本単元「面積」では,面積の求め方を考え,説明する活動を通して,数学的な思考力や表現力を高めることをねらいとしている。また,既習の内容を基に創造的,発展的に作り上げていくことができることを実感することもねらいとしている。本単元に関する既習事項を十分に振り返ることを大切にし,自分の考えを筋道立てて表現できるように手立てを講じていくことで,自分の考えをもつことができるようにしたいと考えた。
指導に当たっては,まず,既習である長方形を基に直角三角形の面積の求め方を考えさせる。次に,様々な三角形の面積を,同様に既習の求積方法を活用しながら求めさせる。そうして,平行四辺形や台形,ひし形等のいろいろな四角形の面積の求め方を考えさせていくようにする。このような学習の流れで進めていく中で,面積の求め方が分かっている既習の図形にどのように帰着するのか,そして,公式がどんな過程で導き出されたのかを,根拠をもって解決の見通しがもてるようにする。さらに,それらを言葉や図,数,式を用いて筋道立てて多様に考えたり,表現したりする力を身につけさせていく。また,求積に必要な長さを自ら測ったり選び出したりできるようにすることも大切にする。
単元及び毎時間の導入段階で,本時学習と直結する既習事項を,掲示物やデジタル教材(アニメーション動画)で視覚化して明確化することで,本時の図形と既習の図形との比較ができるようにした。また,児童のノートや説明に,自分の考えの根拠となる定義や定理を引き出すことができるようにした。
【三角形の求積方法の振り返り】
【平行四辺形の求積方法の振り返り】
個人思考では,作業の手順を右の3つに絞って指示することにした。こうすることで,以下の効果が期待できるようにした。
ⅰ)解決の見通しがもてる。
ⅱ)筋道立てて考える手立てとなる。
ⅲ)児童の説明の仕方のモデルを示すことにつながる。
ⅳ)練り合いの視点ができ,多様な考え方から共通するキーワードを見つけられる。
毎時間の教具として,児童が既習の図形に変形させた後,元の図形と比較しやすいように,図形の形に切り取った透明色つきのOHPシート(資料1)を配布した。児童は,それを切ったり分けたりしながら,既習の図形に変えていく操作活動を行うようにする(資料2)。こうすることで,長方形や三角形を基にして平行四辺形の面積が求められることを視覚化して捉えることができると考えた。また,それらを本時の図形と比較させることで,どうすれば変形できるのかも,具体物を通して体験でき,自分の言葉で説明する手がかりとすることができる(資料3)と考えた。
さらに,OHPシートは板書にも使用することで,それぞれの考え方が視覚化され,どのように既習の図形に変形させていったかが明確になると考えた。また,変形前と後の図形が同時に視覚化されることで,求積に必要な長さが明確になり,公式化する際にも有効であると考える。
導入場面で,本単元につながる既習事項として,「合同」についての振り返りを行った(資料4)。こうすることで,児童の考えには,長方形を対角線で分けると合同な2つの三角形ができることを図や言葉に表現することができた(資料5)。≪手立てⅠ≫
また,説明の際には,実際にOHPシートを操作しながら既習の図形へと変形させる過程を示せたことで,個の考え方が視覚化され,明確になっていった(資料6)。≪手立てⅢ≫
前時までの学習から,既習の図形に変形させることができれば,求積方法が分からない図形も求めることができることを毎時間キーワードとして大切にしていった。そうすることで,第3時や第6時のような場面では,まず,何の図形にどうすればできそうかを考えることから児童は個人思考に入ることができた。それと同時に,そのことが解決の見通しとなり,自分の考えを表現する手立てとすることができた(資料7)。≪手立てⅡ≫
集団思考の場面では,作業の手順の①と②に照らし合わせて,共通点や類似点を比較していくことで,多様な求積方法を整理することができた。そして,それらを本時学習のキーワードとして板書に残す(資料8)ことで,児童は,キーワードの言葉を使いながら,自分でめあてに対する学習のまとめを行うことができた(資料9)。≪手立てⅡ≫
公式化する際には,図や式,数,キーワードに着目して練り合いを行った。ここでも,OHPシートを操作させながら,変形後の既習の図形と本時の図形とを比較することで,求積に必要な長さはどこなのか,式の数はどの辺の長さなのかを視覚化して明確化していくことができた。≪手立てⅡと手立てⅢ≫
毎時間,前時までの既習内容を振り返る時間を設定したり,掲示物でこれまでの学習の流れを振り返っていったりしたことで,根拠をもって自分の考えを表現する児童が増えていった。さらには,「合同」や「対角線」など,算数用語を正しく使って表現する児童も増えていった。
作業の手順を絞って考えさせたり,透明のOHPシートを使用して既習の図形と本時の図形を同時に比較できるようにしたりすることで,明確な見通しをもつことができたことで,全員が個人思考の段階で,自分の考えを書くことができるようになっていった。また,児童のノートにもそれぞれの考え方が視覚化され,明確化されていった。これらのことは,自力解決を行う上で非常に有効であったと考える。
自分の考えを表現することができた児童 | 2つ以上の求積方法を考えることができた児童 | |
---|---|---|
第2時 直角三角形の求積 | 72.2% | 44.4% |
第3時 三角形の求積 | 88.9% | 61.1% |
第6時 平行四辺形の求積 | 100% | 77.8% |
第9時 台形の求積 | 100% | 61.1% |
第10時 ひし形の求積 | 100% | 83.3% |
今回の実践を通して,既習の図形にどのように帰着するのか,根拠をもち,それらを言葉や図,数,式で表現する力は身についてきたと感じる。しかし,いくつかの課題も残された。
算数科の学習では,一単位時間の学習の流れ(「つかむ」問題提示から本時の課題を立てる→「みつける」個人思考→「ねりあげる」集団思考と考え方のキーワード化→「つかう」適用問題を解く→「まとめる」学習のまとめと振り返り)を毎時間徹底していくようにしている。このことが,本単元でも,既習事項をつかって課題解決をしたり,キーワードをみつけたりすることにつながったと考える。こういった一単位時間の学習は,児童が主体的に一単位時間の学習を進めることにもつながり,算数科学習に対する意欲化にもつながり表現力を育成するためにも大切なことであると考える。
※ 参考文献
・ 小学校学習指導要領解説 算数編 平成20年8月