研究の問題意識のはじめは,5年生の「分数,小数,整数」の単元の学習指導でした。
提示した問題は,
「2mを3等分した一つ分の長さは何mでしょうか」
自力解決後の時点で正答率は17%に過ぎませんでした。
5年生の学習では,分数を便利な「数」として理解させる仕上げの段階だと考えますが,正答率が17%という様子から,分数の学習指導における「学習スパイラル」の見直しが必要だと感じました。
分数の意味を単なる知識としてではなく,実際の操作活動を通して実感を伴って捉えられることです。例えば,「対象物をしっかり触って手触りなどでとらえ,折った紙を開いて操作の流れを振り返ったり,折ることによってできた折り目を直線でなぞるなど主体的に働きかけたりすることによって視覚的にとらえる。」ことが大切だと考え,見直しの柱として「量から数への分数の指導」というテーマを掲げました。
研究実践の取り組みのスタートは「2年生の分数」です。小さな単元ですが,分数理解のための重要な素地学習の場です。分数や割合の学習では結果だけではなく,「何を基(もと=1)と見たか」という基にする数量を確実に押さえた見方・考え方を感覚として身に付けさせたいと考えたからです。
1年生の数(かず)との出合いは,まず身近にあるものとブロックやおはじきなどの半具体物を「一対一対応」させ,そして不要なものを捨象します。この段階で同質のもの(かぞえられるもの)であることも押さえ,半具体物と数を一対一対応させていきます。具体的な操作(実際にかぞえて数で表現する)活動を十分に行い,数量を整数に置き換えることで確実にステップを踏んで「量から数へ」と意味を捉えていきます。
分数との出合いである2年生でも,1年生で整数と出合わせたステップを踏襲し「具体物の操作によって実感(五感)を大切にして対象を自分なりに捉え,折り紙全体の量を「1」であることを前提にして,その半分の量を1/2と表現させます。「1」である「折り紙」を一人一人の操作によって1/2にし,双方を掌でなぞったり,開いて「1」と「1/2」をじっくり観察したり,折り線を直線でなぞらせたりして「感覚」を重視した取り組みを積み重ねることです。
まず,正方形の色紙を用いて「1/2を作ろう」という問題を設定しました。ここでは,1枚の折り紙を,「ぴったり」かさなるように「折る」,「切る」,「重ねる」といった操作活動を通し,「1/2」という量を,実感を伴って捉えられることができるようにすることをねらいました。このねらいに迫るために重要視したことは,基となる「1の広さ」や等分した後の「1/2の広さ」の部分を,五感を駆使してきちんと捉えさせることです。
その手だては,その広さの部分をきちんと触らせることです。等分した結果だけでなく,等分する過程を大切にするのです。
等分した後のそれぞれの広さを「基の広さの1/2」だと認識できるように,「開いて元に戻しもう一度折ったり,掌でくまなく触って比べたり,さらに折り目を直線でなぞらせたりするなど実感を伴った理解」を目指しました。また,作った「1/2の広さ」と「1/2の広さ」を合わせてもとの量である「1の広さ(基の広さ)」になることも操作活動を通して確認し,もとの大きさ(広さ)と1/2の大きさ(広さ)を関係的に見ることができるようにさせること,そしてこのことを自分なりの言葉で説明できることをねらいました。
次に,分数を感覚的にとらえ直観的に判断する力を身に付けさせるために,広さだけでなく1年生で扱った「長さや水のかさ」での学習をスパイラルに設定しました。様々な量を1/2にしたり,1/2と1/2で,もとの大きさ(1)になるということを,操作活動を通して実感させたりすることで,ある意味帰納的に理解させようと考えたのです。これも,1年生で数を理解させるために「様々な具体物を扱うことで,数が量や順序(位置)を表わすことを感覚的にもとらえさせる。」ステップを踏襲したのです。
これらの実践を行った結果,水のかさを表したこのような図の□に,「1/2」と書き入れることができる児童の割合が33%から65%に増加しました。
以上のように,私たちは2年生における分数の学習指導の在り方について,実践と検証を行ってきました。初めて分数に出会う2年生で,様々な具体的なものの量を分数で捉える活動を充分に行っておくことで,分数を数としての見方にしていく3年生以降の学習指導に向けた素地を養うことができると考えています。
この2年生の実践研究を通して見えてきたことは
「操作で何を考えさせるか,何を見つけさせるかというねらいを明確にもって指導すること」です。
3年生では,2年生の素地的活動を基に,「分数を数として見られるようになること」をねらいとしました。
つまり,分数も“整数”や“小数”と同じ感覚で捉え,扱えるようになることです。分数を数として捉えることが出来るようになるために,例えば,同一数直線上に整数や小数とともに(同じように)分数を位置付けること等が手立てとなります。
そこで,3年生の分数の学習指導において次の5点が重要であると考えました。
導入では,2年生のときの,正方形の折り紙の1/2の広さについての学習を想起させ,様々な大きさや形の色紙を,折ったり重ね合わせたり触ったりしながら,等分したり元に戻したりする操作に取り組みました。「全体」と「部分」の量(広さ)の関係について話し合った後,これらの形や大きさの1/2の広さはどれも同じかと問うと,それぞれ異なることに気づきました。それはなぜかと問うと,「もとの大きさが違うから」「もとの形が違うから」と根拠を共有しました。
本時のねらいは,1mの紙テープから1/2mや1/3mを作り出す活動を通して,1mという普遍量を基(準)とすると,それを等分して出来た1/2mや1/3mなどの長さも,1mの長さと同様に普遍量となることを知ることです。ここでも,紙テープを折って作った1/2mや1/3mを触ったり,友達と長さを比較したり,元の1mの長さに戻したりする活動を意図的に取り入れ,実感を伴った理解につながるようにしました。また,1mよりも長い紙テープを1/2や1/3の長さになるように等分したとき,それは1/2mや1/3mといえるのかを考えさせ,元の長さが1mでなければ1/2mや1/3mとは言えないことも確認しました。
第5時の問題は,「1/5mの2こ分,3こ分,4こ分の長さは,それぞれ何mですか。」です。ここでは,1mを5等分してあるテープ図を提示し,テープ図の下に数直線を板書しました。すると児童は「テープの点線の切れ目と数直線の目盛りの位置がそろっている」ことに気が付きます。
発表・検討では,「1mを5等分した1/5mの2こ分は2/5mで…」と,児童がテープ図の切れ目と数直線の目盛りをきちんと指で指し示しながら説明する姿を称賛したり,テープ図の対象の部分と数直線の目盛りの位置を触ったり,指で指し示すように促したりしながら進めました。数直線の目盛りと対応させながら「1/5m」,「2/5m」…「4/5m」と指し示させ,「最後の目盛りは…?」と問いかけると「5/5m」と声があがりました。そこで,「1/5mが5こ分で5/5m」また,等分前の基の量である「1m」になるということを全体で確かめました。
最後に,数直線のみを示した図を提示し,目盛りの位置を読んだり,「3/5mと4/5mではどちらがどれだけ長いか」という活用問題に取り組んだりしました。
このように,テープ図の切れ目と数直線の目盛りの位置を対応させること,また,分数の大小関係を数直線を用いて考えさせる活動を通して,単位分数の意識や,テープ図という具体的な量(長さ)から,数の見方へと近づけることができると考えました。
第6時では,第5時で使用したテープ図と数直線図が伸びていく様子を見せました。そこで,「今までとの違いは何か」を問うて,「1mより長い長さ」を表していることを全体で確認しました。この日の問題は「1/5mの6つ分,7つ分…の長さはそれぞれ何mですか。」です。
前時の学習を生かし,1/5mを単位分数として,そのいくつ分かで考えることができたので,1mよりも長い長さでも,子供たちは戸惑うことなく分数で表すことができました。
しかし,適用問題の2mまである数直線の目盛りを読む問題では,2mを全体と見て,2mを何等分したかで考えてしまう児童が半数近くいました。この適用問題には,テープ図が併記されてなく,数直線だけが提示された問題であったことから,まだこの段階では,分数を数として捉える見方はまだ育っていないということが分かりました。
2本のテープのうち,「3/4m」はどちらなのかを選ぶ問題です。
ここでは,「全体の1/2の長さ」と「1mの1/2の長さ」の見方や捉え方の違いを明らかにすることによって「分数を割合的に見る段階(分割分数)から,数として見る(量分数)段階」へと「分数の見方」を広げていけると考えました。
自力解決当初は,全体を等分割したアが「3/4m」であるとした児童が約半数いました。しかし,①②のステップを踏ませることにより,自分の考えを修正する児童が出てきました。
検討場面では,板書上に掲示してある図を使って,1にあたる基準量や単位分数にあたる量の部分をテープ図や数直線図を指で指し示したり,触ったりして,
「ここが1mで,まずこの1mに目をつけます。」
「この1mを4等分して,ここが1/4mとなります。」
「この1/4mが3つ分(の3倍)で,ここの3/4mになります。」
などと,テープ図や数直線と対応させて説明する姿が見られました。
アのテープは,なぜ3/4mとはいえないのか聞くと,「テープ全体を分けてしまっているから。」「アは2mを4つに分けているから。」「アのテープは1mを2つに分けているから3/2mです。」といった声があがりました。授業の最後に,全体の長さが1mではないテープを4等分して,その3つ分のところを提示し,何メートルかと問うと,児童からは「先生。基のテープの長さを教えてください。」「もとが1mじゃなきゃ3/4mとはいえないです。」といった発言がありました。「分数で表された長さを調べるには,まず1mを見つけて,1mを何等分かした一つ分が,いくつ分あるか調べるとよい。」ことを適用問題で確認し,定着を図りました。
例えば「何(いくつ)を1とみるか」に着目させる手立てといったことです。
5年生の学習によって,分数を「割合」とも「具体量や数」とも見られるようになることがゴールと考えます。
【参考文献,引用】