本単元は,長方形を組み合わせた複雑な図形の面積や周りの長さの求め方について,長方形や正方形に帰着させながら学習を進めていく。その際,単に面積を求めるのではなく,既習の図形に帰着して求める式を簡単に表す工夫をすることを重視する。また,自他の考えについて友だちと説明し合う活動を通して,課題解決にむけて見通しをもち,言葉や数,式,図などを用いて表現する力を高めたり,みんなで学習を積み上げていこうとする意欲を高めたりすることができると考えた。
指導にあたっては,第4学年での複合図形の求積の学習を想起させ,児童の多様な考えを認めながら,より簡単な式で求めるにはどんな工夫をしていけばよいのかという課題へと導いていく。「工夫して」という言葉が何をどうすることなのかを子どもたちが明確に理解できるようにし,探求的活動を通して,簡単な図形に帰着することのよさに児童が気付いていけるようにする。解決に取り組む場面では,自分が行った解決の手続きを自分なりの言葉で表現させ,話し合いの場面で,友だちの考えのよさにふれ,よりよい表現へと高めたり,新たな気付きや発見の喜びを感得したりできるようにしていきたい。
本単元は,長方形を組み合わせた複雑な図形の面積や周りの長さの求め方について,単に計算で求めるのではなく,既習の図形に帰着して求めること,式を簡単に表す工夫をすることを重視し,以下のように授業構成の視点を設定した。
(1)図形の構成・見方・考え方を広げていくこと
(2)協同的な学習によって問題解決を図ること
工夫して階段型の図形の面積や周りの長さを求めること,また,その工夫を説明することを本時のねらいとした。
面積を求める時には,4年時の学習を活かして,いくつかの長方形に分けてその面積をあわせる求め方と大きな長方形の面積を求めて,余分なところをひく求め方が出てきた。児童からは,辺の長さに着目し,等積変形をして求めるという意見はでなかった。そこで,問題に戻り,「工夫して」という言葉に着目させた。算数で行う工夫とは,「簡単な式に表すこと」,「計算の過程を手際よくすること」,「簡単な図形(長方形や正方形など)に帰着すること」であることをおさえた。すると,辺に着目した発言は聞かれなかったが,この後,さまざまな長方形に帰着して面積を求めていった。
図1:第1時で使用した問題
その後,周りの長さを求める学習に移った。周りの長さも,階段になっているところの辺を移動させたら長方形にできそうだという意見から,実際に見通しの後,辺を移動し,長方形に帰着させていった。すると,2つの移動のさせ方が出てきた。
図2:辺を順に移動したやり方 図3:辺を平行に移動したやり方
児童の「同じ長方形ができているけど,動かし方が違う」という意見から,辺を平行に移動した方が手際よく長方形が作れるという学習のまとめにつながっていった。
(1)問題提示と見積もり
まず,前時のような階段型の図形を提示し,どのようにして周りの長さを求めたのかを確認した後,階段型の図形の左側に凹のある図形を重ねた。そして,その図形の周りの長さを工夫して求めるという問題を提示した。
見通しの段階では,「へこんだところの縦の辺を平行に移動したら長方形ができるので,長方形の周りの長さに残りの2つの辺の長さをたせばいいと思う。」という意見が出た。
図4:提示した図形
(2)自力解決の様相<以下では,3人の抽出児の様相をS1,S2,S3で表す>
S1:へこんだ部分の縦の辺だけ移動したやり方
見通しの段階で,へこんだ部分の縦の辺を動かして長方形を作り,できた長方形の長さに周りの長さに残りの2つの辺の長さをたせばいいという意見があったので,そのようにして周りの長さを求めた。
<式> 15×2+13×2+4×2=64 64cm
図5:S1児の考え方
S2:へこんだ部分の3辺を移動して長方形に帰着したやり方
問題の中の「工夫して」という言葉から,残った2本の辺を最初にできた長方形の左上と右上に移動させ,長方形を作って求めた。
<式> 19×2+13×2=64 64cm
図6:S2児の考え方
S3:へこんだ部分の3辺を平行に移動して長方形に帰着したやり方
S2児と同じように,問題の中の「工夫して」という言葉から,残った2本の辺を,最初にできた長方形の左上と左下と平行に移動させ,長方形を作って求めた。
<式> (15+17)×2=64 64cm
図7:S3児の考え方
(3)集団による話し合い
それぞれの変形の仕方と求め方を発表した後,「工夫して」という言葉に再度着目し,どのやり方がより手際よくできるのかを考え,移動のさせ方を全員で共有した。S2児のやり方もS3児のやり方もわかりやすいという意見がほとんどだったが,S2児の「S3さんのやり方の方が手際よく辺を移動していると思いました。私の長方形は辺の向きを変えて作っているけど,S3さんは辺を平行に移動しているからです。」という発言を聞き,手際よく変形することも工夫の一つであることに気付くことができた。そして,S3児の説明を再度聞きながら,自分のワークシートに描いていった。
本時の学習のまとめでは,複雑な図形であっても簡単に求められる図形(長方形や正方形)に帰着すれば簡単に周りの長さを求められることを自分たちの言葉でまとめていくようにした。言葉は違っていても考え方は共通していたので,児童の言葉を使って,辺を動かす時は平行に,そして,長方形や正方形などの簡単な図形にして求めればよいことを確認した。
資料1:説明するS3児
(4)評価問題
学習したことを活かして解決する評価問題では,へこんだ部分を2か所にし,2題提示し,自分の取り組みたい問題を選択させるようにした。選んだ問題が解決できたらもう一つの問題に取り組む児童の姿もあった。また,困った時には隣の友だちと話し合って問題を解決することができた。
図8:解決した評価問題
(5)振り返り
振り返りには学習でわかったことよりも,友だちとともに学ぶ学習について多く書かれていた。この振り返りから,友だちとともに学習することで意欲が高まったり,友だちの考えのよさに気付いたりすることができるという協同的な学びのよさを実感していることがわかる。
資料2:学習の振り返り
第2時の学習で,誰一人として,全ての辺の長さをたして計算して周りの長さを求める児童はいなかった。これは,児童の中に,「工夫して」周りの長さを求めるという意識があったからであると思われる。計算して答えを出せばいいという考え方から,図形の見方や考え方を広げることにつながったのではないかと思う。
また,自力解決の段階で,へこんだ部分の3つの辺を使って,長方形に帰着させようとした児童が見られた。その児童の説明を聞いたり,操作の仕方を見たりしながら,実際にみんなで描く作業を行ったことで,全ての辺を使って長方形を作ることができることやそのよさを感じることができたと思われる。学んだことを活かして新たな問題を作り,みんなで解決していくと,さらに見方や考え方を広げていけると感じた。
資料3:工夫して解決しようとする児童
問題を提示すると,「難しそう」と言う児童が多かった。しかし,児童にとって容易な問題であれば,みんなで問題を解決していこうとする学習にならないのではないだろうか。
また,わからない子どものつまずきや,その「わからなさ」を共有し,協同的に問題を解決することを通して,共に学ぶよさを実感することができた。自力解決の段階には,困ったことを友だちに問い,なんとか解決しようと取り組み,もっと手際のよいやり方はないか考えようと,さらに違う友だちを仲間にして一緒に解決に向かう児童の姿があった。評価問題の段階では,辺の移動のさせ方を確実に理解できていない児童が,わからないことを隣の友だちに伝え,隣の児童は自分の作業を止め,実際に動かし方を示しながら教え,共に解決に至った姿があった。
資料4:学び合う児童
また,友だちの考え方のよさに対して,自然に拍手が起きたり,自分の考え方に固執するのではなくよさを素直に認める発言をしたりする姿もあった。
協同的な学びを進めていくためにも,集団としての質を高めていくためにも,一人一人の児童に対する支援から全体に対する支援(評価)をしていくことの大切さやどのような支援(評価)をしていくことがよいのかを考えるきっかけにもなった学習であった。
今回の授業実践を通して,知識や技能を個別に獲得するような学びではなく,考えを出し合い吟味し知識を構築し技能を高めていくような学びへの転換が必要であると感じた。協同的な学びは,児童同士の対話を通した学びといえる。協同的な学びについて,矢部(2013)は,「分かりかけた知識を他者と対話し,互いの思考過程を問い合うとともに,図や式で理解し合い,互いの表現をより簡潔・明瞭な表現へ高め合い,さらに次に考えるべき課題を作り上げるという一連の学び合い」1)と定義している。
このような授業をつくるために,児童が学び合い,一人一人の学力向上とともに,困っている他者に寄り添うことのできる人間関係形成をもめざしていける協同的な学びとなる授業を構成していきたいと考える。集団で解決方法について話し合う段階だけでなく,困ったことがあったらいつでも学び合っていいという理念を児童とともに共有し,そして,よりよい学びの姿を認め,評価を返し,協同的な学びを奨励していきたいと思う。
<引用文献>
1)矢部敏昭(2013.7) 新しい時代に向けての協同的な問題解決の学習,西部地区算数教育研究会講演会資料
<参考文献>
矢部敏昭(2013.12) 数学教育学における協同的な問題解決の学習,鳥取大学地域学部紀要第10巻第2号
矢部敏昭(2015.3) 数学教育学における協同的な問題解決の学習・第2次研究,鳥取大学地域学部紀要第11巻第3号