第1学年「たし算」における授業実践
~問いを立て,それを追究していく授業デザイン~
1年 熊本県大津町立室小学校 德渕 剛希
1 本単元までの学習
子どもたちは,本単元に至るまでに「20までの数」と「繰り上がりのない加法(和は最大20)」を学習してきている。
「20までの数」では,10を超える数について,「10とあと幾つ」という数の見方を基に,数を捉える学習を積んできた。(例:10と3で13)
また,「10は4と6」や「7と3で10」など,10の補数についても,繰り返し子どもたちがふれる機会を設定してきた。
2 本単元の重要性
本単元では前述の,「10とあと幾つ」と10の補数についての2つの数学的な見方を基に,計算の仕方を考えさせていくことが重要になる。それにより,繰り上がりのある加法の計算を論理的に説明することができる。そして,その見方・考え方を基に数を拡張させていくことで,全ての加法の計算が可能になっていく。
3 単元デザイン
時間 |
学習活動 |
1 |
- ① 場面絵から,加法の問題づくりをして,既習と(繰り上がりのない計算)と未習(繰り上がりのある計算)を弁別する。
|
6 |
- ②③ (1位数)+(1位数)で繰り上がりのある加法の計算で加数分解の仕方を理解する。【加数分解】
- ④ (1位数)+(1位数)で繰り上がりのある加法の計算で被加数分解の仕方を考える。【被加数分解】(本時)
- ⑤⑥ (1位数)+(1位数)の計算を加数分解と被加数分解のどちらが適しているかを考えながら,計算することができる。
- ⑦ (1位数)+(1位数)の計算をする。
|
4 |
- ⑧ 身近な生活場面から(1位数)+(1位数)の問題をつくる。
- ⑨ 自分たちがつくった問題を,友達同士で解き合う。
- ⑩⑪ 10面ダイスを用いて,加法の計算を行う。
|
4 本実践のねらい
本実践は,上記単元計画の第10・11時である。学習活動は,以下のようになる。
- ① 黒と白の10面ダイス(0~9)を2つ振って,出た2つの数を(黒+白)として,加法の式に表す。
- ② 式と計算結果を記録に残して,再びダイスを振る。
- ③ 決められた時間内で①・②を繰り返す。
本実践のねらいは2つある。
1点目は,小学校学習指導要領(平成29年告示)解説・算数編,第1学年A(2)(ウ)p83に示されている,1位数どうしの加法の計算が確実にできるようになることをねらうものである。
2点目は,確率的思考を子どもたちに経験させることである。この計算では最大値は9+9=18で,最小値は0+0=0となる。右にあるように,和が0と18になる式は1つのみになる。最も式が多くなる和は9となる。児童に「0や18はどうして出にくいのか」や「9はどうして出やすいのか」という問いをもたせ,式の数からその原因を明らかにさせていくことをねらう。
10面ダイスを用いた計算の一覧
5 授業の実際
第10時では問題場面を提示した後に,一番大きい和が「18」であること,一番小さい和が「0」であることを確認した。
その後,ダイスを振る役と計算する役をペアでさせた。ペアでそれぞれ10分間ずつ行わせた。
個人差はあるが,計算技能の定着に課題の見られた子どもでも,30問近い計算を行うことができていた。
その後,シートの記録を基に,どのような答えが出たかを話し合った。本時の冒頭で,計算の結果が0~18の間に入ることを確認していたことで,「『0』が出なかったよ。」という発言が出た。
全体で確認してみると,「0」が出たのは,37名中6名だけだった。反対に,「8」や「9」は30人以上出ていることを確認すると,「『0』は出にくいのかな?」という問いを子どもたちが立てた。第10時はこの問いが立ったところで終了した。
第10時の板書
(和が「18」も「0」と同様に出にくいが,9+8=18等の誤答によるカウントも含まれていたことが,子どもたちのシートから分かった。)
第11時は第10時の問いである「なぜこたえが『0』は出にくい?」を明らかにしていった。授業記録の詳細を以下に示す。(T:教師,C:子ども)
導 入 |
(前時で行った問題場面の確認と,最後に立てた問いを確認させた。)
|
展 開 |
- T :答えが「0」になる計算の式はどんなものがありましたか?
- C :たくさんあります。
-
↑ 問題場面とはずれがある発言だが,同様に考えている子どもが多かった。ここから,「0」になる計算は1つしかないことへ,つなげることにした。
- T :どんな式ですか?
- C :「10-10」です。
- C :「1-1」です。
- T :たくさんありそうですね。でも,どうして「0」が6人しか出なかったのでしょうか?
- C1:たし算だから,出にくいです。
- C :どういう意味ですか?
- T :あっ。先生は,C1さんが言いたいこと,ちょっと分かったよ。C1さんは,「たし算だから,『0』は出にくい」と言いました。C1さんの気持ちが分かりますか?
-
↑ C1の思考を共有させることで,問題場面を的確に捉えさせることをねらった。
- C2:この問題は,ひき算じゃなくて,たし算でした。
- C :あー。そうか。分かった。
- T :じゃあ,さっきみんなが言った計算はおかしいですか?
- C :「10-10」はおかしいです。
- T :どうしてですか?
- C :引き算だからです。
- C :0から9までしかないからです。
- T :じゃあ,「0」になる計算は何がありますか?
- C :「0+0=0」だけです。
- C3:その1つしかないから,出にくいです。
- T :ん?今,C3さんが,何を言ったか分かりました?
-
↑ 本時のねらいに迫る発言。発言を再現させ,C3の思考を共有させた。
- C :1つしかないから,出にくいと言いました。
- T :1つしかないと,出にくいですか?
- C :出にくいです。
- T :じゃあ,出やすい答えは何ですか?
-
↑ 「出にくい」という見方から,「出やすい」という見方へ転換させ,本時のねらいに迫らせることをねらった。
- C :「9」が出た人がたくさんいたよ。
- C :「9」が出やすいです。
- C4:いろんな計算で「9」になるからです。
- C5:どういうこと?
- T :C4さんが言った「いろんな計算で『9』になる」って,どういう意味ですか?
- C :「1+8」とか,たくさん式があるってことだよ。
- C :じゃあ,「8+1」もいいね。
- T :答えが「9」になる計算が他にないか,探してみましょう。
- C :全部で(式が)10個あったよ。
(その後,全ての式を書き出して,確認させた。)
- T :さっき,C3さんが言ったことに戻ってみましょう。C3さんは,「答えが『0』になる計算は1つしかないから,出にくい」と言いました。じゃあ,答えが「0」になる計算と,「9」になる計算のどちらが出やすいですか?
- C :「9」になる計算です。
- T :どうしてですか?
- C :答えが「9」になる計算は,10個もあるからです。
|
まとめ |
まとめ |
「0」になる けいさんは 1つ,「9」になる けいさんは10こ。 だから,「0」は 出にくい。 |
(最後に前時と同様に,10面ダイスで計算をさせ,和が「0」が出にくく,「9」が出やすいことを,体験させた。)
|
6 本実践の振り返り(○成果,△改善点)
- ○ 本実践のねらいである,「計算量を増やすこと」は十分に達成できた。第10時では,シートに書いたものでも学級平均を出すと30問(/10分間)を超えていた。さらに,隣のダイスの目を見て暗算している子どもも多かったことから,1時間での実際の計算量はさらに多かったといえる。
- ○ 計算をペアで行うことで,友達同士でアドバイスし合いながら計算していた。学習入門期の,1年生において,友達とともに学習する経験を積ませられた。
- ○ 式の数を基にねらいの1つである,「確率的思考」を引き出すことができた。教材として,まだ粗削りの部分もあるが,十分に可能性を見いだせたといえる。
- △ 板書上に0~18になる式を全てカード等で示すことも可能だった。そうすることで,「『0』や『18』が出にくい」,「『9』が出やすい」ことが1年生の子どもたちでも視覚的に捉えることができ,確率的な思考をさらに深めた可能性がある。