日々の授業の中で私が感じることがある。それは,正しい答えを求められたことに満足し,その過程にこだわりをもつ子どもが少なく,学級全体で授業を行っているのにもかかわらず,個々にそれぞれが課題を追究し,そこで思考が終了しているように感じる。その姿は事前に取ったアンケートからも読み取れる。
算数は好き | どちらでもない | 算数は嫌い |
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17人 | 3人 | 10人 |
理由 ・答えがあるから。 ・計算があっているとうれしいから。 ・理解するのは苦手だけど,できると嬉しいから。 ・人によって解き方のコツが違って,それを見つけるのがおもしろいから。 |
理由 ・答えが一つしかなく,それをはっきりと求めなければならないのが嫌だから。 ・途中の式の中で間違えると,全部間違ってしまうから。 ・面倒だから。 |
算数が好きかどうかという問いに対し,「算数が好き」という子どもの多くが「答えがあるから」と答えた。逆に「算数が嫌い」という子どもは「途中の式の中で間違えると,全部間違ってしまうから」と答えた。つまり,最終的な結果のみに注目し,結果が正しければ,それで満足をしてしまう傾向がある。どのようにその結果にたどりついたのか,自分の考えが本当に正しいのかという過程にこだわりが強くないことが分かる。
しかし,学級の中には算数が好きである理由を「人によって解き方のコツが違って,それを見つけるのがおもしろいから」と答え,解答を導き出す過程に興味を示している子もいる。このような実態をふまえ,本単元では,具体物を使った追究やグループによる話し合いなど,多様な学習活動を通して「円」という図形に対する認識が深まっていくことを願う。
そこで,次のような目指す子ども像を設定し,本単元を進めていくことにした。
・見積もりや様々な操作活動を通して,円の面積を既習の図形と関連づけて求めようとする。(関心・意欲・態度)
・円の半径と面積の関係や円の面積の求め方を考えることができる。(数学的な考え方)
・公式を使って円の面積を求めたり,円や三角形をもとにして曲線図形の面積を求めたりすることができる。(技能)
・円の面積を求める公式を理解している。(知識・理解)
<手だて1> 導入の工夫と,単元を貫く学習課題の共有化
○ 身近なピザを教材に取り上げ,大きさを正確に比べたいという,単元を貫く課題を設定する。
<手だて2> 具体物による操作活動
○ 面積を求めるにあたり,子どもの思考を助けるような操作活動を取り入れる。
<手だて3> グループ学習の設定,グループ編成の工夫
○ 個々で考えた自分の意見を,グループに伝え合い,多様な考え方を共有する。
○ 算数が苦手な子が,意欲的に取り組めるように,得意な子も含めた5,6名のグループを作る。
本単元を進めるにあたり,子どもの意欲を持続させるために「大きさを比べる」ことを追究の柱においてきた。導入においても「四角のピザ」と「丸いピザ」を比べ,どちらが大きいかを考えさせると,これまでの知識を使いながら意欲的に課題追究に取り組み,円の面積を求める公式を導き出すことができた。そのような姿を受け,本時は右のような複雑な図形のAの部分とBの部分の大きさを比べてみようと投げかけた。
多くの子どもたちはAの部分が大きいと答えたが,そこにははっきりとした根拠はなく,直感によるものだった。そこで,Aの部分の正しい面積を求めようと投げかけてみたが,前時まで求めてきた円形とは異なることで子どもたちは戸惑いを見せた。そこで「コンパスで同じ図形をかいてみよう」と提案をすると,作図する過程で,隠れている既習の図形を見つけ出し,面積を求めるために計算し始める子もいた。しかし,Aの部分と既習の円の図形を見いだすことができない子には難しい課題であったために,事前に準備をしていた「お助けカード」の存在を紹介した。「お助けカード」とは,パズル型の色板で,課題の図形から見つけ出すことができる図形を,形ごとに色別に画用紙で作成したものである。「お助けカード」を使うことで,半分ほどの子どもがAの部分の面積を求めることができた。
次に,面積を求めることができた子どもを中心として,グループでAの面積を求めるための考え方を伝え合う場を設定した。「お助けカード」を操作し,友達に伝わっているのかを確認しながら自分の考えを説明することができた。
さらに,グループ内での考え方を学級全体で伝え合う場では,自分たちのグループにはなかった新しい考え方を聞いたときに,「なるほど」という声が上がり,一つの結論(Aの部分の面積)にたどりつくために,いろいろな考え方があることに気付くことができた。
いろいろな考え方を伝え合った後,もう一度グループで面積の求め方を説明する場を設けた。授業の前半に自分の力で面積を求めることができなかった子が,友達の意見を参考にし,「お助けカード」を自分で操作して,Aの面積を求めるための考えを説明することができるようになっていた。その喜びを授業のふりかえりで「最初,グループで考えているときは分からなかったけど,S君の意見を聞いたら分かりました。」と表した。
見た目では明確に大きさの違いがなく,直接比較することができない課題を取り上げることで,明確な面積を求めて,課題を解決したいという意欲を高めることができた。また,全員同じ課題に向かわせることで,考えを共有したり,比較したりし,互いの考えを深め合うことができた。
本単元における具体物の代表は「お助けカード」である。「お助けカード」の色板を活用することで,課題解決へのヒントを自分の力で見つけ出し,自力解決へとつなげることができた。同じ形のカードが色別に多数用意されていることで,自分の使いたいカードを,必要な枚数だけ使用することができ,子どもたちが自由に活用することができた。また,全員が共通の「お助けカード」を使用することで,グループで考え方を伝え合う場面では,「お助けカード」を操作し,課題解決への過程を分かりやすく伝えることができた。さらにホワイトボードに貼り付けて操作できたため,手元で操作しながら考えることができ,子どもたちの理解を助けることができた。
個の追究の時間を設定した後に,グループでの追究の場面を設定することで,自分の考えを整理して伝えたり,友達の考えを聞いて自分の考えを深めたりすることができた。各グループに様々なレベルの学力の子を配置することで,面積を求めることができた子を中心としたグループ学習をすることができた。自分の考えに自信を持てなかった子は,友達の考えを聞くことで,自分の考えを確かなものにすることができた。さらに,グループ学習の後,全体学習をし,さらにグループ学習に戻すことで,面積を求めることができなかった子は繰り返し面積の求め方の説明を聞くことができ,最終的に自分の言葉で説明することができた。一時間の授業を通して,全員が自分の力で課題を解決し,自分の言葉で説明するという,明確な学習の成果を見せることができた。
45分の授業時間の中で,全員が共通の課題を達成するためには,十分に時間を確保することが難しく,個の追究,グループの追究,全体の追究の場面の時間設定をどのようにしたらよいのかをさらに考えていく必要があると感じた。また,グループ編成にも人数配分や学力,発言力など,かかわり合いながら考えを深めるために,まだまだ工夫が必要であると感じた。