小学校 教科書・教材|知が啓く。教科書の啓林館
算数

統計的思考力を培う数学的活動に視点を当てた実践

6年 鳥取大学附属小学校 村上 弘樹

1 はじめに

学習指導要領改訂に伴い,本実践に該当する「Dデータの活用」では,以下の2つが重視されている。

①統計的な問題解決の方法(統計的探究プロセス)

「問題(Problem)-計画(Plan)-データ(Data)-分析(Analysis)-結論(Conclusion)」の五段階。また,導き出された結論(C)が新たな問い(仮にP’とする)や計画(P’)を生み出す統計的な探究サイクル(PPDACのサイクル)となることも期待されている。

②統計的思考力

「代表値(平均値,中央値,最頻値)などを用いて問題の結論について判断するとともに,その妥当性について批判的に考察する」思考力,判断力,表現力等を身に付けさせることがねらいとして明記されている。

本実践では,従来行われていたデータの収集,表や柱状グラフなどの選択と表現といった統計処理能力を重視する実践から,ある問いに対してどんなアプローチ,どんなデータを収集すればよいのか,さらにそれらのデータは結論を導くものとして妥当なものといえたのかといった統計的思考力を培う数学的活動に重点をおいて展開していくものである。

2 授業づくりの視点

統計的思考力を培う数学的活動を展開していくために,以下の3つの視点で授業づくりを行った。

(1)社会科学的アプローチを前提とする。

根底となる統計学の性質上,統計的思考力が培われる数学的活動とは,ある問いを解決するために,何らかの観察可能で普遍的な現象に対して法則性を見つけようとする社会科学的アプローチが前提とならなければならないと考える。ある問いに対しての個人の感想や印象といった条件によって変動してしまうような問いでは,データの特徴や傾向を読み取ることは難しい。

(2)解決に向けて探究していく一連の学習活動を設定する。

無作為に目の前に出されたデータ,あるいは手当たり次第にアンケートなどでデータを分類整理し,そこから特徴や傾向などを見いだそうとする学習活動では,データの特徴や傾向がつかめたとしても,何かの問いに直面したときに統計を用いて問題を解決する力が培われるとは考えられない。これらのことから,子供たちが問いに直面したとき,それを解決するために子供たち自らが必要なデータは何かを考え,どんな処理をすればよいのか,さらにはどういう処理をするにはどんなデータが必要であるのかを主体的に考察し,活動するような問いとそれを探究する一連の学習活動を教師は設定することが重要である。

(3)扱うデータは,子供たちが収集可能であることが望ましい。

統計的探究プロセスを意識するならば,扱うデータは教師が提示するのではなく,子供たちがその場で収集できるものが望ましいだろう。収集可能なデータとは,設定された問いによっては実験,観察から得られるものだけでなく,インターネットなどを利用した既存のものも含まれると考える。しかし,前者の場合は,収集に要する時間がかかること,後者では使用する機器や環境によって制限されることも考えられる。

3 授業の実際 《問題-計画-データ1》と《データ2-分析-結論》の2時間構成

問題場面の設定は「対策実行(真の原因への適切な対策を自らが講じ,問題を解決すること)」が可能であることを念頭におかなければならない。そこで,「よく飛ぶ紙飛行機は,AタイプとBタイプのどちらだろう」という問いを設定した。

「計画」にあたる段階では,「『よく飛ぶ紙飛行機』を調べるにはどんなデータをとればいいのかな」と問いかける。子供からは,「飛距離」と「滞空時間」の2観点が挙げられ,「無風のところじゃないといけないから体育館でしよう」「体育館は壁があるので今回は滞空時間で比べよう」といったデータ収集のための具体的な方法を提案してきた。そして,実際に体育館で紙飛行機を飛ばし,「滞空時間」の観点でデータを収集した。

データを整理するためのグラフ作成には,小学生向け学習支援ソフトウェアの表・グラフを作成するプログラムを使用した。作成の際には,作業の効率化を図るために4人を1グループとした。今回使用したプログラムでは,データを入力すると自動的に階級が2秒のグラフ(図1および図2)が作成され,表示される。しかし,グループの中には,プログラムの機能を利用して階級1秒のグラフ(図3および図4)に変更する活動も見られた。1つのグラフ作成の所要時間を当初は約5分間程度を想定していたが,グラフが完成していないグループも見られたため,グラフ作成の時間を3分間延長した。

図1 階級2秒のグラフ(Aタイプ)

図2 階級2秒のグラフ(Bタイプ)

図3 階級1秒のグラフ(Aタイプ)

図4 階級1秒のグラフ(Bタイプ)

作成したグラフからA,Bタイプのデータの特徴を考えながら比較を行った。考察の際に平均値を求めているグループもいたので,全体で共有した。グラフが完成しているグループもいたが,完成できずに分析ができないグループも見られたため,事前に教師が作成したグラフを印刷した用紙を配布した。

グラフの作成と分析の結果を全体で共有した。黒板には,階級2秒のグラフ(図1および図2)を提示した。まずAタイプとBタイプのどちらがよく飛んでいると判断したのかを尋ねると,子供の意見はAタイプに集中した。子供から出た根拠は以下の通りである。

  • 平均値がAタイプの方が高く,最高記録もAタイプが8.4秒,Bタイプは4.2秒。
  • 最頻値がどちらも2~4秒だが4秒以上にはAタイプが16機,Bタイプが7機となっている。
  • 8~10秒の階級にAタイプは2機あるがBタイプにはない。
  • 全体のまとまりがAタイプはなだらかだが,Bタイプは急(集中している)である。

図5 6年1組(Aタイプ)

図6 6年1組(Bタイプ)

続いて階級1秒のグラフと同学習内容で実践した他クラス(6年1組)のグラフ(図5および図6)を提示した。他クラスの結論を伝え,グラフも考慮しながら今回の結論は妥当なものだったかを改めて問い直した。そこで,前時を含めての活動を「問題」「計画」「データ」「分析」「結論」に捉え直し,改善点を話し合った。子供からは,以下のような意見があがった。

  • (人によって飛ばす能力が異なるので)飛ばす人を統一する。
  • 1組と2組のデータを合わせたグラフにする。
  • 投げる方法(場所,角度)を見直す。

以上の意見を参考に,もう一度問題について取り組んでいくことを確認して本時の学習を終了した。

4 実践の考察

設定した問いが興味関心のもてる内容であっただけでなく,対策実行可能であると子供自身が判断できたことも要因となり,子供たちが主体的に問題を解決しようとする姿が印象的だった。問いに対して解決の方策を子供自身がある程度見通すことができることが,数学的活動を充実させる条件であると考える。ただし,紙飛行機AとBの比較ではなく,「より遠く(長く)飛ぶ紙飛行機はどんなものか」という問いであれば,探究サイクルが成立していたと考える。

「代表値」を用いた資料の分析は,当初は既習の平均値のみでデータの特徴を捉えようとしていた子供も,単元全体の中で徐々に最頻値や最大値,最頻値などの代表値を用いた資料の分析を行う数学的活動をくり返すことで,自然と身に付けていくことができた。

「分析」の段階では,ソフトウェアによるグラフ作成を行ったが,グラフ作成の時間はグループによって技術的な差が顕著に見られた。グラフの目盛りの調整などプログラム独自の操作には十分に慣れていなかったことが原因として考えられる。本実践のようなソフトウェアを導入した数学的活動を行う際には,使用するプログラムへの個々の慣れの度合いによって数学的活動が成立するかどうかの条件かつ制約となると考える。

【参考文献】
文部科学省(2018),『小学校学習指導要領解説 算数編』
山下雅代他(2015),「データに基づく問題解決プロセスとその教材の開発―緑茶の官能データ分析を例に―」『教材学研究』第26巻,pp.23-32