの疑問が子どもたちから出てきます。
飼育する過程で私には手に負えない質問や疑問が児童から出てきました。これらの質問や疑問は,伊丹市昆虫館に出前授業をお願いして解決しました。3年生の学習内容をお伝えし指導内容に合うプログラムも考えていきました。
飼育することによって,虫たちへの愛着も育ちました。手乗りコオロギや手乗りキリギリスが誕生することもあります。(あまりおすすめはできませんが)
育てることによって虫たちの動きを観察する力も身についていきました。
子どもたちは,昆虫の学習をする中で季節の移り変わりや周りの生き物の成長に興味を持てるようになっていた。スケッチをしたことにより,前はこうだったという強い記憶が,次に見た時の感動をより鮮明にしていった。このことによって比較から次のことを予測する基礎が培われていった。友だちとの昆虫探しによって自分の考えを伝える力も育ってきた。
たくさんの虫を描く中で,虫によって姿や形,色が違っていることに気づけた。その延長として「なぜ違っているんだろう」という疑問が生まれ,自分なりの答えを求めるようになっていた。
時間の経過によって一匹の虫の姿が変わることを比べていくこともできていった。
何よりも,自分たちが虫たちと過ごしながら問題を見つけ出し,より詳しく観察することによって答えを見つけ出そうとする姿勢がでてくるようになった。
3年生の昆虫に関する学習は,「頭・胸・腹,足が6本,サナギになるものそうでないもの」という知識の伝達だけではありません。
昆虫を育てていく中で「どんな食べ方をするんだろう」「あんな動きをしたぞ」「次は,こっちに行くのかな」という観察から予測へとつながる学習の基礎が育っていくと思います。
昆虫たちの行動は,生きていくために営まれていることであり,「食べ物を探す」「身を守る」という活動です。観察を続けることによって,「あそこに行けば,バッタやコオロギが見つかる」「ダンゴムシはこんな場所を好むから,あそこにいけば見つかるのでは」というしっかりとした根拠に基づいた予測をたてることができてきました。
この「しっかりとした根拠に基づいて自分の考えをまとめる」ことが今,まさに求められている力ではないでしょうか。
この学習は,私たちが虫たちに対して少しの興味を持ち,子どもたちに手がかりを伝えることによっていつでもどこでも取り組むことができます。
そして,「観察したことに基づいて考える一助」となっていくと確信をしています。
"一寸の虫にも五分の魂"どころか"一寸の虫にも無限の値打ち"です。