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算数

主体的・協働的な学びへ

5年 東京都台東区立根岸小学校 折口 慶行

1.はじめに

私が普段行っている授業では,いくつかの課題が見られた。それは,必要性も意義も感じず授業パターンの1つになっているペア・グループ活動,自分の考えをただ話すような相手意識のない説明,教師による問題解決とまとめを手伝う児童の姿である。「正解」を教え込まれる受動的な授業から,「納得解」「最適解」を児童が創る能動的な授業へ。教師がいかにして「教えるか」を中心として考えた教材研究から,児童がいかにして「学び取るか」を中心として練り上げる学習材研究へ。これらをねらいとし,自分の授業の課題を改善すべく,「ミッション学習」という名のアクティブ・ラーニングに挑戦した。

2.「ミッション学習」とは

ミッション学習の「ミッション」は,毎回の授業で児童に提示する課題を「ミッション」と呼んでいたことに由来する。ある課題解決に向けグループを組んだ子どもたちだけで解決を図り,それを共有し合う学習方法である。その学習の協働化を促すために,次の4つの手立てをとった。

・単元全体の学習をトリオ(3人グループ)だけで進めていく。

オリエンテーション以外では教師が一斉指導はせず,子どもたちがトリオの仲間との議論だけで学習を進めていく形式をとった。「自力解決→グループ→全体」という一般的な流れから,「自力解決→トリオ→自分」という流れで学習を進めた。つまり,学習を進めていくのはあくまで学習者(子ども)であるという授業観のもと,教員は個別に指導・助言を行うことに徹し,最後に"学級全体の前で教師がまとめをする"ことすらしなかった。児童が自分で「学び」を掴み取るために,教師の「指導・助言」は,最低限に抑えることを児童にも伝えた。

・課題解決集団とするためのトリオ編成

トリオのメンバーだけで学習を進めていけるように,どのトリオも学習の理解度が均等になるようにメンバー編成を行った。また,普段の児童の学習活動の様子や,人間関係についても考慮した。

・「トリオの全員が説明できること」がミッションクリアの条件

「グループ全員がミッション(課題)の解決の仕方を説明できるようになること」が与えられた課題をクリアする条件としたことで,トリオ内で考えを伝え合う必要性が生まれるようにした。「分かった」児童は,相手が分かるように言葉を選びながらゆっくり丁寧に説明をし,「分からない」児童はどこが分からないのかをはっきり相手に伝えることで,お互いに相手意識をもって学び合う活動に取り組むようにした。その際の合言葉として,「一人一人がクラス全員の応援団!」とした。

・学習の振り返り

毎時間,振り返りの時間を設定し,課題に対する振り返りができるようにした。振り返る視点を,

以上の3つと定め,この視点に沿って振り返りを行うようにした。また,児童の自立した学びを支え,学習意欲の向上に繋げるために,毎回教員が一人一人の振り返りにコメントを返した。具体的には,次回の学習のアドバイスやヒントを送ったり,学習の見通しをもたせたりすることである。

また,学習シートを用いて学習を進めた。1単位時間ごとに使用した学習シートをポートフォリオとしてまとめ,児童一人一人が自分の学びを振り返りながら学習を進められるようにした。同時に児童一人一人の見取りに活用し,次時の授業の個別指導に活用した。

3.授業の実際

(1)単元名 「図形の角 ~ミッション発令!図形の角を調べよ!~」

(2)本時の指導(5/8時間)

(3)学習の展開

①課題把握 本時のミッションについて把握する。
②見通し トリオの中で,自分が調べる□角形を分担する。
③自力解決 自分の担当する□角形のブースから,学習シートと多角形の図を取り,内角の和を求める。
④協働場面 学習シートが揃ったところで,自分の担当した□角形の内角の和とその求め方について図と言葉を用いて説明し合う。お互いに説明に納得ができたら,学習シートにサインをする。多角形の内角の和の表を完成させたら,答え合わせをする。
⑤まとめ 個人で,多角形の内角の和の求め方について自分の言葉でまとめる。早く終わった児童には,次の課題(百角形の内角の和)へ挑戦できるようにする。
⑥振り返り 本時の学習,ミッションについて振り返る。

4.成果と課題

<成果>

○学習の主体者としての意識の高まり

「主体的,協働的に児童が学ぶ」という学習スタイルにおいて,児童が自分の学習に責任をもって取り組み続けたことで,児童の学習に取り組む態度や意識が変わった。分かったつもりにならないこと,答えは教員が教えてくれるものではなくて自分たちで創っていくものだということ,そのような意識が児童の中でも芽生えた。また,自力解決において「分からない」に直面したときには,児童がお互いに助け合って学習を進めていった。児童同士が「分からない」を解決するという同じベクトルで学習に取り組んだことで,分かったときの達成感を共有する様子が振り返りから読み取ることができた。

○児童主体の活動と達成感

児童主体の学びを貫くということは,教員が覚悟して「待つ」ということである。例えば,十角形の内角の和を求めるときに,分度器を何度も使いながら調べる児童の姿があった。その児童は,試行錯誤を繰り返し,結局計測の結果に納得できない状態であったが,「三角形に分けて考えるといい」という指導を一切教員側からしなかった。しかし,試行錯誤と子ども同士の学び合いを通して,その児童は「三角形に分けて考えること」のよさにたどり着いた。つまり,一見無駄に見えてしまうような活動が,「三角形の内角の和を使うと便利だ!」という児童自身の気付きに繋がり,それが達成感へと変わっていった。

また,児童だけが説明し合う活動ではうまくいかないことが多い。「相手に自分の考えをうまく伝えられない。」「自分の考えを分かってくれない。」という振り返りも多くあった。教員が指導してしまえばそこまでだが,この"うまくいかない"活動を自覚することが,協働学習を成り立たせる基盤となっている。「この人は何を考えているのか」「相手はどこでつまずいているのか」など,相手の「分からない」を想像するところに,協働学習のキーワード「磨き合い・高め合い・支え合い」が生まれてくる。本学習を通して,相手の状況に合わせて言葉や伝え方を変えたり,自分の考え方そのものを見直したりする姿が子どもたちに見られるようになったことは,その後の学校生活を送る上でも大きな成果となった。

○学習の積み重ね

児童が自分たちで学習を進める上で,既習事項を必要とする機会が多くあった。これまでに学習したことが,本時の課題を解決するためのヒントとなるということを,児童は改めて実感することができた。また,振り返りを充実させたことで,児童は,前回の授業での反省や良かったことを基にして,次の授業に取り組むことができた。

<課題>

5.終わりに

この「ミッション学習」を通して,児童の意識とともに教師である私自身の意識も大きく変わった。それは,教師が良かれと思って指導したことが,児童同士の学び合いを妨げる可能性をもっているということに気付いたからである。普段の授業においては,児童のつまずきや分からないことが隠れてしまい,しかも「分かる」児童の考えだけを取り上げて私が一方的にまとめることが多かった。それでは,児童の学び,児童同士の学び合いが生まれるはずがない。今回のミッション学習では,児童が自分の「分からない」を自ら自覚し,その「分からない」を解決するために友達の説明を真剣に聴く姿が多く見られた。また,誰かが分からなくても自分が分かっていればよい,ということもなくなる。児童同士で学習を進めることで,学級の雰囲気も,なかよし集団から課題解決志向集団へと少しずつ変化している手応えを感じる。実際に児童の振り返りシートには,次のようなことが書いてあった。

「この学習は,"分からない"が隠せない。」
「友達が分からないと言ってくれたおかげで,自分も考えを深めることができた。」
「ミッションを重ねていくうちに,"分からない"と言えるようになってきた。」
「先生に教えてもらうより分かりやすくて,説明する力もつく。」
「グループの仲間に説明するのは大変だった。」
「算数の時間,トリオになって学習することが楽しみで,学校に来るのが楽しくなりました。」

このような子どもたちの声を目にし,耳にし,私はこれからも,児童の「主体的」「協働的」な学びをキーワードとした授業開発を行っていきたい。