「数学的な考え方を発揮する」とは,子どもたちが既習の知識や技能,数学的な考え方を活用し,友だちとのかかわり合いを通して,新しい考えを生み出すことができることと捉え,課題解決への原動力となる興味や関心,意欲も含むものと考えている。
本時の「いくつかの部分の平均から,全体の平均を求める」学習においても,数学的な考え方が発揮できるよう,教材や指導を工夫して授業に取り組んだ。
子どもにとっての身近な平均の一つに,「平均点」がある。本時は子どもたちが取り組んでいる漢字の小テストの平均点を教材として取り上げた。1学期と2学期の漢字小テストの平均点を7点と9点に設定し,1,2学期合わせての平均点が合格点の8点に達しているかを考える。7点と9点の平均と考えて8点を平均点と考える子どもが多いことが予想される。しかし,テストの回数が異なると8点にならない。そこで「平均点が8点にならないのはなぜか」を考える。平均を求める式や平均と個数から合計を求める式など既習事項を活用して演繹的に正しい平均点を求めたり,図を利用して工夫して平均点を求めたり,1学期と2学期のテストの回数が同じ場合しか平均点が8点にならないことを説明したりすることができる。また,「あと3回のテストで,平均点が合格点の8点に達するためにはどうすればよいか」を考えさせる。部分の平均から全体の平均を求める復習になるだけでなく,日常生活や他教科でも,見通しをもって課題解決に取り組もうとする態度を育てることができると考える。このように,演繹的な考えや特殊化の考え,図形化の考えなどを発揮して正しい平均の求め方を考えることができる教材である。
導入では,1学期と2学期のテストの回数は提示せず,平均点のみを提示して学習課題を与えることで,正しく平均を求めるために必要な条件を考えさせ,解決への見通しを持たせたい。
授業の中のひらめきやつぶやきも含め,子どもが考えたことを子どもの言葉で目に見える形(アイデアカード)にして蓄積し掲示することで,ただ答えを出すことだけでなく,カードの中に使えそうな考えはないか,ほかにいい考えはないかなど,答えにたどり着くまでの考えを意識させたい。既に存在する「数学的な考え方」という枠を子どもに与えるのではなく,子どもから数学的な考え方を生み出していきたい。
【第4時の目標】 いくつかの部分の平均から,全体の平均を求めることができる。
【学習課題をつかむ】
T:1学期と2学期の漢字小テストを合わせた平均点が8点以上の人は合格です。不合格の人は,昼休みに漢字の特訓をします。Kさんは合格でしょうか。
C:1学期の7点と2学期の9点の真ん中が8点だから,合格です。
C:9点の1点を7点に移したらちょうど8になるから,合格です。
C:(9+7)÷2=8で,平均が8点だから合格です。
T:Kさんは合格のようですね。Kさんも合格だと思ったんだけど,先生から「あなたは合格していません。」と言われました。おかしいね。どうしてかな。
C:1学期と2学期を合わせた平均点を求めるから,1学期と2学期を合わせた合計点から平均点を求めないといけないと思います。
C:例えば,1学期に10回テストをやっていて,2学期に2回テストやっていたら,平均点は8点よりも低くなると思います。
T:なるほど,Kさんは合格だと言い切れなくなってきたね。先ほどの平均の求め方は間違っているのかな。みんなで考えてみましょう。
【解決の見通しを持つ】
T:まずは,「Kさんは,なぜ不合格なのか」を考えてみましょう。何がわかれば,Kさんが不合格だということがわかるかな。
→解決への見通しを持たせる。
C:1学期と2学期のテストの回数がわかれば,わかると思います。
T:回数がわかればいいの?回数を知りたい?
C:知りたい。(多くの子どもがうなずく。)
T:なぜ?
C:さっき,○○さんも言ったけど,1学期と2学期のテストの合計点が知りたいので,合計点を求めるには,テストの回数がわからないとできないからです。
T:1学期のテストは12回でした。2学期は8回でした。これでわかるかな。考えてみよう。「平均点が8点だとおかしい」ということも言えたらいいね。
【解決の方法を考え,話し合う】
T:考えたことを発表してもらいましょう。
C:もし,1学期と2学期のテストが同じ回数だったら平均点が8点だけど,1学期の方が回数も多いし,平均点が低いので全部の平均点は8点より低くなります。
T:似た考え方の人はいますか。
C:平均点の低い1学期の回数が多いと合わせた平均点は真ん中の数の8点より小さくなるし,平均点の高い2学期の回数が多いと合わせた平均点は真ん中の数の8点より大きくなります。
T:他には。
C:7×12=84 9×8=72
84+72=156 12+8=20
156÷20=7.8
Kさんの平均点は7.8点だから不合格になります。(図1)
T:式の説明をしてくれないかな。
C:7×12は(1学期の平均)×(回数)で1学期の合計点です。9×8は2学期の合計点です。84+72は1学期と2学期の合計点になります。12+8は全部の回数で,(全部の合計点)÷(全部の回数)で平均を出しました。
C:図で考えました。
(9-7)×8=16 16÷20=0.8
7+0.8=7.8 (図2)
【課題解決を振り返る】
T:平均を正しく求めるにはどうすればいいですか。
C:平均はやっぱり合計を個数で割らないと求まらないと思います。
C:1学期と2学期を合わせた平均点を求める時は,1学期と2学期を合わせた合計点を1学期と2学期を合わせた回数で割ります。
T:最初の(9+7)÷2=8の求め方は,何がいけなかったのでしょう。
→誤答を生かして理解を深める。
C:テストの回数を考えていないところです。
C:1学期と2学期の回数が同じだったらいいけど,回数が違うときには間違いになります。
T:回数が同じだったら,使えるんだね。回数が重要なんだね。このことを図で考えるとどうなるかわかるかな。9点や7点は?
→図との関連を図り,視覚的にも捉えるようにする。
C:長方形の縦の長さです。
T:では,横の長さは?
C:回数です。
T:全体をならすためには,縦の長さだけではなく,横の長さも考えないといけないのだね。
【課題を発展させる】
T:残念ながら,Kさんは不合格です。残念ですね。しかしなんと,2学期のテストはあと3回残っています。Kさんは,残り3回のテストでどんな点を取れば,合格できるでしょうか。
C:3回とも10点を取れば合格できます。
T:それ以外だと不合格かな。班のみんなで考えてみよう。
T:考えたことを発表してもらいましょう。
C:(10点,10点,10点)と(10点,10点,9点)と(10点,9点,9点)と(10点,10点,8点)です。
T:理由は?
C:もしも,3回とも9点だったとしたら,計算したら7.95…点になるから,3回のテストで27点では不合格になるから,28点とれば合格です。
C:テストは残り3回あるから,全部で23回。平均点が8点で合格だから,8×23=184点 今までのテストの合計が156点だから184-156=28 残り3回のテストで28点とれば合格になります。
導入で,1学期と2学期のテストの回数を提示しないで学習課題を与えたことで,7点と9点の平均と考えて8点を平均点と考える子どもも多く,それが間違っていることに驚きを感じ,「なぜ違うのか」「どうすればいいのか」と意欲を持って課題に取り組む姿が見られた。また,「あと3回のテストで,平均点が合格点の8点に達するためにはどうすればよいか」という課題に対しても興味を持って取り組めていた。そのことが,グループや全体での活発な話合いにつながったと考えられる。式や図で表した自分の考えをわかりやすく伝えようとしたり,友達の考えた式や図を読み取ろうとしたりする姿が見られた。また,全体の話合いで,図を使って全体の平均を求める考え方が発表されると,視覚的に捉えることによさを感じたり,自分も図に表して考えてみようと思ったりした子どもが多かった。また,その図を使って,いくつかの部分の平均から全体の平均を求めるために重要な「個数」を視覚的に確認することができ,理解を深められたと考えられる。
ノートの感想には,友達の説明のわかりやすさに感心したことや図を使って考えてみたいということ,友達の考えとの違いや友達に説明して理解してもらえた喜びなどが書かれてあった。話合い活動を積極的に取り入れることで,自分の考えや説明を洗練したり,友達の説明を聞いて新たな考えを知ったり,生み出したりできると考える。
本時では,前時までに子どもが生み出した考えを活用することができた。(多い量を少ない量へ移す,合計=平均×個数,例えば・・・,図で表す,もし~だったらなど)また,授業後に,ある子どもが授業の中で出てきた面積図のような図の名前を尋ねてきた。特に決まった名前がないことを告げると,「平均面積図」と名付けてくれたので,早速アイデアカードに加えた。次時からの子どもたちは,考え方を式で表すだけでなく,進んで図に表し,「平均面積図」という言葉を使って説明するようになった。
今後も子どもたちの考えを拾い上げてカードに表し,それらを以後の思考過程や説明で活用していく。そして,増えたカードの中から,「より多く」「いつでも」使えるカードを子どもたちと共に精選していきたい。このようにして,自分たちで生み出した数学的な考え方は,今後も進化し続け,生きて働く力になると考える。