新型コロナウイルス感染拡大によって,正に予測できない変化の時代に直面している。現行の学習指導要領では,「主体的・対話的で深い学び」を目指して数学的な見方を働かせ数学的に考えることが強調されている。しかしながら,どんな数学的な見方・考え方を働かせ,どのように考えさせることが「深い学び」につなげることができるのか不明であり,具体的なアプローチを究明することが喫緊の課題となっている。そこで,本事例では,第6学年の「拡大・縮小」の実践を通して,動的な見方を働かせ,数学的に考える力を深める姿を,以下,探究する。
図形の見方には大きく分けて,「静的な見方」と「動的な見方」の2種類がある。「静的な見方」は,図形の要素(頂点・辺・面・角)に着目した捉え方である。例えば,第2学年では,3本の直線で囲まれた形が三角形,4本の直線で囲まれた形が四角形と捉える。第3学年では,辺の相当に着目して,二等辺三角形や正三角形を捉える。「動的な見方」は,図形の動きに着目した捉え方である。第1学年「かたちづくり」では,この形は,三角をどのように動かして,「ずらす」「回す」「裏返す」などの動きを捉える。これらの見方は第5学年「合同な図形」,第6学年の「対象な図形」につながる(資料1)。第6学年の「拡大図と縮図」の動的な見方は,「伸ばす・縮める」である。ところが,基の図形と拡大図を静的に見比べるだけで「伸ばす・縮める」の動的な見方は育成できていない。そこで,「伸ばす・縮める」という操作的活動の中で,動的な見方を育成しながら拡大図と縮図の指導を行うことが大切であると考える。
図形の「動的な見方」
資料1:図形の動的な見方の例
第6学年「拡大・縮小」で働かせる動的な見方は「伸ばす・縮める」であり,初めて「拡大・縮小」で扱うものである(資料2)。
拡大・縮小の「動的な見方」
資料2:拡大・縮小の動的な見方
啓林館の教科書では,三角形の建物の写真を大きくしたり,小さくしたりすることにより形が変わっているものと変わらないものを見つけさせ,方眼の縦や横の長さの違いから,形を変えないで大きくすること(伸ばす)や小さくする(縮める)を捉えさせている(資料3)。
資料3:啓林館「拡大・縮小」の導入
これに加えてイメージ操作を伴った「動的な見方」を働かせるためには,拡大図と縮図の作図の前に,ジオボードを用いて,辺を「伸ばす・縮める」という見方を働かせて,拡大図と縮図をつくる授業が必要であると考える。
資料4:ジオボードと図形をつくる活動
資料4:ジオボードと図形をつくる活動
ジオボードとは,右のように等間隔に並んだドット上にピンがあり,そのピンに輪ゴムをかけて図形をつくるものである(資料4)。
今回の授業では,どのように2倍の拡大図をつくるのか「伸ばす・縮める」という動的な操作を通して「動的な見方」を働かせ,拡大図の深く数学的に考える思考を促したい。
(知識・技能)
(思考力・判断力・表現力)
(主体的に学習に取り組む態度)
第一次 拡大図と縮図 (3時間) | |
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第1時 | 図形間の関係を捉えて,拡大の意味を理解する。 |
第2時 | 図形間の関係を捉えて,縮小の意味を理解する。 |
第3時 | 形が同じ2つの図形の対応する辺や角の関係を理解する。 |
第二次 拡大図と縮図のつくり方 (4時間) | |
第1時 | ジオボードを使って三角形の拡大図のつくり方を考える。 |
第2時 | ジオボードを使って四角形の拡大図のつくり方を考える。【本時】 |
第3時 | ジオボードを使って三角形・四角形の縮図のつくり方を考える。 |
第4時 | 拡大図と縮図を作図する。 |
第三次 縮図の利用 (3時間) | |
第1時 | 縮図の性質を使って,地図から直接測定できない2点間の距離を求める。 |
第2時 | 練習問題を解く。 |
第3時 | たしかめをする。 |
資料5:拡大する四角形
資料5:拡大する四角形
⇒本時の(めあて)学習課題として板書に位置付ける。
T:じゃあ,今日も青のゴムのところに,同じように赤のゴムを最初にセットしましょう。
では,そこからどのように2倍の四角形ができるのかやってみましょう。
(一人ひとりが考える時間)自力解決では,主に次のような2通りの考えがでてきた。
資料6:辺をそれぞれ伸ばす考えの図
資料7:点Bを中心に拡大する考えの図
上記の2通りの考え方をした段階で,その考えを説明させた後,何が違うのかを話し合わせた。
資料8:考え2の途中の図
資料8:考え2の途中の図
資料9:対角線に注目した図
資料9:三角形2つと捉えた図
資料9:対角線に注目した図
資料9:三角形2つと捉えた図
資料10:点Bを中心に拡大した図
資料10:点Bを中心に拡大した図
資料11:拡大の中心点を変えた図
資料11:拡大の中心点を変えた図
資料12:赤い点から拡大した図
資料12:赤い点から拡大した図
今回の授業では,ジオボードで拡大図をつくることで,「伸ばす・縮める」という「動的な見方」を働かせ,拡大図の書き方を多角的に見いだす,深い考えを促すことを目的に授業を行った。拡大図の作図では,図形を静的な見方で構成要素を捉え,作図の条件を教え込みやすい。ジオボードを使って,伸ばす・縮めるという動的操作を通したこの指導方法は,各辺を2倍しながら拡大することを押さえて描くことはできるが,本来の拡大の意味「同じ形のまま伸ばす」にはつながっていない面もあるので注意する必要がある。拡大につながる「ある1点から伸ばす」という考えは,C1~C3の児童の発言のようにジオボード操作で友達のつくり方を振り返ったことによって,角度を変えないで伸ばすことが意識できたと考える。
C6・C8・C10のように,「別の点」や「どの点」からでも2倍の拡大図をつくることができるのではないかという考えは,拡大図をつくる上でも「辺を2倍する」から「ある点から頂点に向けて2倍する」という考えの方が,自由度が高く汎用性も高い深まった思考をしていると考える。
今後もどのように見方・考え方を働かせて,深い学びをつくれるのか実践していきたい。