小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
理科

「電気の利用」における指導の工夫
~「発電・蓄電」,「電気の変換」について実感を伴った理解を図るための手立て~

6年 大阪市立南百済小学校 成瀬 守一

1.はじめに

平成20年に告示された学習指導要領(以下,新学習指導要領と記述)では,科学的な概念の基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図る観点から,「エネルギー」,「粒子」,「生命」,「地球」という科学の基本的な見方や概念を柱として内容の系統化が図られた。「エネルギー」については,「エネルギーの見方」,「エネルギーの変換と保存」,「エネルギー資源の有効利用」という3つの領域に分けて内容が構成された。

小学校第6学年「電気の利用」は,「エネルギーの変換と保存」,「エネルギー資源の有効利用」領域に新たに追加された単元である。主な指導内容は,「発電・蓄電」,「電気の変換(光,音,熱などへの変換)」,「電気による発熱」,「電気の利用(身の回りにある電気を利用した道具)」である。後者の2つはかつての指導内容であるが,前者の2つは全く新しい指導内容である。指導計画,学習指導案,実験器具,学習指導材などが十分整備されていないため,手探り状態で授業を進めている指導者が多いのではなかろうか。

そこで,本稿では,小学校第6学年「電気の利用」で扱う「発電・蓄電」,「電気の変換」という現象が身近に感じられるための工夫,すなわち,これらの現象について実感を伴った理解を図るための手立てについて検討する。

2. 全国学力・学習状況調査から見えてきたこと

新学習指導要領において理科教育の充実が図られたことなどを受け,平成24年の全国学力・学習状況調査では,理科が追加実施された。国語と算数・数学の調査は,「知識」と「活用」に関する2種類の問題に分けて実施されてきたが,理科の調査については,「知識」と「活用」を一体的に問う形が採用された。そのため,理科の調査問題には,日常生活や社会における特定の場面での問題や,自然の事物・現象について総合的な見方や考えを問うために分野や項目を横断した設問が見られた。TIMMSの「理科」やPISAの「科学的リテラシー」がかなり意識され ている。

中学校理科「エネルギー」区分の問題については,「新聞に書かれていたLED電球の省エネ効果」という日常の生活場面が設定され,ストーリーのように6つの設問が展開していく。生徒は理科の知識を生かし,根拠を明確にしながら設問を解決しなければならない。本問題は,小学校第6学年の単元「電気の利用」の内容関連が深く,「エネルギー」区分における小中間の系統性がよくわかる。紙面の都合上,図1には問題提起の場面のみ示したが,全問題は文部科学省のホームページに掲載されている。本問題を解答することは,単元「電気の利用」を教材研究を深めるために有効であるだけでなく,文部科学省が新学習指導要領を通して児童生徒に身に付けようとしている力を確認するためにも有効である。


図1 中学校理科「エネルギー」区分の問題

3. 単元「電気の利用」の指導計画(全12時間)

第1次 手回し発電機で発電しよう(5時間)

第2次 電気をたくわえて使おう(3時間)

第3次 電流による発熱(2時間)

第4次 電気の変換と利用(1時間)

第5次 まとめと発展(1時間)

4. 実感を伴った理解を図るための手立て

4-1 予備実験段階において

安全対策を含め円滑に実験を行うためには,予備実験が重要である。単元「電気の利用」の場合,予備実験段階で実験方法や器具・材料の仕様を把握しておく必要がある。そこで,本節では,「発電・蓄電」,「電気の変換(光,音,熱などへの変換)」について実感を伴った理解を図るために,予備実験段階で把握しておく必要がある器具・材料の特徴について述べる。

4-1-1 手回し発電機の特徴

手回し発電機は,ハンドルの回転を内部にある大小のプラスチックギアに伝え,モーターの軸を回転させることによって電気をつくりだすことができる(図2)。ハンドルの回転する向きや速さを変えれば,電流の方向や強さを変えることができる。しかし,発電機に負荷をかけた状態でハンドルを高速に回したり,急に回転方向を変えたりすると,内部のプラスチックギアやハンドルの破損につながる。中間にある小型のプラスチックギアは特に破損しやすく,ギアの山が1カ所でも折れ曲がるとハンドルがスムーズに回転しなくなる。交換用ギアを付属しているメーカーもあるが,手慣れていないと交換に時間を要する。このように,手回し発電機は故障することがあるため,児童に実験させる際には,ハンドルの回転速度などを具体的に指示する必要がある。

また,手回し発電機の仕様を事前に把握しておくことを忘れてはならない。発電機は最大電圧が12Vや15Vのものが主流のようである。この最大電圧の数値などに合わせて,接続する抵抗(豆電球,発光ダイオード,電子オルゴールなど)の仕様を確認する必要がある。仕様に合わないものを選択すれば,電球が光らなかったり,音が鳴らなかったりする。豆電球のフィラメントは,ハンドルの回し方次第で簡単に焼き切れる。


図2 手回し発電機の内部

4-1-2 発光ダイオードの特徴

発光ダイオード(以下,LEDと記述)は豆電球に比べて少ない電流で点灯するが,輝き始める最低電圧が3.0V程度必要となるため,ハンドルの回転速度が遅いと点灯しない場合がある。この最低電圧は,発光色などによっても違う。最低電圧が1.5V~3.0Vで点灯する低電圧タイプの豆電球型のLEDも普及している(図3はケニス製低電圧LEDランプ)。また,高い電圧をかけすぎると壊れる恐れがあるため,脚の部分に細工が施されたタイプのLEDもある。

LEDは消費電力が少ないため,家庭用の照明,信号機,電光掲示板,自動車のライトなど,身近なところで普及しつつある。省エネについて考えさせるためには,必要不可欠な実験材料である。


図3 低電圧LEDランプ

4-1-3 コンデンサの特徴

電気量をQ〔C:クーロン〕,電圧をV〔V:ボルト〕,電気容量をC〔F:ファラド〕とすると,Q=CVという関係式が成り立つ。例えば,耐電圧2.3Vで10Fのコンデンサを充電すると23クーロンの電気容量が得られる。1Aの電流であれば,23秒間流すことができることになる。手回し発電機や接続する抵抗の仕様書にある数値をこの関係式に当てはめれば,およその受電時間や放電時間を把握することができる。

4-2 授業場面での手立て

本節では,「発電・蓄電」,「電気の変換(光,音,熱などへの変換)」について実感を伴った理解を図るために,授業実践で工夫した手立てについて述べる。

4-2-1 小型風力発電機の活用

単元の導入では,息やうちわの風をプロペラに当てるとモーターが回転して発電する小型風力発電機(アーテック社製)を活用した。(図4)。この小型風力発電機は,一定量の電気が得られると接続されたLEDが点灯するように設計されている。そのため,発電機であるモーターが回転すると電気がつくりだされるという現象をとらえさせるためには有効である。導入後は,既習学習や生活体験で見聞きしたことのある発電方法をいろいろ児童に挙げさせた。そして,NHKの映像クリップ「自転車の発電機(54秒)」,「水じょう気で電気を起こす(52秒),「モーターは発電機(109秒)」,「ハムスターの力で発電してみると?(85秒)」を活用して,火力発電や水力発電などは発電機であるモーターを回転させることによって電気を得ているということにつなげた。


図4 小型風力発電機

4-2-2 手回し発電機の活用

小型風力発電機の導入後,児童に手回し発電機を紹介した。電気をつくりだしたり,電気を変換したりすることを体験的にとらえさせるために,手回し発電機を一人に一台準備した。まず,ハンドルを回転すると豆電球が点灯することによって,「発電」を実感させた。次に,身近にあるラジオカセットレコーダー(図5)やおもちゃ(図6)などを接続し,電気が音,運動,光に変換されることに気づかせた。自分がつくりだした電気で身近にある機器やおもちゃが働くことには,児童にとって興味深かったようである。電気が音に変換される時に,ハンドルの回転速度がばらつくと曲調が変化する様子が,特におもしろおかしかったようである。曲を聞くためにはハンドルを回し続けなければならないことに気づくと,電気をつくりだすことの大変さを実感していた。電気が安定供給されていることに感謝する児童もいた。さらに,10Wの電球を手回し発電機に接続し,点灯できるか取り組ませた(図7)。点灯しなかったため,方法を考えさせると発電機を直列につなげばよいという案が出た。その案の通り,発電機を2台つなぐと無事点灯。手回し発電機が乾電池と似た使い方ができることを知り,児童はさらに興味を深めた。なお,本実践では,手回し発電機の仕様に合った機器などを接続した。廃棄対象になったものや故障しても困らない機器を事前に集めておくとよい。

図5 音・運動への変換例

図6 運動への変換例

図7 光への変換例

4-2-3 手回し充電ラジオライトの活用

手回し充電ラジオライトは,乾電池でも,ハンドルを回転させて発電した電気でも使用することができる(図8は,テクノ・キット社製のハンディーダイナモ)。LEDライト,ラジオ,ブザー,携帯電話の充電器として使えるため,災害対策グッズとして注目されている。

実践では,まず,乾電池でLEDライト,ラジオ,ブザーを働かせ,電気の変換について想起させた。そして,乾電池をぬき,ハンドルを回転させてそれらを働かせた後,ハンドルを回すのを止めても働き続けることに注目させた。この現象について討論させると,手回し充電ラジオライトの中に電気を蓄えることができる何かが入っているという仮説を児童は導き出した。その後,コンデンサを紹介し,電気を蓄えて使う活動につなげた。


図8 手回し充電ラジオライト

4-2-4 メトロノームの活用

本実践では,ものづくりの一貫として災害対策グッズであるハンディーエコライトを組み立てるため,実験過程でのギアの破損は避けたい。先述したように,手回し発電機内部のギアが破損するとハンドルの回転がモーターの軸に伝わらなくなるためである。実験前に,例えば1秒間に1回転のペースで回すようにと回転速度について注意を促したが,なかなか回転リズムをつかむことができなかった。その時役立ったのが,メトロノームである。おもりを60,120,180の位置に合わせると,1秒間に1,2,3回転というリズムで動かすことができる。児童は,うでの動きやカチカチという音を目安にして,回転リズムをうまくつかむようになった。実験中もメトロノームを動かし続けると,ギアの破損を防ぐことができるだけでなく,実験データの安定にもつながった。

4-2-5 生命科学へのつながりを意識して授業に臨む

筆者は,本単元に限らず,生命科学へのつながりを意識して授業に臨むよう心がけている。ゲノム解読が進んで以来,地球上に生息する生物を対象とする学問となった生命科学は,医療問題,食と健康,私たち自身の心と体に加え,地球環境問題や他の生物との共生なども対象となっている。理科系分野に限らず,文化系分野にも多大な影響を与えており,諸分野の知識を統合したバランスの取れたものの見方を獲得することが求められているからである。本実践では,化石燃料を燃やして発電することが地球温暖化の一因になっていること,地震や津波が原因で起きた福島原子力発電所の事故が電気の安全確保や節電への意識を高めたことなどを特に意識した。授業では,ニュースやドキュメンタリー番組,新聞の切り抜きなどを活用し,児童が自然への畏敬の念をもつことができるように取り組んだ。

5.単元「発電と電気の利用」を終えて

単元「発電と電気の利用」を81名の児童に振り返らせ,その結果を集計すると,授業の楽しさや授業の理解度を問う質問について,9割を越える児童が,「とてもよい」,「まあよい」を合わせたプラス評価の回答をしていた。児童が本単元の授業を楽しみ,「発電と電気の利用」についての理解につなげていたことがわかる。

また,「不思議に思ったこと」,「さらに調べたいこと」,「感想」などを自由に記述させると,以下のような反応が見られた(文末の丸数字は,児童の類似した反応数)。

  • ○ 手回し発電機でする実験が楽しかった。⑲
  • ○ 災害で家が停電した時など,いろいろなところでエコライトが役立つと思った。⑥
  • ○ 発電が体験できたのですごく楽しかった。⑤
  • ○ 発電のことなど電気のことについて理解できた。⑤
  • ○ 発光ダイオードは豆電球より長くつくことがわかって勉強になった。③
  • ○ 電気は音・光・熱に変えることができ,身近で役立っていることがわかった。③

これらの反応からも,発電などの科学的な体験を楽しみながら,「発電と電気の利用」についての理解につなげていたことがわかる。また,「発電と電気の利用」で学習した内容が社会や生活に結び付いたことによって,電気を身近に感じる児童がいたこともわかる。「電気のお陰で生活が便利になっている」,「電気は働き者で人々の生活には不可欠だと思った」,「昔の人はもっと電気を大切にしていた」という反応からは,電気の大切さに気づき,感謝の気持ちを持つ児童がいたことがわかる。

また,実践後,以下のような疑問を持つ児童がいた。

  • ○ なぜ発光ダイオードは少しの電力で長く点灯するのだろうか。
  • ○ 発光ダイオードより長くつくライトはないのか?
  • ○ コンデンサの中身を見てみたい。
  • ○ コンデンサが大きいとためられる電気の量が増えるのか。②
  • ○ テレビはどういうしくみなのだろう。
  • ○ なぜモーターを回すと電気が起きるのだろうか。

これらの疑問からは,指導の中でブラックボックス化されていた発光ダイオード,コンデンサ,発電機のしくみに児童が目を向けていたことがわかる。「電磁誘導」や「半導体」など,次の発達段階での指導内容につなげていたのである。

参考・引用文献