小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

表現力を育む学習指導(小学5年「速さ」)

5年大阪市立豊仁小学校 松下 隼司

1.はじめに

算数科の目標が,学習指導要領に次のように示されている。

算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てるとともに,算数的活動の楽しさや数学的な処理のよさに気付き,進んで生活や学習に活用しようとする態度を育てる。

自分の考えを表現することは,判断する力や推論する力,帰納的に考える力や演繹的に考える力を育てることにつながると述べている。つまり,自分の考えをただ表現すればいいのではない。

(1)【『表現する活動の目的』とは】

表現する活動を通して,判断力や推論する力,帰納的な考え方や演繹的な考え方などを培うことがねらい

(2)【目指す『表現する子どもの姿』】

“表現力がたりない”という言葉は,

  • ①「なかなか手を挙げない(意欲の不足)」
  • ②「図にかいたり,具体物を操作したりして考えることが苦手(作図力,思考力の不足)」
  • ③「聞かれたことに答えられない(説明する力の不足)」
  • ④「発表場面で意見が出ない(学び合おうとする態度の不足)」

の4つの不足を指していることが多い。進んで手を挙げ,自分の考えを様々な方法で表現豊かに発表する子どもを育てたいという願いは,すべての教科に言えることである。しかし,“なぜそう考えたのか”といった根拠や説明を求められる算数の授業において,子どもたちの表現力の低下は如実に表れている。

  • ★自分なりに筋道を立てて考えを表現する姿
  • ①自ら進んで意欲的に表現する姿
  • ②図にかいたり,具体物を操作したりして表現しながら考える姿
  • ③考えたことを豊かな表現(言語,操作,図,式,絵など)を用いて説明する姿
  • ④かかわり合い,学び合おうとする姿

(3)【『算数的活動の目的』とは】

算数的活動には3つの目的があり,指導要領に示されている。(①,②,③は松下)

①~③の順番には意味がある。最も重要なのは「①基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身に付ける」ことである。それなしに算数的活動は成立しない。「習得」なくして,「活用」「探求」はできない。したがって,算数的活動をさせる際,その時間や単元で子どもにどんな力を身に付けさせるか,指導者がねらいを持っておく必要がある。

  • ①基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身に付ける。
  • ②思考力・判断力・表現力等を高める。
  • ③算数を学ぶことの楽しさや意義を実感する。

視覚情報を効果的に提示したり,教師がわざと間違ったりすることで,「考えたい」「説明したい」と学習意欲を高めたい。そして,なぜそう考えたのかを筋道を立てて説明する表現力を付けたい。

2.授業実践

(1)単元名 「速さの表し方を考えよう」(小学5年)

(2)本時のねらい

(3)指導にあたって

本時はまず,オリンピック200m走選手が走る映像を見せる。そのタイムが,50m走のスポーツテストの子どものタイムより悪いことを提示する。そして,「子どもの方がオリンピック選手より速い」と教師がわざと間違った考えを言って,子どもをゆさぶる。教師の考えに賛成か反対かを問い,反対なら教師を説得するようにうながす。
次に,「速さを比べるとき自分なら,距離を公倍数でそろえる方法か,1秒あたりの距離を求める方法か,1mあたりの時間を求める方法か,どの方法を使いたいですか?」(前時で学習)と問う。実際に自分が選んだ方法で解いてみて,なぜその方法がいいと考えたかを話し合う。話し合いを通して,それぞれの方法の良さについてなどの理解を深めるとともに,表現力を高めたい。
また,「算数的活動のねらい」について,学習指導要領で「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に身に付ける」ことが記されている。さらに,「目的意識をもって主体的に取り組む活動になるように指導する」ことの大切さについても記されている。こうした条件を満たすためには,主体的に取り組むための「知識や技能」をもっていることが必要であると考える。
また,単に速さの公式を教えるのではなく,子どもが既習事項から考えて自ら解決し,一人ひとりの考えを出し合うようにする。そして,さらによりよい解決方法はないか集団で考え合い,公式を導き出していくことが大切である。これまでに学習してきた単位量あたりの大きさの考えと関連付けて十分に行い,単位量当たりの大きさの考えをより深く理解させたい。
本時はさらに,「時速」「分速」「秒速」の定義についても学習する。そうすることによって,次時の単位変換の学習でつまずかないように,子どもの理解を十分にしたい。速さを単位時間の違いによって「時速」「分速」「秒速」と表す際や,公式化する際も教師や教科書の言葉を単に示さないようにする。子どもの発言を拾い上げながら,発問を工夫して子どもの言葉でそれらの内容が理解できるようにしたい。

(4)本時の展開

  学習活動 指導者の働きかけ 備考
つかむ
  1. 速さの意味について話し合う。

○ウサイン・ボルト選手が200mを走る映像を見せる。

ウサイン・ボルト選手は,19秒20。
みんなのスポーツテストのタイムの方が短い。ウサイン・ボルト選手より,みんなの方が走るのが速いよね。

○教師の考えに賛成か反対かどちらかに挙手させる。隣同士で理由や解決方法を話し合わさせ,発表させる。

距離が同じなら,速さを比べられるのですね。
「速さ」には,「時間」と「距離」が関係しているようですね。

  • 電子黒板,パソコン
    (映像を見ることによって,目に見えない速さについて実感できるようにする。)
  • 導入部分でもあるので,誰もが発言しやすいような聞き方をする。

距離も時間も違うときの,速さの比べ方を考えよう。(課題)

考える
  1. 問題の表を見て,速さの比べ方を考える。

○問題を提示する。

りえさんとまさこさんでは,どちらが速いでしょうか。

 距離(m)時間(秒)
りえ 50 9
まさこ 110 19

○どちらが速いと思うか,すぐに挙手させる。

○比べにくい理由を隣同士で相談,発表させる。

なぜ,どちらが速いか分かりにくいのですか?

どうしたら,どちらが速いか分かりますか?

  • いきなり問題を提示するのでなく,数字を出す順番などを工夫する。
  • 表を電子黒板に大きく映す。

○ノートに短く解決方法を書かせ,発表させる。(見通し)

○前時で学習したことをふりかえさせる。

距離を公倍数でそろえる(ひろきさん)か,1秒あたりの距離(みほさん)か,1mあたりの時間(たくみさん),どの方法を使いたいですか?

○どの考え方を選んだか挙手で確認する。

  • 友達のノートを見て参考にする時間をとる。自分が思いつかなかった考えがあれば書かせる。
  • 人数を板書する。
表現する
  1. 自分の考えをノートに書いたり,発表したりして,考えが違うものや同じものを見つける。
  • ○自分が選んだ理由を近くの人と話し合わさせる。
  • ○実際に自分が選んだ方法で速さを比べさせる。
  • ○考えを板書させ,発表させる。(話し合い)
  • ○子どもの意見を聞きながらまとめる。(まとめ)
  • 話し合い後,もう一度,どの考え方を選ぶか聞く。

速さを比べるときには,1(秒)間あたりに走った距離か,1(m)あたりにかかった時間かで考える。

深める
  1. 練習問題を解く。
  • ○教科書の問題をノートに解かせる。(1分あたりの距離で)
  • ○早く解き終わった子どもに板書させる。
 
  1. 「時速」「分速」「秒速」の定義を理解する。

1分間に進む距離で表した速さを,分速と言います。

○ノートに「Aの店は分速7m。Bの店は分速8m」と書かせる。

1秒間に進む距離で表した速さを,何速と言いますか?(秒速)

○さきほど出てきた,りえさんは「秒速約5.5m」,まさこさんは「秒速約5.78m」と表せることを教える。

1時間に進む距離で表した速さを,何と言いますか?
(時速)

  1. 身の回りで,どの速さの単位が使われているか考える。

自動車の速さの単位は,「時速」「分速」「秒速」のどれですか?(時速)

○「50」と書いた道路標識を提示して,速さの単位について説明する。

(同じように,「スピードガンで測るボールの速さの単位は?」「台風の速さの単位は?」「鳥の速さの単位は?」「エレベーターの速さの単位は?」「光の速さの単位は?」と聞く。時間があれば「はやぶさは分速どのくらい進むか?」を聞く。)

  1. 副教材の練習問題を解く。
 

【授業の様子】

導入でウサイン・ボルト選手が走る映像を映した場面

見通しをもとに子どもが問題を解き,
答えを板書している場面

ノート

身の回りの速度の単位を予想させている場面

3.成果と課題

【参考文献】